第7話 初めての薬草採取は大成功だった
何本かの木の下を巡り、ある程度キリア草を集めた後……俺は一旦全てのキリア草を魔法袋から出し、地面に置いた。
仕上げは……この付与だな。
「『ATPブースト』付与」
俺は草の山全体に対し、薬草が持つエネルギー量を上昇させる付与を施した。
この付与は、薬草の生命力を格段に強化する。
この段階を踏まえるか否かで……同じ量の薬草を使って作ったポーションでも、効果に歴然とした差が出るのだ。
「今度こそパンパンだしな……。帰ろう」
そう呟きつつ、俺は付与を終えた薬草を無理やり魔法袋の中に押し込んだ。
まだ昼過ぎだが……これ以上採取したところで、持ち帰ることができないからな。
俺は元来た道を辿り、街に帰還することに決めた。
◇
冒険者ギルドにて。
まず俺は、依頼達成の方から処理してもらうことにした。
「依頼分のキリア草、採取完了です」
そう言って俺は、魔法袋に詰めていたキリア草全てをカウンターの上に出した。
「……な、なんですかこの量は!」
すると……受付嬢は変な叫び声を上げ、のけ反ってしまった。
……あれ、もしかして持ち帰りすぎたか?
まあ俺の魔法袋の内部は時間が止まっているので、持ち帰り過ぎなら小出しにすればいいだけの話だが……。
「一体どんな手を使ったら、たった半日でこの量が集まるんですか! ……もしかして、ドクキリア草が混入してたりしませんよね?」
と思ったが、どうやら俺は、ドクキリア草を混入させて計上しようとしていると疑われているだけのようだった。
「そんなことはありませんよ」
元ドクキリア草なら入ってるが、と喉元まで出かかったが、説明が面倒臭くなりそうだったのでその言葉は飲み込んだ。
「良かったら、鑑定してもらって結構ですよ?」
これは俺がまだ駆け出しの頃、とある冒険者から聞いた話だが……ギルドには、冒険者が採取した薬草が正しいものかを調べる専門の職員がいるらしい。
もしそうなら、口でゴチャゴチャ説明するより、そういった人に見てもらった方が話は早いはずだ。
と思ったので、俺は受付嬢にそう伝えた。
「いいですが……ドクキリア草が見つかった場合、違約金は結構しますよ?」
受付嬢はそう言って、俺に考え直すよう促した。
だが当然、俺が「やっぱ辞める」などと言うはずもない。
遺伝子組み換えをかけたドクキリア草は正真正銘のキリア草なので、鑑定で弾かれることはないからな。
もしドクキリア草判定など出してしまおうもんなら……それこそ、付与術師失格もいいところだ。
「大丈夫です」
俺がそう言うと、受付嬢は不服そうな表情をしながらも、キリア草の山を奥に運んだ。
それから待つこと約十分。
受付嬢は、小走りでカウンターに戻って来たかと思うと……俺の目の前で、深々と頭を下げた。
「疑って申し訳ございません! 頂いた草、ちゃんと全部キリア草でした!」
そして俺が持ち帰った薬草の山は、無事キリア草だと認められた。
「しかもウチの職員曰く、あなたのキリア草は全て見たことも無い品質なのだそうです! ホント一体どうやったら、こんな芸当が可能なんですか?」
そして受付嬢は、興味深そうにそう聞いてきた。
そっちは……間違いなく、『ATPブースト』の影響だな。
「まあ、付与術でちょちょっとね……」
「私が知ってる付与術は、そんなデタラメな技ではなかったと思うのですが……」
受付嬢は、益々疑問が深まってしまったようだった。
やったことといえば、「ザ・付与術」なことばかりだと思うんだがな……。
「こちらが今回の報酬です。本来、キリア草の買取り価格は一束百ジャーチなのですが……今回納品頂いた物に関しては、その品質を考慮し一束五百ジャーチで買い取る事となりました。納品頂いたキリア草は720本——60束分でしたので、報酬は三万ジャーチとなります」
などと考えている間に、受付嬢はそう言って、報酬分のお金をカウンターの上に置いた。
「ありがとうございます」
俺はその金を、ポケットにしまった。
……これで、依頼達成報告の方は完了だ。
次は、ボアヴァルカンの死体の売却だな。
「それと……もう一つ、過去に倒した魔物の買取りをお願いしたいのですが」
そう言いつつ……俺は魔法袋からボアヴァルカンの死体を取り出して、床に置いた。
それを見た受付嬢は……ギョッとした表情のまま、その場で固まってしまった。