第8話 ボアヴァルカンの死体売却と、その頃のインセインスレイヤー(追放した側視点)
「あの……私の見間違えでなければ、それってボアヴァルカンの死体ですよね?」
受付嬢はおそるおそる死体を指差し、震える声でそう聞いてきた。
「そうですよ」
「そうですよって……なんでそんな、事もなげに答えるんですか!」
受付嬢は、頭を抱えてしまった。
「ボアヴァルカン、Bランク冒険者のパーティーが手こずるくらい強力な魔物ですよ? そんなのを倒せるのに、なんでFランクの依頼なんか受けてるんですか……」
「これ、たまたま倒せただけなんですよ。王都から馬車で向かってる途中、ボアヴァルカンと遭遇したんですが……向こうが俺に気づいてなかったので、加速させた馬車で轢きにいったんです。そしたら何とか倒せました」
「ちょっと言ってることがよく分かりません……」
受付嬢は、今までで一番呆れたような声のトーンで、そう言い放った。
そんな会話をしていると……解体作業員と思われる人達が、ギルドの中に駆けつけてきた。
それまでしきりに首を傾げていた受付嬢だったが、解体作業員が到着すると、受付嬢は人が変わったようにテキパキと指示をだしていく。
指示が出されると、ボアヴァルカンの死体は解体作業員によって、すぐさま外へと運ばれていった。
「えっと……買取り価格は解体してから決めるので、お支払いは明日までお待ちくださいね」
その様子を見送りつつ。
受付嬢は、言おうとしていたことをようやく思い出したと言わんばかりにそう言った。
「分かりました」
俺はそう言って、受付嬢に提示していたギルドカードを返却してもらった。
別に、報酬が貰えるのは明日になるのは何の問題も無い。
昨日マリーさんに貰った50万ジャーチはまだ手つかずな上に、今日の薬草分の稼ぎもあるからな。
他にすることもなくなったので、俺はギルドの建物を後にした。
そして今日の午後は、適当に街を散策してみることに決めた。
まだ昼過ぎなので、もう一つ依頼を受けてみても良かったのだが……俺、まだこの街に来て日が浅いからな。
これから住む街について色々知っていくのも、大切なことだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇(インセインスレイヤー視点)
ロイルがキリア草の採取に勤しんでいた頃。
【インセインスレイヤー】の三人は、不生鳥の出現場所に向かっていた。
「サクッと倒して帰ろうぜ」
「当然よ! 私たちの力なら、絶対に楽勝なんだから」
「同感ですー」
ライザーたち三人は、口々にそんなことを言いながら……軽快な足取りで、森の中を進んでいった。
そして……しばらくして。
「あ、あれじゃね?」
そう言ってライザーが指差した先には……体中の至るところから骨が突き出している、全身紫の巨大な鳥がいた。
今回の彼らのターゲット——不生鳥だ。
別にあれは、怪我をしているわけではない。
アンデッド系の魔物は、もともとああいう見た目なのだ。
その証拠に……不生鳥は三人の存在に気づくと、羽をバサリと広げて優雅に空に舞い上がった。
「そうはさせねえよ!」
それを見て……まずはライザーが剣を抜き、魔法で脚力を強化しながら飛び上がった。
一度の跳躍で、不生鳥と同じ高度に到達したかと思うと——
「グラビティスラッシュ!」
ライザーは上段から剣を振り下ろし、重力を伴う斬撃で不生鳥を地面に叩きつけた。
「次は私が。リキッドニトロレーザー」
そしてすかさず……今度は魔導士のリナが、杖から極低温高圧の液体窒素を射出し、不生鳥を一刀両断した。
これにより、不生鳥は瀕死の状態となった。
「トドメよ! エンジェルキャノン!」
最後に、ローズがそう唱えると……地面から聖なる光の噴火が起こり不生鳥は消滅した。
これで、決着はついた。
三人の誰もが、そう確信した。
——しかし。
「な、あれは!」
「なんでまだ生きてんの!?」
「そ、そんなはずが……」
数秒後。
三人の目の前に、どこからともなく無傷の不生鳥が姿を現した。
そう。実は、不生鳥はエンジェルキャノンで浄化されきっておらず……全回復した状態で、蘇生してしまったのだ。
これで、戦いはまた振り出しに戻った。
「なんの! グラビティスラッシュ!」
「追撃です! 無限真空刃!」
すかさずライザーとリナが攻撃を開始する。
だが……今度は、別の問題が発生した。
「エンジェ……って、あれ?」
今回は、ローズがエンジェルキャノンを放つ前に、リナの攻撃で不生鳥が絶命してしまったのだ。
もしリナの杖に、ロイルが『アンデッドキラー』を付与していたら……これで、全く問題なく決着がついていたところだった。
だが今回、リナの杖にはその付与がかかっていない。
それ故に……不生鳥は、また何事も無かったかのように蘇生するのだった。
「ちょっと! 勝手にトドメを刺さないでよ!」
「最初に浄化に失敗した人に言われたくないですー」
パーティーの雰囲気は次第に険悪になっていく。
そんな中……とうとう、致命的な事態が発生してしまったのだった。
「……痛ってえ!」
不生鳥の得意技、「骨の矢」が、ライザーの膝に突き刺さってしまったのだ。
ライザーが戦えなければ、このパーティーは前線を維持することができない。
彼らはここで、撤退を余儀なくされた。
この日。
ロイルが加入して以来、全戦全勝が当たり前となっていた【インセインスレイヤー】は……数年ぶりの敗北を味わうことになったのだった。