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異世界無双計画、破綻

人生で初めて、魔物というものと遭遇した。それは狼のようで、虎のようで…

はっきり言って、怖い。とても怖い。だが怖がっていたらやられる。多分。だったら…


「やるしかない…!」


俺は覚悟を決め、気がつけばもっていた魔導書を開いていた。


「本当にこれで魔法が使えるのか…?」

「うん、書いてある魔法名を叫んで、イメージして」


イメージか…妄想だけなら散々やってきた…そして今…それを現実にするときなんだ!

俺の、異世界ライフ…始めさせてもらうっ!


「ファイアアアア!」


そう叫び、両手を前に突き出す。すると俺の手から、火球が勢いよく飛び出した。


小さな小さな火球が。


「…えっ?」


その火球は、魔物に直撃。魔物は少し痛そうに後退りをしたあと、方向を変え、去っていった。

…何が起こった?今の明らかに威力が低かったよな?それに何か帰っていったし…


「おい神!どういうことだよ!」

「あー、別に人間を襲いに来たとかじゃなかったっぽいね」

「…ただ叫んでただけってこと?」

「そうだね、君が勝手に勘違いして攻撃したってことかな?」


そういえば、魔物が現れても周りの人は全く反応してなかった。人に危害を加えない魔物だったのか…寧ろあの魔物に攻撃した俺の方が悪者に見られてるかも…


「…ごめんなさい魔物さん。怖くてとっさに…いやその攻撃もだよ!なんだあれ!?ファイアってあんなもんなのか!?」

「いやそんなはずは…うーん、もしかして勉強不足とか…?」

「え?」


勉強不足?いや魔法に関してはそうだけど…でもこの世界の全ての魔法が使えるって…まさか使えるけど威力よわよわみたいな?いやそんなことある?そんなの詐欺だろ…


「んー…そもそもこの世界には完全に魔法を使えない血を引いている人もいるわけだから、要するに全ての魔法使えるだけの才能的なのだけは与えるから後は自分で頑張れってこと?そんな努力もなしにポンポン魔法が使えるわけないってことかな…」

「そもそもお前がくれた能力なのになんで知らないんだ…」

「…この能力を与える能力をくれたのはもっと上の神様なの…」

「ええ…」


でも確かにその通りだ。俺は少し、人生を舐めすぎていた。そうだよな、そんな簡単に無双できるように世界は出来てないんだ。寧ろこんな才能を与えられた、俺は随分幸運なんだ。それで努力を面倒くさがってたら、才能がなくても必死に頑張ってる努力家たちに失礼だ。


「よし…やるか!」

「よし!まずは言語の会得からだね!言語の才能も与えてるはずだから頑張ろう!」

「おう!…え?」


神に与えられた教科書とありがたき才能のおかげで、1ヵ月程で日常会話くらいはできるようになった。




さて、前述した通り異世界に来て1ヵ月くらい経ったわけだが。


「まだ言語の勉強しかしてねえ…」

「まあ言語を覚えたんだから、これから先ぐっと楽になるよ。それに1カ月で言語をマスターできるなんて普通ありえねえんだから、私の能力に感謝してくれたまえ」

「いや、マスターはしてないけど…でも感謝はする。」


この才能がなかったら、マジで基本的な言語会得だけで5,6年はかかってたな…


「次は魔法だ!」

「よしきた!といいたいところなんだけど、事前にもってた金が底を尽きたのだよ」

「マ?」


そういえば勉強してる間ずっと神が飯を持ってきてくれてたが、魔法で生成してるとかじゃなくて普通に買ってきてたのか。

しかし金がないということは、働かないとってことか…


「俺、バイトの経験とかないし…」

「まあとりあえず掲示板を見に行ってみようか」


掲示板、RPGゲームとかによくあるな。クエストが貼ってあるやつ。まあようするに求人広告って考えればいいのか?そこで自分にあった仕事が見つかるのが一番だけど…

あれこれ考えてるうちに、人だかりが見えてきた。


「あそこか?」

「ん…この町の中心部って感じだね」


ちなみに今俺たちがいる町はそこまで都会ではないっぽい。どちらかといえば木組みの家が多い。…いや、木組みが田舎ってわけでもないと思うけど。あと田んぼなんかも見かけたな。まあいきなり知らない世界の都会に放り込まれるよりはよかったのか?とにかく、そういうわけで中心部っぽいとはいってもそんなに何百人と群がっているわけではない。ざっと10くらいの団体が仕事を探したり、談笑したりしている。


「さて、俺らも探さないと…」

「おっ、これいいんじゃない?」


そう言って神が出したのは…


「ドラゴン退治て…」


そういえばコイツの目的は俺を活躍させることだったな…

でもいきなりハードルを上げすぎだろ…


「あのな、流石にドラゴンは無理よ?あの一般魔物みたいなのをちょっと仰け反らせるくらいの魔法しか使えないんだから」

「じゃあさっさと魔法覚えて」

「えぇ…」


さっきまで金を稼ぐのを優先してたのは誰だよ…


「とにかく、もっと地道なところから始めないと。努力の大切さをといてくれたのはお前だろ」

「うー…まあ、そうだけど…やっぱ楽したいじゃん?」

「その気持ちはとてもわかる」


神の態度の清々しさに若干…かなり同意しながらも、できそうなクエストを探す。すると…


「おっ、良さそうなのが」

「どれどれ?」


森の野鳥の種類別割合の調査


「ええ…地味…」

「なんだとぉ?野鳥を数えるのは大変なんだぞ。俺も昔やろうとしたことあるけど結局8匹くらいのところで、「同じの数えてね…?」ってなってやめたからな」

「そりゃそうなるよね?ってかこれどうやって調べるの…」

「さあ?とにかくやってみりゃわかるっしょ」


そういって俺は、反対意見を押しきり依頼を受けることにした。


「えーっと、君たちがこの仕事を受けてくれる…」

「ユウキです」

「…神です」

「ユウキくんにカミちゃんね。よろしく。早速仕事内容を説明していくからよく聞いててね」


さっき俺が言ったように、ただ数えるだけでは同じ個体を数えてしまう可能性がある。だからこういう調査では、対象に印をつけておくらしい。例えば水族館のペンギンの腕についてるアレみたいな?個体を判別する材料をつけ、勿論数を記録するのも仕事内容に含まれている。


「ちなみにお前神以外の呼び方ないの?」

「私は神だもの、それ以上でも以下でもないよ」

「でも神の中では下のほうなんでしょう?」

「だまらっしゃい」


神を煽るのを楽しんでいると、早速一羽見つけた。異世界の鳥といってもあまり俺の世界の鳥と変わらない…いや結構ちがったわ。なんか角生えてるし、やたらカラフルだし…


「鳥型の魔物って感じだな…こっちの方が異世界っぽいけどちょっと不気味だな…」

「ってか君は異世界っぽいのと変わり映えしないの、結局どっちがいいわけ?」

「それなんだよなあ」


実に難しい質問だ。だが、それよりも今はあの鳥にどうやって印をつけるかのほうが難しい問題だ。


「どうやって鳥捕まえよう…」

「拘束系の魔法もたくさんあるけど…簡単なものならちょっと練習すればできるんじゃない?」


なるほど拘束か。試しにやってみるか。

早速魔導書を開き、それらしい魔法のページを探す。

…あった。初級拘束魔法「バインド」。いかにも基礎魔法って感じだな。


「よし…バインド!」


すると俺の両手から、光の糸が…ちょろちょろっと。


「ぷっ」

「笑うなああああああああああ!」

「いやだって…ちょろっ…て…ぷふっ…」


クソッ、さっき煽った仕返しか…でもこれが成功しなきゃまともに仕事にならねえ…


「バインド!バインド!!バインド!!!」


ちょろっ、ちょろちょろっ、少しずつ伸びている感じがしなくもない?否、伸びていると信じないと俺の心がもたない。

こうしてひたすらバインドを繰り返し、5時間程が過ぎた。



「バインド!」


俺の両手から伸びた光の糸が、遂に一羽の鳥を捕らえた。


「っしゃあああああああああああ!」

「一羽で喜びすぎだよー」

「いいんだよ、一羽とれたらもう慣れたってこった!」

「その理論はどうなの…?」


だがあながち間違いでもないと思う。今のは特にまぐれって感じもしなかったし。その後も、完璧にとはいかないものの沢山の鳥を捕らえ、印をつけ、数を数えていった。



「いやー初めてにしてはなかなかのもんだよ!魔法が使えるんだって?いいねえ」

「いやーそんな、まだまだ初歩の初歩で…」

「ちょろちょろ」

「殺されてえか」

「とにかくこれ、今回の報酬ね!また機会があったら頼むよ!」

「はい!ありがとうございました!」


とにかくこれで今晩の飯代は確保できたわけだ。こんな感じで色んな仕事を探していけば、その日その日は乗り切れそうだな。

さて、飯は大丈夫として、これまではずっと野宿していたんだが…これからはどうしよう。


「とりあえず今日も野宿か…?」

「宿代が払えるような立派な異世界人になるまでは我慢だね。さっさと色んな魔法使えるようになってよ。そうしなきゃ活躍できないんだから」

「わかってるよ…はぁ…まさかこんな苦労することになるとは…」


俺の思い描いていた異世界ライフとはかなり離れてしまったが…


「まあ、これはこれで」


次は何が起こるのか。何となく、明日が楽しみだ。


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