第15話 解体作業員の絶句
街に着くと、俺は早速ギルドに寄ったのだが……受付嬢は俺が受けた依頼を覚えてくれていて、「あ、ダークパイソンですよね。ではこちらへ」と言って即座に解体施設に案内してくれた。
そして、案内施設にて。
俺は解体作業員の指示のもと、戦利品を出していくことになった。
「じゃあまずは、ここにダークパイソンを出してくれ。ついでに倒してる魔物もいるだろうが……それについては、また別のところに出してもらうからな」
解体作業員はそう言って、作業台のうちの一つを指差した。
俺はそこに、言われるままにダークパイソンを取り出しては置いていったのだが……三体目を出したところで、「ちょ待っ、ストップ!」と止められてしまった。
「あー、お前さ。いったい何体狩ってきたんだ?」
「そうですね……正確に数えてはいませんが、確か九体くらいはいたと思います」
解体作業員に質問されたので、記憶を辿りつつそう答える。
すると……解体作業員の顔面が、一気に蒼白になった。
「多すぎだろ!」
そして解体作業員は、施設内全体に聞こえるような声でそう叫んだ。
「全く……受付の同僚とかから、『最近この街に来たロイルって人がヤバい』みたいな話は聞いてたけどよ。噂をここまで上回るなんて、初めてみたぜ。ソロでこんな数のダークパイソンを狩ってくるなんて、いったいどんな手を使ったんだ……」
「まあ、地蔵でちょちょいと」
「地蔵? 聞いたこともねえ方法を使いまくるってとこまで、噂通りなんだな……」
そして解体作業員は、呆れたようにクビを左右に振った。
で……結局魔法袋に残ってるダークパイソンは、どうしたらいいんだ。
そう思い、少し待っていると……解体作業員はようやく次の指示を出してくれた。
「全部いっぺんには解体できねえから……そうだな。二匹だけ残して、残りは隣の倉庫に出しといてくれ」
そう言われたので、作業台の上のダークパイソンのうち一匹を魔法袋にしまう。
そして、解体作業員の後をついて倉庫まで行き……そこに、残りの蛇を全て出した。
最後の一匹、他のより一回りデカいやつも置き終わった俺は、解体作業員の方を向いた。
すると解体作業員は……またもや、口をあんぐりと開けていた。
「お、おい……最後のやつ、それアビスパイソンじゃねえか!」
そして解体作業員は、ひときわデカい蛇を指しつつそう叫んだ。
「え……これダークパイソンとは違うんですか?
「形はダークパイソンに似てるけど、強さは段違いな奴だぞ! お前、戦ってて気づかなかったのか!?」
よく見ると、ソイツだけ他と違って頭に角が生えてるなあなどと思いつつ、質問すると。
解体作業員には、そう質問で返されてしまった。
「まあ……」
戦ってて気づかなかったのかと言われても……実際に戦ってたのは俺じゃなくて地蔵だしな。
他のより強かったかなんて、知る由もなかったのだ。
だから俺は、解体作業員の質問に首をかしげるより他なかった。
そうしていると……今度は解体作業員はこう言って、次の指示を出した。
「まあいいや。ところで……他にも何か、倒してきた魔物いるか? せっかくこっち来たんだし、巨大なのはついでに置いてってくれればと思うが……」
……そういえば、なんか巨大な鳥も回収した覚えがあるな。
それ出しとくか。
「分かりました」
そう言って、俺は鳥の死体も取り出した。
「あー、プテラノワールか。もういいや、何も言うまい」
すると解体作業員は、どこか諦めたような表情になった。
「こいつは骨が良い武器の材料になるからな。高く売れるぞ?」
かと思うと、解体作業員は「楽しみにしとけ」とばかりにニヤリと笑った。
これで……倉庫に置かないといけないサイズのは、もうなくなったな。
「大きいものは以上です」
そう言って、俺は解体作業員と共に元の施設の方に戻ることにした。
そして……解体施設にて。
最後に俺は、両手を広げたくらいのサイズの蜂の巣を取り出した。
「これで全部ですね」
「おお、これは……ブラックホーネットの巣じゃねえか!」
巣を取り出すと、今回は解体作業員の表情はぱあっと明るくなった。
「こいつから採れるブラックローヤルゼリーは貴重だからな、まじでありがてえ。けど……これよく無事で取ってこれたな」
「地蔵が蜂を全部撃ち落としてくれたんで」
「さっきからその地蔵って奴、すげえ気になるが……きっと相当ヤバい物なんだろうな」
「まあ……」
確かに、迫りくる蜂の大群を目にも止まらぬ連射で無駄なく撃ち落としてく様は、なかなか見ごたえのあるものだったな。
そんな風に、俺は当時の様子を思い浮かべた。
……これで全部済んだし、受付に戻って達成処理を終わらせてもらうとするか。
そう思い、俺は解体施設を去ろうとした。
だがその時……解体作業員は、こう言って俺を呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。今気づいたんだが……その魔法袋、もしかしてお前が作ったものか?」
どうやら解体作業員は、なぜか俺の魔法袋に関心を抱いたみたいだった。
「鞄自体は既製品を買いましたが……付与は自分でしましたね」
「そうか。それ……よく見たら、原料ギガントパイソンの革だよな。同じ蛇の魔物とはいえ、ダークパイソン以外の魔物でマトモな容量の魔法袋を作れるとなると……お前ひょっとして、『亜空間拡張』付与するの凄い得意だったりしないか?」
答えると、今度はそんな質問を返された。
「別に亜空間拡張が、とりわけ得意というわけでもありませんが……まあ、これにボアヴァルカンが入るくらいの付与はできますね」
得意です、と答えるのもなんか鼻につくし……まあ、指標になりそうな答え方しとくか。
そう思い、俺は買い替え前の魔法袋を取り出してそう答えた。
だが……それを見た解体作業員は、今回今までで一番仰天してしまったのだった。
「なんだその反則的な付与は! 麻って! 蛇ですらねえじゃねーか!」




