第1話 付与術師、追放される
「ロイル。お前には今日限りで、このパーティーを抜けてもらう」
酒場に着いた途端、パーティーのリーダーであるライザーにそう言われ、俺は頭が真っ白になった。
「……クビ? なんでそんな話になるんだ」
「俺たち【インセインスレイヤー】はもはや敵なしだ。お前の付与術なんて無くても、俺たちはあらゆる魔物に勝てるくらい強くなった。だから……戦いもしないくせに一丁前に給金だけ貰ってるお前なんて、もう用済みなんだよ」
「そ、そんな……」
俺はライザーの言葉を聞いて、がっくりと項垂れた。
いきなりクビを宣告されたショックもあるが、それより俺は悲しいという気持ちでいっぱいだった。
俺の付与術が、そんな風に思われていたとは……。
俺はいままで、持ち前の付与術でSランクパーティー【インセインスレイヤー】の一員としてしっかり貢献してきたつもりだった。
パーティーの出撃前夜、俺は毎回パーティーメンバー全員の武器の付与を書き換え、受注した依頼に最適な付与を施していたのだ。
受注した依頼が「ウォーターサーペントの討伐」の時はメンバー全員の武器の付与を対水属性仕様にし、「サラマンダー討伐」の時は対火属性仕様にして。
戦闘に加わりはしないものの、そうやって俺は、影からこのパーティーを支えてきた……はずだった。
それなのに、そうやって積み重ねてきたものを、「用済み」の一言で一蹴されてしまうなんて。
あまりにも酷い仕打ちだと、思わないわけにはいかなかった。
「でも……なんでよりにもよって今日なんだ。今度受ける依頼、『不生鳥の討伐』だろ? あれを倒すには、『アンデッドキラー』が付与された武器が必要なはずなのに……」
落胆のあまり何を話せばいいのか分からなくなる中、俺はメンバーにそんな質問をした。
そもそも今日俺は、メンバーの武器の付与を対アンデッド仕様に書き換えるために、メンバーの武器を預かりに酒場に来たつもりだったのだ。
アンデッドは、普通に殺しても何度でも蘇生するという特殊能力を持っている。
その特殊能力の発動を阻止するには、高位の聖魔法か『アンデッドキラー』という付与がなされた武器が必要だ。
特に不生鳥のような蘇生能力の高いアンデッドは、聖魔法が効きづらく、実質倒し方が『アンデッドキラー』一択と言っても過言ではない。
現在、このパーティーでは、誰の武器にも『アンデッドキラー』はかかっていない。
前回このパーティーが受けた依頼が「ファイアドラゴンの討伐」だったことから、メンバーの武器の付与効果は対火属性・対竜種に全振りにしているからだ。
このタイミングでの俺の追放は、メンバーたちにとっても最悪に近いはずなんだが……。
「アンタ、私の聖魔法を何だと思ってるの? アンデッドなんて、浄化してオシマイよ!」
俺の質問に対し、口を開いたのは僧侶のローズ。
ローズは俺を指差し、激しい口調でそうまくし立てた。
「不生鳥の蘇生能力は、他のアンデッドとは段違いだ。聖魔法での浄化は、ほぼ不可能と言っても……」
「私ならできるのよ! そんじょそこらの僧侶と一緒にしないでちょうだい!」
反論を試みるも、俺の発言は途中で遮られ、俺はそう怒鳴られてしまう。
忠告を聞き入れてもらう余地は、全く残されていなかった。
「俺をクビってのは……満場一致なのか?」
ため息交じりにそう呟きつつ……俺はもう一人のパーティーメンバー、魔導士のリナに目配せをした。
「そうですね……。私もライザーさんの意見に、異論はないですねー」
そしてリナのダメ押しの一言で……俺はこのパーティーで全く必要とされてないことが、はっきりと分かってしまった。
「……分かったよ。アンデッド狩り、失敗しても恨むなよ?」
俺はそう言い残し、クビの宣告を受け入れることにした。
これ以上何か反論しても無駄だろうし……それ以上に、心にポッカリと穴が開いて反論する気にもなれなかった。
「ああ。脱退手続きくらいは、しといてやるよ」
「失敗なんてするわけないでしょ? 戦えもしないクセに、最後まで私を見くびるのね」
「お達者で」
微塵も寂しそうな様子がない彼らを残し、俺は酒場を後にした。
……たった一瞬で、ここまで人生が転落することってあるのだろうか。
失意の中、俺は回らない頭を必死に整理しようとしながら、トボトボと街中を歩くのだった。