第4話 付与術師、旅人に感謝される
マリーさんの腕がだいぶ治ってきた頃。
俺は結局、二人を乗せてこの先の街まで送ることに決めた。
というのも……二人がもともと乗っていた馬車はボアヴァルカンに車輪をやられていて、もう動かせそうになかった。
そして俺が借りた馬車がたまたま中型だったので、二人を乗せたまま走ることができる。
二人の行先も俺と同じく下り方面だったので、どうせなら街まで運んでいってやろうと考えたのだ。
マリーさんたちをけん引していた馬には特に怪我も無かったので、『念動運転』で動く馬車の後ろをついてきてもらうことにした。
馬を引き離さない程度の速度で『念動運転』で馬車を走らせつつ。
俺は護衛のナナさんと、いろいろと話しをしていた。
「馬無しで馬車が走るなんて……こんな付与、初めて見ました」
「まあ、確かにあまり一般的では無いでしょうね」
「私の目には、この馬車、青猪に激突したように見えたのですが……それなのに、この馬車全くの無傷ですよね。これも、何らかの付与のおかげなんですか?」
「はい。今は解除してますが、あの時は衝突に備えて『交通事故ダメージ非対称化』という衝突のダメージを敵に押し付ける付与をしてました」
「ま、また聞いたこともないものが……。ロイルさんって、もしかして凄腕の付与術師さんなんですか?」
「ある程度の自負はあったんですが、ねえ……」
などと言いつつ、俺は深くため息をついた。
……いかんいかん。追放のことを思い出して、また思いつめそうになってしまっている。
この人達には関係のない話なんだ。
暗い雰囲気は、出さないようにしなければ。
「ところで……ナナさん、その剣って性能どんななんですか?」
話題を変えようと思い、俺はナナさんにそんな質問をしてみた。
「これ……普通の剣ですよ。一流の鍛冶師に作ってもらった質の高い剣ではありますが、それ以上もそれ以下もないというか……」
「よかったら……いくつか付与かけて差し上げましょうか?」
ナナさんの話を聞いて、俺はそう提案してみた。
「……ロイルさんの規格外な付与を、私の剣にしてくださるのですか!? 嬉しいですけど、そこまでしてもらうなんて……」
「良いんですよ。減るもんじゃないですし」
ナナさんの顔がパッと明るくなったのを見て、俺はこの剣にできる限りの付与をしてやろうと決意した。
あんな事があった後だから……余計に、自分の付与が人の役に立つ瞬間を見たい気持ちが強くなっているのかもしれない。
「ちょっといいですか」
「あ、はい……お願いします」
ナナさんが抜いた剣を受け取り、刀身に目をやる。
ナナさんの剣は、特殊な合金とかは用いていないシンプルな鉄製ながらも、かなり丁寧に打たれた質のいい物だった。
……この剣になら、三つは付与行けるな。
「『遠方範囲全方位攻撃』『死体蹴り』『対全属性ダメージ上昇』」
護衛というナナさんの役割を考え、おそらく最適だろうと思われる付与を三つ、俺はこの剣に施した。
「出来ました」
「……どんな効果をかけたのですか?」
剣を返すと、ナナさんは興味津々な様子で付与した効果の説明を求めた。
「『遠方範囲全方位攻撃』は、一体の魔物を斬ると、半径五十メートル以内にいる魔物全てに斬られた魔物と同じダメージが入るという効果です。『死体蹴り』は、死後三十秒以内の魔物を斬りつけると『遠方範囲全方位攻撃』が発動し、周囲の魔物にもダメージが行く効果となっています。そして『対全属性ダメージ上昇』は文字通り、全ての魔物に対する攻撃力が上がるものです」
「……へ?」
だが……説明すると、ナナさんの表情は完全に固まってしまった。
「『遠方範囲全方位攻撃』と『死体蹴り』を組み合わせることで、魔物に集団で襲われた時、一番弱い奴をひたすら攻撃して集団を全滅させる、という戦法を取ることができます。攻撃力上昇系の付与は、特定属性への超火力とかではなく、汎用性の高さを重視したチョイスにしました。護衛というナナさんの立場を考え、『守るための戦い』がしやすい構成にしたのですが……いかがでしょうか?」
そして……そう説明が終わる事には、ナナさんは完全に目を白黒させていた。
「なんか、この世のものとは思えないようなワードばかり出てくるんですけど……ロイルさん、神話から飛び出してきた人か何かですか?」
そして……なぜか、人外かのような扱いをされてしまった。
「ハハハ、大げさな。気に入ってはもらえましたか?」
「は……はい、それはもちろん! この剣は、一生の宝にします! 私が宝にするまでもなく、国宝クラスのような気もしますが……」
だがまあとにかく、付与の効果自体は気に入ってもらえたみたいだったので、俺はいい仕事できたな、という気分になれた。
その後は特に何か付与するでもなく、俺はナナさん、マリーさんと他愛もない会話を繰り広げた。
ボアヴァルカン討伐時の話になった時、マリーさんに「ミニターボを実演してみて欲しい」とは言われたが……酔うかもしれないということを話すと、やっぱいいって話になった。
正直、俺も後部座席に乗ってるときにあんな運転をされたら確実に吐くので、賢明な判断だったと思う。
魔物や盗賊の襲撃には一切遭わず、旅はボアヴァルカンとの戦いが嘘のように平和なものだった。
そして、そうこうしているうちに……前方に、街の門がうっすらと見えてきた。