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怪奇現象を押し付けられた僧侶なんだが、どうしたらいい?  作者: 網野ホウ


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20/20

最終話:諦めて、受け入れることにしました

「……ということがあってな」


 またも池田からの電話は唐突で。

 まぁ池田からでなくても、電話が鳴るのはいつも唐突だ。


 その池田からの連絡ついでに今回の件を報告してみる。

 今までは予知、予告を、人形を見る者に報せるだけだったが、即効性のある行動を起こしたのは初めてのケース。

 そういうことも起きた、という情報は、曽我の捜索にも役に立つかも分からんということで。


『そうなんだ。そのお孫さんは、人形の変化には気付かなかったのかな?』


「祖母の話によると、法要中はずっとうつむいてたらしい。変化を見せたとしても気付かなかったろうな」


『そう……』


 と池田はそこで言葉を止める。

 何やら思案しているらしい。


「まぁ現象が起きてる場面で、そばにいても気付く人と気付かない人がいるってのも不思議ではあるんだがな。お前もそうだったし」


『え? なにそれ』


「いや、あの現象、何の意味があるのかそん時は分かんなかったから、言ったところで、それこそ何それ案件だったろうし。現象が起きてその現状が維持されてたならともかく、元に戻ったんだから俺には何とも」


『だから何の話?』


 人形の顔が実在の人物に変わって、元に戻ったという話、話し相手が普通の人なら、一笑に付されてそれで終わりな体験談だ。

 その証拠なんてないから、証明もできない。

 池田なら疑うことはないだろうが、信じられないなんて言われてしまったら、それもそこまで。

 そこまでの話なら、喋らなくても同じではあるが、一応話をしてみた。


『どうしてその時言わなかったのよ! まさかそんな現象が私の隣で起きてたなんて夢にも思ってなかったわよ!』


 逆ギレか?


「言ったところでどうにかなるのか? ましてや、それが、美香と会って話をした夢の話の予知だなんて、お前からの連絡がなきゃ分からんかった、その程度の話だぞ? 俺から切り出すことがなければ、日常でこんなことがありましたってレベルの話だろ? それ」


『そうかもしれないけどっ』


 なんかグダグダになってんな。


「よくよく考えろよ。俺の体験談は、その場限りの話だぜ? 今言った通り、言わなきゃ知られることのなかった現象の事実だ。けど今回は違う。人形が介入したんだからな。深川さんの孫は、法要の会場で、人形と同じ場所にいた、という接点がある。が、引きこもりになった孫のクラスメイトと人形に接点はない。今までの事案と比べて、ある意味異質だってことだ。檀家さんらにネガティブな方向でアクティブになられても困るんだよ」


『……それはないんじゃない? 前に話してくれた、交通事故の未遂の件、あったじゃない。非があるなら教訓になるようなことをした、とも言えないんじゃない?』


 交通事故に遭う寸前で、檀家さんが自分の子供を抑えて未然に防いだってアレか?

 非があるって、どこに非があるというのか。


『普段から交通安全については、交通ルールを守るだけだった。相手側のイレギュラーへのケアは全く考えてなかった。それを考えさせた、という意味でならどう?』


 確かにそうは言えなくはないが、交通ルールも当てにならん、という思考になりそうだな。


『いずれ、今のところは檀家さんの身を守り続けている、とは言えるでしょ。磯田君のお寺の守り神ってとこじゃない?』


 ……ちょっと待て。

 守り神なら、最初の持ち主の時から守り神を通したらどうだったんだ?


「曽我の行方不明の件はどうなんだよ。あいつが市松人形を手離した後だから、守り切れなかったとは言えなくはないが……」


『それについては、逆だったんじゃないかなぁ、と思うのよね』


「逆?」


『うん。前にあたし、フランス人形が箱の中から抜け出して市松人形を身代わりにした、みたいなこと言ったじゃない?』


 確かに言ったな。

 霊能力者じゃなかったら、創造力豊かなファンタジーな物語、と思って聞いてた話だったから覚えてる。


『フランス人形を、市松人形が押しのけて、磯田君のところにやってきた、という見方もできるなーって』


「……本来の持ち主から逃げ出したってこと?」


『うん』


 守り神の職場放棄。

 何そのパワーワード。


「守らなきゃならない相手から逃げ出した? 『もうやだこんな職場。やめちゃう!』とでも?」


 くだらない妄想話に付き合う感じでおちゃらけたのだが……。


『そうね。奥さんが所持してたフランス人形にも、多少のそんな力があったから、代わりにやってもらおう、みたいな?』


 代わりにやってもらう……。

 そして、自分はここにいるのが嫌だから……。

 いや、それは、曽我本人、あるいは曽我家の方が異常ってことなんじゃないか?

 その内情とかは分からんが。


『市松人形が力を尽くした結果、磯田君の周りでは、いろんな、まぁいいことが起こってる、とは言えるわよね?」


 まぁそうだな。

 人形の現象にまつわることでは、利することはいろいろあった。


『曽我君のところでは、それがなかった、のかもしれなかったのよね』


「なかった? 曽我の身に幸運なことを引き起こそうとしてもできなかった、てことでいいのか?」


『それ以前の段階よ』


 その以前、とは?


『何かやらかしたのか分からないけど、業が深い、と。深すぎて、一般人の普段の日常の生活を維持させるのが精一杯、てとこだったのかもね』


 なんだそりゃ。

 守り神の力をもってしても、相当高い幸運を与えた結果、辛うじて日常を維持するのがやっとって。

 一体何やらかしたんだよ、曽我のご先祖さん達よお。


『その業の深さに守り神も根をあげて、逃げだすチャンスを逃がすものかとフランス人形を押しのけて』


 その結果が現状か。

 俺がかわいそすぎるだろ。

 こっちはいつ起きるか分からん、心臓に悪い怪奇現象と引き換えにしてまで、桁違いの幸運が欲しいとは思わんわ。


『きっと本来の持ち主である曽我家の人達が取り返しに来ても、多分磯田君のお寺に戻ってきてくれると思うよ』


 ちょっ。

 戻ってきて『くれる』って。

 言い方!


「つまり、人形は寺を自分の住処にした……と?」


『そういうことね』


 怪奇現象が頻繁に起きる寺……。

 心霊スポットになる、なんてのは勘弁してほしいんだが?

 何とかしてくれないか?


『現象を他の人に見せたくなければ、隠せばいいんじゃない?』


「隠す? 隠したって無駄だ。本尊のそばに移動しちまう」


『そうじゃなくて』


 池田の言うことには、宮殿に置かれている脇侍の菩薩像や高坏などで、檀家さんから見えないようにさえすれば問題ないだろう、とのこと。

 いずれ曽我の元に戻すつもりでいた俺の頭では思いつかなかったことだ。

 そこまで配慮するってことは、完全に寺の什物にするってことだから。


「……まぁ、考えとくよ」


『んー、そうした方が確実に問題はなくなると思うのよね。それでこの件は解決とするしかないわよ』


 ……あとは、人形の破損に気を付けなければ、だな。

 宮殿の中に置いても違和感のない、落下物に対してもびくともしない箱状の物があれば、その心配はないか。


 なんか、人形に仕える身って感じがしてやなんだけど?

 こんな性格や思考だが、それでも仏様に仕える身だからな。

 まぁ、現状を受け止めるよりほか、手はないか。


 ※※※※※ ※※※※※


 適当な箱を見つけ、市松人形からは本尊の姿だけを見せるように、また、檀家さんからも人形を見せることがないように配置して、怪奇現象が起きても誰からも目撃されることがないようにできた。

 にしても、仏様を一番信仰しているのが市松人形ってのが、この寺に所属している僧としては、すごく複雑な気分である。


 池田からは、連絡が入るペースが多くなったような気がする。

 暇ができたらまた遊びに来る、とのこと。

 その時が非常に楽しみなんだそうだ。


 来たって、二人で盛り上がる話題なんか一つもないんだがなぁ。


 了


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― 新着の感想 ―
[良い点] 暑さが一段落した9月上旬 ようやくちょっと怖い話を再開 暑すぎて静かに過ごすセミのようにw 読み終わりました。 15話からが特に良かったです。
[良い点] 何も話さなくても居心地のよさはいいものだと思う。 [一言] 曽我家もう族滅してる感じなのかな。突発的に資金が必要になり実家取り壊し更地にして売却、売却後一家が元の土地から離れた場所でまとめ…
[一言] 曽我どこ行ったww 二人ともスッキリしない終わりだったな。
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