コンビニの生き霊 Ⅰ
ウィーン
「イラッシャイマセー」
アルバイト店員の覇気のない声が聞こえる。
今夜もコンビニに入る。夕食を買うためである。
大体いつもカップラーメンや弁当、レトルト料理を買っていく。
男女平等の社会とはいえやはり女は自炊ぐらい出来た方がいいのだろう。
でも私は残業22時までが普通の、いわゆるブラック企業のOL。
自炊出来ないのは仕方ないと自分を許していた。
自分を許す、というのは私の数少ない長所の一つだ。
悪く言えば自分に甘い、というのだろうか。
でも私はこれのおかげでいつも平常心を保っていられたような気がする。
「弁当も酒も買ったし、あとはお菓子が欲しいかなー。」
私が菓子の陳列棚に移動したときだった。
『そのお菓子好きなんですね、僕も好きなんですよ。』
「え、だr....」
振り返るとそこには身長が少し高めの若い青年がいた。
私は一瞬、"普通の人間”に話しかけられたと思っていた。
だが、"話しかけられていた”のではなかった。
普通は耳から音を受け取って脳に伝わるが、この声(?)は脳に直接響いてきた。テレパシーというやつなのか。言葉では説明し難いが、音はなく、本当に相手の気持ちが脳に響き、共有できるのような感じだ。以下、テレパシーを『』とする。
『僕のことか見えるんですか!?』
私は相手に意思を伝えようと念じてみた。
『見えてますよ』
『見えるんですね!嬉しいな。』
どうやら伝わったらしい。
『あなたは何者ですか?』
『僕は生き霊です。幽体離脱した魂だけの者です。』
オカルトを信じていない私はこんな言葉を言われたら、きっと私は「はぁ?」と返していただろう。
だが今回は不思議な方法で会話(?)してるもんだから生き霊と言われても信じざるを得なかった。
『僕は今、昏睡状態なんですよ。植物人間ってやつかな。それで、もう一度歩きたいと念じたら幽体離脱しちゃったんですよね。』
『じゃあ今は...?』
『はい、今は池橋総合病院に肉体があります。』
そう言いながら彼は、手を伸ばした。その手は障害物を貫通し、無いものとして扱われているようだった。
『ほんとに生き霊なんですね』
『はい、あとは浮くこともできますよ。』
彼は宙に舞い上がり、上がった所で停止して見せた。
『霊って多分、物質じゃないんですよね。化学的には存在していない。だから、重力も効かないんです。』
『じゃあ、霊ってなんなんですか?』
『僕が思うには、恐らく幻だと思っています。見えても、実際にはないんですよ。』
『なんだか、悲しいですね』
『でも、生き霊として生きるのも割と楽しいですよ。しかもあなたみたいな会話できる人とも出会えたし。』
『生き霊は生きてる、って言うんですか...?』
『細かいことは気にしないでください!あと、もうそろそろお別れですね。生き霊として活動する時間は限られていて、勝手に肉体に戻ってしまうんですよ。』
『まぁ、実際の姿が、病院で寝ている姿なので仕方がないんですけどね。』
そう言うと、彼の体はどんどん透けていき、消えてしまった。
きっと私は長い残業で疲れているんだろう。
やさっきの出来事は疲れていた幻覚症状だと思うのが1番化学的だった。
一応、店員にも自分の意思を念じてみたが、テレパシーは伝わってないらしかった。
生き霊、というテーマの物語ですが霊に関して詳しくないので、間違っていた所があったらすみません。