第21話 ゲリラ特殊空間と裏オプション
次の日。
冒険者ギルドに来て、依頼掲示板を眺めていた俺は……Bランクの依頼に一つ、気になるものを見つけた。
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Bランク クラーケンに関する調査依頼
西の森林でクラーケンを目撃したとの情報に関し、調査をすること。
報酬は十万ジャーチ。
クラーケンを討伐した場合、あるいはクラーケンが今後出現しないことを証明できた場合は別途報酬を用意する
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その依頼とは、こんな内容だった。
これを見て……俺は、今日はこの依頼を受けようと心に決めたのだった。
というのも。
クラーケンは烏賊型の魔物で、言うまでも無く水棲の魔物だ。
それが森林に出現するなど、普通に考えてあり得ないことだ。
あり得ないことが起きているということは、そこには何か特殊な事情が発生しているということ。
そして俺は、その「特殊な事情」の正体の予測が何となくできていたのである。
ここに行けば、何かしら俺にとって有益なものが手に入る。
——おそらくは、クラウソラスの強化に関係するアレが。
俺の予測が正しければ、この調査で入手できるものは結構入手方法が限られるものだ。
だから、誰よりも先に現場に赴かなければならない。
そう感じた俺は、今日すぐにでも調査に出かけることにしたのである。
依頼書を剥がし、受付に持っていって受注の処理を済ませてもらう。
そしてギルド内の地図を再確認したら、俺はギルドを後にした。
西の森林に向かう途中、俺は鍛冶屋で鉄製の斧を購入した。
これが、今回の依頼においてキーアイテムとなるからだ。
今回新たに必要なものはそれだけなので、その後は俺は西の森林に直行した。
西の森林は、入り口辺りは至って普通だったが……しばらく進むと、こんなところでするはずの無い磯の香りが漂ってきた。
おそらくその方向に、クラーケンの出没の原因となったものがあるのだろう。
香りがする方向を頼りに、俺はその場所にむかって歩みを進めていった。
そして三十分ほど経つと……目の前に、大きな泉が姿を現した。
「やっぱりな」
それを見て、俺は予想の敵中を確認した。
この泉は、ただの泉ではない。
世界中の海のどこかとこの場所が次元を超えて繋がった、一種の特殊空間なのだ。
クラーケンが出現するのは、その海のクラーケンが空間の繋がりをくぐってこちらの森林に顔を出すからである。
こういった時空の歪みによる空間の接続は世界中でごく稀に発生する現象で、「ゲリラ特殊空間」と名付けられている。
そして「ゲリラ特殊空間」は、条件をクリアすることで女神を呼び出し、その恩恵を受けることが可能なのである。
例えば今回のように、山と水源が接続されている場合は……鉄の斧を投げ入れることで、「泉の女神」を呼び出すことができる。
幸い今はクラーケンが近くにはいないようなので……邪魔されないうちに、サクッと召喚するとしよう。
「えいっ」
買ってきた鉄製の斧を投げ入れると……三十秒ほどして、海側から女神が姿を現した。
その女神は、右手に金の斧、左手に銀の斧を手にしていた。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか、それとも銀の斧ですか?」
女神は俺に、そう聞いてきた。
ここで正直に「いいえ、私が落としたのは鉄の斧です」と答えれば、女神は俺に金と銀両方の斧をプレゼントしてくれる。
逆に「金の斧です」などと嘘をつこうもんなら、ただ鉄の斧が没収されてなにも貰えずにおわりになるのだ。
正直者は当初持ってたものより良い物を手に入れられるというのが、泉の女神のコンセプトなのである。
だが……俺はそんなものを貰うために、わざわざこの依頼を受けたわけではない。
そのどちらにも当てはまらない提案を、俺は女神にすることにした。
「どちらでもありませんよ。そんなことより……貴方のその二つの斧、俺が強化して差し上げましょうか?」
ここからは、あまり知られていないことなのだが……実は「泉の女神」には、裏オプションがあるのだ。
女神の持ち物である二つの斧に付与をかけると……金の斧などとは比べ物にならないくらい凄いプレゼントを授かることができるのである。
「え……あ、い、いいんですか? では、お願いします」
そう言って女神が差し出した斧に、俺は付与をかけていった。
「『遠方範囲全方位攻撃』『対全属性ダメージ上昇』付与」
別に付与内容でプレゼントの中身が変わるわけでもないので、俺は何となく頭に思い浮かんだ付与を二つづつ、それぞれの斧にかけた。
「あ、ありがとうございます!」
女神はそう言って、左手で二本の斧を抱え込むと……右手に力を集め、光の球を作りだした。
その光の球は、人の頭くらいのサイズまで徐々に成長し……そして最終的には、中心に目玉が描かれた水晶玉みたいな物体として具現化した。
「お礼に、これを差し上げます!」
そう言って、その球体を俺に渡すと。
そのまま女神は、姿を消したのだった。
じゃあ早速、これをクラウソラスに強化合成するとしようか。




