第14話 大漁だった
再び『念動運転』で馬車を走らせると……地蔵はその後を走ってついてきた。
最高速付近に到達しても、地蔵は難なくそのスピードについてくる。
本来、ゴーレムはこんなに早く走るのは不可能だ。
ミスリルゴーレムは、ゴーレムの中だと足の速い方だが……それでも、全速力はせいぜい鍛えてない人間の全力ダッシュくらいなのだ。
だが地蔵になると、全速力は数倍〜十数倍にまで膨れ上がる。
ゆえにこの地蔵だけは、『念動運転』の最高速についてこられるのである。
中型の馬車を借りといて、地蔵も乗せてあげる手もあったが……ゴーレムは移動で全く疲れない魔物だし、地蔵もその性質は受け継いでるからな。
そのために値段の高い馬車を借りるのもアレなので、今回はこうすることにしたのだ。
他のゴーレムの中にも、俺たちを追いかけようとしてくる者はちらほらいるが……そいつらは全くついてこれていないので、闇の森に着く頃には全て撒き切ることができるだろう。
その間に、いろいろと準備を進めておくか。
俺はまず、クラウソラスの付与から始めることにした。
今回つけるのは、『風刃』『電離』『追尾』『対闇属性超ダメージ』の四つ。
最初の三つは、試験の時に安全への配慮から外した付与を付けなおしただけだ。
そしてダークパイソンの棲息地には、基本的には闇属性の魔物しか存在しないため、ダメージ上昇系のは『対闇属性超ダメージ』を付けることに決めた。
もちろん、例外的に別の属性の魔物に遭遇してしまう確率はゼロではないのだが。
そういったケースには、以前『モンスターダウジング』を付与した針金に『属性警報・闇以外』という付与を重ね、警戒しておく方針である。
そうこうしていると……車窓からは地蔵以外のゴーレムは全く見当たらなくなり、代わりに前方にどす黒い雰囲気を放つ森が見えてきた。
……そろそろか。
俺は森の手前で減速して馬車を停め、馬車を魔法袋に収納した。
「行くぞ、地蔵」
そして……左手に針金、右手にクラウソラスを持って、森に足を踏み入れた。
十分ほど歩くと……『モンスターダウジング』に、初めて反応があった。
反応は、ギガントパイソンの時と似たような感じ。
『属性警報・闇以外』が同時に発動していれば、針金は七色に輝くのだが……そんな様子もないので、おそらく近くにいる魔物はダークパイソンと見て間違いないだろう。
などと考えていると、地蔵が右手人差し指で『モンスターダウジング』の反応があった方向を指した。
そして、指先から光の弾丸を発射する。
直後……遠くでドサッという音が聞こえたかと思うと、『モンスターダウジング』の反応も同時に途切れた。
……一発で殺ったか。
流石はミスリルゴーレム製の地蔵、威力もエイムも攻撃発動時間も文句なしだ。
そう満足しつつ、地蔵が弾丸を放った方向に歩いていく。
すると……そこには確かに、黒い蛇の死骸があった。
多分、これがダークパイソンだな。
俺は魔法袋にその蛇を収納し、地蔵と共に次の獲物を探しだした。
黒い蛇、黒い鳥、黒い蜂の群れ……何十もの魔物を倒しつつ、俺たちは森を進んでいった。
倒すといっても、視界に入る前に全て地蔵が倒してくれたので、俺は特に何もすることがなかったのだが。
結局『属性警報・闇以外』が反応することはなく、遭遇したのは全て闇属性の魔物だった。
そんな調子で森の中を歩き回ること数時間。
結構収穫もあり、だんだん疲れてきたのもあって、俺たちは冒険を終えて森を後にすることにした。
「にしても、今日一日で結構体力ついた気するなー」
などと言いつつ、魔法袋から馬車を取り出す。
地蔵は下僕であり、地蔵が倒した魔物は俺が倒したカウントになるので、俺の身体は地蔵が狩った魔物の数だけ強化されたのだ。
馬車を取り出すと……俺は寝る前の準備として、馬車に『安眠』の付与をかけた。
「地蔵、見張りは頼んだ」
そして俺はそう言い残して、馬車の中に入り……眠りにつくことにした。
◇
次の日……朝起きると、外でガラガラガッシャーンと何かが崩れる音がした。
「ん……タイムリミットか」
それが何の音か察しがついた俺は、外に出て様子を確認することにした。
外に出ると……そこには地蔵の姿は無く。
代わりに、上に麦わら帽子が乗った、大小さまざまなミスリル板が積みあがった山ができていた。
そう。地蔵に寿命が来たのだ。
地蔵の下僕としての効果持続時間は12時間。
それを過ぎた地蔵は、このようにゴーレムの破片の山になり果ててしまうのだ。
「……今までご苦労さん」
俺は感謝の言葉を述べつつ、地蔵の残骸を魔法袋に詰めた。
地蔵無しでは、今の俺にはまだ闇の森探索は危険が伴うしな。
収穫は昨日の時点で十分にあったんだし、今からはもう街に帰還することにしよう。
俺は『念動運転』で、馬車を元来た方向に向け……そのまま加速し、街に向けて馬車を走らせた。




