第13話 お地蔵様の力に頼ろう
Bランク昇格試験を受けてから三日休んで。
四日目の朝、ようやく俺はそろそろ次の依頼を受けようという気になれた。
こんなに休んでいたのは、もちろん『人工剣聖知能』を使った反動があったからだ。
三日間、俺は酷い筋肉痛に苛まれていた。
大きな怪我こそなかったものの、痛みは酷く、特に最初の二日間は身体を起こすのさえしんどいくらいだった。
宿の部屋に『オートヒール』を付与して安静にするしかなく、食事さえも部屋まで運んでもらわなければならない始末だったのだ。
ここまでなるとは思っていなかったのだが……まあ何が誤算だったかというと、『人工剣聖知能』の付与のクオリティを開発当初基準で考えていたことだろう。
俺が初めて『人工剣聖知能』を編み出したのは、数年前だが……当時より俺の付与の腕前上がっていたのが裏目に出て、想定以上の大技を出してしまったのだ。
あんな付与、やはり一時でも剣の素人が使うものではないな。
激痛の中、あの付与は二度と自分のためには使わないと、心に決めたものだ。
三日目になると、筋肉痛はだいぶ緩和され、外を出歩けるくらいにはなった。
けれどまだ本調子ではなかったので、冒険者としての活動はせず、かわりに俺は街の散策の続きをしていた。
その中で、俺は革製品の店にも寄ったのだが……ちょうどギガントパイソンの革を使った鞄があったので、俺はそれを買って『亜空間拡張』をかけ、魔法袋を新調した。
昨日の収穫は、それくらいだったな。
少々値は張ったが……この魔法袋があれば段違いに多くの容量を収納できるので、今後のことを思えば決して高い買い物では無かったと思う。
せっかくだし、俺は今回からは大型の魔物の討伐も視野に入れていいかなと思っているところである。
◇
ギルドに着くと、早速受付嬢が俺をカウンターに手招きした。
「ロイルさん、Bランク昇格おめでとうございます! こちら、新しいギルドカードになります」
受付嬢はそう言って、俺に新しい色のギルドカードを手渡した。
「これで今日から、Bランクの依頼も受けられますね」
そして受付嬢は、笑顔でそう言った。
Bランクの依頼、か。
まだ時期尚早な気もするが……内容によっては、受けてみるのもいいかもな。
工夫次第では、安全に狩れる魔物も何種類かはあるわけだし。
などと考えていると、受付嬢はこんな提案をしてきた。
「たとえば……ギガントパイソンとほぼ同難易度の、ダークパイソンの討伐とか」
「なるほど……」
俺は受付嬢の提案に、ちょっと苦笑した。
ギガントパイソンと同格……まあ勝てなくはないだろうが、あのレベルと積極的に戦いに行くのは、もう少し戦闘慣れしてからでも良い気がするんだよな。
「まあ、ちょっと遠いですし、目的地に着く前にゴーレム発生地帯を抜けないといけないのでちょっと大変ですけどね……」
渋っているのが伝わったのか、俺の様子を見て受付嬢はそう付け加えた。
だが……俺はそれを聞いて、俄然ダークパイソンの討伐に行く気になった。
「え、ゴーレムいるんですか?」
「はい、そうですけど……」
「じゃあその依頼、受けます。ちょっと待っててください」
俺はそう言い残し、依頼掲示板にその依頼を取りに行った。
ダークパイソンは、名前の通り闇属性の魔物なのだが……実は闇属性の魔物は、ゴーレムを上手く使えば非常に簡単に倒せるのだ。
そういう付与を、俺は一つ知っている。
「これでお願いします」
「え、本当に行ってくれるんですか? わ、分かりました……。では、そのように処理しときますね」
受付嬢に受注処理を済ませてもらった俺はギルドを後にした。
そしてさっそく、目的地に行く前の準備を整えていくことにした。
◇
ギルドを出ると、まず俺は雑貨店に行き、麦わら帽子を購入した。
これが、今回のダークパイソン攻略のカギになるアイテムだ。
それから俺は、一旦宿をチェックアウトした。
あらかじめお金を払っていた分は今日までだったし、受付嬢の言う通り目的地が若干遠いので、急いでも一晩は街にいないことになるからだ。
それも済ますと、最後に俺は馬車の貸出所に行き……王都からここに来た時と同じように、車体だけを借りてきた。
まあ前回と違い、今回は小型が開いてたので、それを借りてきたがな。
街を出るまでは徐行して……門をくぐってから、俺は『念動運転』のスピードを上げていった。
そして、俺は『念動運転』の全速力で、まずはゴーレムが現れるまで走っていくことにした。
二時間くらい走り続けると……ようやく、車窓から遠目にゴーレムらしき影が確認できるようになった。
「いいのいないかな……」
ストーンゴーレム、アイアンゴーレム、ブロンズゴーレム……様々な種類のゴーレムを通り過ぎながら、俺はマシな個体がいないか観察していった。
別にどんなゴーレムでもいいのだが……より強いゴーレムを使えば、ダークパイソンの処理もより楽になるからな。
たくさんの種類のゴーレムがいるなら、どれを起用するか精査するに越したことはないのだ。
こんなに数がいるなら……一体くらい、突出して強いやつがいてもおかしくないだろう。
そう思いつつ、観察を続けるうちに……俺は、一体の目ぼしい個体を発見することができた。
「ミスリルゴーレムか。あれは良さそうだな」
全身がミスリルでできたゴーレムを見つけ。
俺は、ソイツを今回のお供にすることに決めたのだ。
『念動運転』の方向を変え、ミスリルゴーレムの方に向かう。
と同時に、俺は麦わら帽子を取り出し……こんな付与をかけた。
「『傘地蔵』付与」
傘地蔵。
これは、帽子をかぶせたゴーレムを、12時間限りの下僕「地蔵」に変える付与効果だ。
地蔵の特徴は、聖属性と闇属性の魔物に特大ダメージを与える攻撃を放てること。
まさに、今回の依頼にぴったしな存在なのだ。
特に、ミスリルゴーレム製の地蔵ともなれば……ダークパイソンなら、一匹あたり一〜二発の攻撃で軽々と処理できる。
目的地の「闇の森」に着いたら……コイツと共に、ダークパイソンをざっくざくと狩っていくとしよう。




