表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

池田に報告したらば

 とりあえず、池田に連絡を取ってみた。


「……ということがあってな」


 何とかしてくれねぇか?

 と言いたかった。

 だが、絶望はしたくなかった。

 何とか解決してくれる可能性を消したくなかった。


 頼むと、池田はおそらく何とかしようとしてくれるだろう。

 けど、何ともできなかったら?

 何の解決にもならなかったら?

 他に頼りになる奴なんていない。

 そうなったら、もう匙を投げるほかない。


 それほどまでに、人形の、本尊のそばへの転移は、俺にとっては強烈な印象を残した。


 得体のしれないモノに、少なくとも人生を振り回されるのは勘弁願いたい。

 できればこの寺、宗教法人も。


『……そっか……。大変だったね。……磯田君の報告からしか考えられないけど……』


 なんだ?

 何か手掛かりとかあるのか?


『まず、曽我君達が人形の返却を求めてきた時、紛失とか破損とかあったらまずい、って心配してるのよね』


「お、おぉ……」


 そうだ。

 そのことも忘れてた。

 不可解な現象ばかりに気を取られ、送り付けられた時に心配していたそのことを忘れかけている。


『で、その……転移の現象を何とかしたいってことと、檀家が体験して磯田君が知らない不可解な現象により、檀家さんに損害を生じた時の、所属僧侶としての責任問題、よね?』


「お、お、うん。そうだ」


 なんか、問題点を明確にしてくれるのは、まぁ、それだけでもありがたい。


『それと、思うんだけど』


「うん」


『結果的に言えば、檀家さんの願い事が叶ったんだよね?』


 宝くじの高額当選の件だな?


「あ、あぁ。そういうことだな」


『でも、宝くじを買った後の出来事って言ってたわよね。ということは……願い事を叶える人形、と誤解されるかもしれない、のよね』


「誤解?」


『宝くじを買う前なら、願い事を叶える人形と言えるかもしれない。でも買った後だから、当選する予告を伝えた現象とも言えるんじゃない?』


 そうだ。

 俺もそうは思った。

 だが、予告する人形なのに、願望を叶える人形と思い込まれたら、確かにとんでもない誤解だ。

 望まない結果を予告されたとき、期待を裏切られたと受け止められかねない。


『しかも……万が一盗難の被害が出たら……』


「願い事を叶えてくれなかった腹いせに、人形を壊す……」


『……まぁでもこれは考えすぎかもね。どこに置いても、本堂に戻ってくるんでしょ?』


「あ……」


 そうだ。

 どこに持って行っても、本尊のそばにいつの間にか移動している。

 盗み出されても、戻ってくる可能性は……。


 ……ないとは言えない。

 だって、今まで老いた場所は、この建物のどこかだったから。

 屋外に持ち出されたらどうなるか……。


『で、本堂の……ご本尊のそばに移動する理由ってのも考えたんだけど……』


 へ?

 何か、考察する材料があるのか?


『……まるで、仏様のそばにいたいって感じしない? 何でそんなとこに置いていくんだ、仏様のそばにいたいのに、って』


「……そこまで考える余裕は……なかったな」


 なんだそれは。

 まるで小さい子供のおねだりみたいじゃないか。

 守り神の貫禄というか……そんなの、どこにもないっつーか……。


『で、思い返してほしいのは、曽我君の奥さんのフランス人形の件』


 え?

 そこまで話、さかのぼる?


『フランス人形を送ったはずが、市松人形にすり替わってた』


「あ、あぁ」


『誰がすり替えたのかしらね』


 え?

 質問されるとは思わなかった。

 つか、考えたことがなかった。

 超常現象、の一言で済ませられるんじゃねぇの?


「……そこに疑問なんて、思いもしなかったんだが……」


『じゃあ考えてみて? 超常現象だから何でもあり、かもしれないけどさ』


 人の心読むの止めてくれない?

 ちょっとビビった。


「考えてみて……って……。俺、そこまで頭良くねぇよ」


 電話の最中に、聴講させるような質問してくる方もしてくる方だよ。

 電話代、かかっちまうだろ。


『……高校時代の磯田君は、確かに成績は振るわなかったけど、こういうことは案外、いろいろ考えられるんじゃない? 超常現象に理由はないって思いこむ人も多いけど、磯田君はそうじゃないよね。あ、買い被りじゃないから』


「……決め付けてんじゃねぇよ。高校時代は接点なんか殆どなかっただろ。曽我にしてもそうだし、美香さんだって……」


『でも、美香の幽霊の姿を見て、驚きもせず怖がりもせず、普通に対応してくれてた』


「あのなぁ……」


 危害があるかどうか。

 俺が重視してるとこはそこだ。

 檀家に危害が加わるようなら、避けて通らなきゃならない。

 けど、危害がないなら、対応する余裕はある。

 美香さんの件だって、俺や遺族に危害がないように見えた。

 だから対応できた。

 ただそれだけだ。

 幽霊だからコミュニケーションは取れない、なんて思い込みなんかより、俺に訊ねてきた幽霊という現実の方が大事に決まってるだろ。

 それを無視して読経続けてもよかったが、読経しながらコミュニケーションが取れちまったんだから。


 ……頭の良し悪しの話じゃない。


『物事を正しく受けとれるかどうかって考える人っているんだけど、正確に受け取れるかどうかって考える人はほとんどいないのよ。定規にあてはめたがるからね。安心したいがために。だから、自分の安心を前提に、結論を先に決めて、その結論が正しいように理屈を後付けするの。だから矛盾とかが出てきて、そこを追及されると怒る、って人が多いのよ』


 ……まぁ、よくいるよな。

 そういうやつ、うんざりするわ。


『でも磯田君はそんなタイプじゃないんじゃない? 美香の件で、初めて磯田君と会話したりしたけど、それだけでも、何となく、そんなタイプじゃないって分かったよ』


「……決め付けてんじゃねぇよ」


『決め付けてないわよ? そう思っただけ。そしてそのあたしの思いは正確かなーって。答え合わせをちらっとしてみたかったってとこかな」


 答えは俺だけが知っている、か?

 つか、俺に関心持たれてもな。


『話がズレちゃったわね。正解じゃなくてもいいわ。誰がすり替えたのかしらね』


 ……話が飛び過ぎだ。

 戻すのも無理やりすぎだぞ、おい。


「……まず、曽我じゃない。あいつに市松人形が届いたって連絡したら驚いてたしな。で、フランス人形送付としては未遂で終わったが、その時に奥さんは、曽我がそうするつもりだったってことを初めて知った。ということは……」


『うん。誰がすり替えたかは、現時点で不明。でも……理由なんか何でもありな超常現象であるなら話は別よ』


「……まさか……」


 送られそうになったフランス人形?


『そのまさかよ』


 おいおい。

 意志をもつ人形が、何かの作業を、なんて誰が……。


 あ……。

 市松人形がいたか。


『フランス人形と敵対していた、と考えたらどうかしら?』


 完全なファンタジーな物語じゃねぇか。

 誰が信じるんだそんなの。


 ……いや。

 今は、誰にでも信じてもらわなきゃならない話にする必要はないのか。

 俺と池田の二人が納得して進められる話なら。


『結果として、フランス人形の思惑通り、市松人形とすり替わることができた』


「……曽我から離れるなんて夢にも思わなかった市松人形が、箱詰めにされて……」


『そういうことね。で、ご本尊のそばにいたがる現状に理由がつく事情も、何となく見えてこない?』


 ……無理やり曽我と離れ離れにさせられた市松人形。

 しかもその目的地は、見知らぬ……。

 いや、見知らぬ場所ってわけでもないのか。

 ……まぁ、地元の町中を見て回って歩いたことがなければ、ピンポイント的には見知らぬ場所に連れてこられた、とは言えるが……。


『そこに、実家が更地に、実家の家族が消息不明ってのも関わってくる、とは考えられない?』


「……はい?」


 池田の奴、ホント、俺を買いかぶり過ぎじゃねぇ?

 思考が追いつかねぇよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ