第20話 マナビタンS、出荷
解体施設を出た俺は、その足でポーション屋さんに向かった。
「いらっしゃー……あ、ロイルさんじゃん!」
「お久しぶりです。マジヤ草、だいぶ集まりましたよ」
「良かった! じゃあ早速、始めようか」
そんな会話を経つつ、店の裏の調合用の作業所に行く。
そこで、採ってきたマジヤ草を魔法袋から取り出して置くと……店員さんは、目を丸くした。
「だいぶ集まったって……なんか思ってたのと違う! 多いのはいい事だけど、この量は規格外すぎるというか……」
そんなことを呟く店員さんをよそに、俺は部屋を見回した。
そして、テーブルの上に赤色透明の石が置いてあるのを見つけると……俺はそれを指差し、こう尋ねた。
「あれ、薬水石ですよね?」
マナビタンDの原料——マナポーションの作り方は、実は結構簡単だ。
ポーションのベースとなる薬用成分を抽出しやすい水、通称「薬水」の中に、マジヤ草を漬け込むだけなのだ。
そして薬水石とは、魔力を流すとその「薬水」が湧き出てくる、錬金術師ご用達の石のことである。
俺の記憶が正しければ……かつて付与術の勉強の一環として錬金術の基礎を学んだ際読んだ本に、「薬水石は赤色透明の見た目をしている」と書いてあったはず。
そう思い、そんな風に聞いてみたのだ。
「あ、うんそうだよ」
そう言って店員さんは、俺に薬水石を手渡した。
だが……その後店員さんは困ったような表情をして、こう続けた。
「でも……この薬水石、あんまり出力高くないからさ。持ってきてくれたマジヤ草全部の分の薬水を湧かすには、だいぶ時間かかっちゃうかも……」
どうやら店員さんは、手持ちの薬水石の出力不足を心配してくれたみたいだった。
「その点は、心配ありませんよ」
それに対し、俺はそう答えた。
別に、元の薬水石の出力が小さいなら、増幅してやればいいだけの話じゃないか。
「『出力増加』付与」
そして俺は、薬水石にそんな付与をかけた。
「な……その発想は無かった……」
すると店員さんは、そう言って目を白黒させた。
「ちょっと……もし良かったら、どれくらい出力が上がったか見せてもらってもいい?」
「あ、いいですよ。ただ……気を付けてくださいね」
店員さんが興味津々だったので、俺は一旦店員さんに薬水石を返した。
店員さんはそれを手に、洗面台に向かった。
そして店員さんが、少しだけ薬水石に魔力を込めると。
大惨事が起こった。
「どわっはっ! ……何これ!」
店員さんは、薬水が湧き出してすぐ薬水石から手を離したのだが……それでも、そのたった一瞬でシンクに溢れそうな量の薬水が出現したのだ。
「これはヤバい。うん、語彙力を失う」
「これなら必要量の薬水、すぐ手に入りますね」
「確かに……って、そういう問題なのかな」
などと話しつつ、再び薬水石を受け取る。
俺は更にその石に『湧出総量固定』という付与をかけ、付与を外さない限りは定めた量以上の薬水が出てこないようにした。
これで、マジヤ草の量に対し薬水が多すぎる、という事態は防げる。
そして、ダークパイソンの革でできた水筒に手を突っ込むと。
俺は薬水石に魔力を流し、一気に薬水を湧き出させた。
数秒後。
薬水が出なくなったのを確認すると……俺は薬水石にかけた二つの付与を外し、それを店員さんに返した。
「必要な量の薬水は、この中に出し終わりました。さっきの付与は外してお返ししますね」
「う、うん。凄い付与だったけど、普段からあの出力だと逆に困っちゃうもんね……」
さあ、後は仕上げだな。
「『次元追加——時間』付与」
俺は水筒に亜空間内部の時間を動かす付与をかけ、その中にマジヤ草を入れていった。
「何、その付与……」
「この水筒、一応魔法袋になってるんですけど……亜空間って、普通時間止まってるじゃないですか。でも、それだとここにマジヤ草を入れててもマナポーションが完成しないじゃないですか。その問題を解決するために、亜空間内で時間が動くようにしたんですよ」
「亜空間に時間軸を追加って……もう何でもアリだね」
最初は錬金術師と勘違いされてたが……流石にそろそろ、付与術師と分かってもらえただろうか。
などと考えつつ、今日のところはポーション屋さんを後にすることにした。
マナポーションが出来上がるには、一日マジヤ草を漬け置く必要があるからな。
明日また『薬効改造』を付与しに来るとしよう。
◇
そして、次の日。
マナポーションへの『薬効改造』の付与を済ませると……俺は店員さんと共に、冒険者ギルドに向かった。
実は、ギルドから聞いた話によると……明日、俺がかつて退治したプテラノワールの骨でできた剣が、前線都市に救援物資として送られるのだとか。
防衛予算を下ろさせるなら、ギルドを噛ませた方が話がスムーズにいくという事情もあり……どうせなら、マナビタンS(これ、従来のマナビタンDとの差別化のために正式名称になるらしい)もギルドに持ち込み、一緒に救援物資として届けてもらうことにしたのだ。
ポーションの販売には特殊な免許が必要なので、店員さんには名義を貸してもらうためについてきてもらっている。
ぶっちゃけ、作業は全部俺がやったようなもんだし……今回の件に関しては、店員さんには免許保持者の保証人としての役目を果たしてもらってるって感じだな。
ちなみに「今年の前線都市は、ゴーレムと聖属性の魔物の動きが特に活発」みたいな噂を耳にしたので……地味に『傘地蔵』を付与した麦わら帽子も数個、救援物資に含めてもらうことにした。
ギルドに着くと、俺たちは個室みたいなところに案内され……そこでは、冒険者とギルド職員が一人づつ待機していた。
職員によると、その冒険者はギルドで最も信頼のおける、前線都市への救援物資の輸送を事あるごとに担当してくれてる方なのだそうだ。
俺たちはその冒険者にマナビタンSと麦わら帽子を手渡し、ギルドとはいくつかの契約を交わした。
これで、俺たちのやることは全部済んだな。
あとは前線都市が【インセインスレイヤー】無しでちゃんと持ちこたえてくれるのを願うばかりだ。




