急すぎる異世界転移
異世界転生。その言葉を聞いた事がある人は少なくないと思う。多分ラノベなんかじゃトップクラスに人気なジャンルではないだろうか。不思議な力を手にしてかっこよく戦ったり、元の世界の知識で天才扱い、そしてなぜかヒロイン達がどんどん主人公に惚れていく。そんな主人公に憧れたことがある人もたくさんいると思う。
そして、俺、ユウキはそんな主人公になるチャンスを得た。
俺は異世界へ行くことになったのだ。唐突すぎると思うかもしれないが、実際唐突な出来事だったからしょうがない。俺自身、まだ状況を飲み込めていない。普通に学校までの道を歩いていただけだった。そして急に謎の光に包まれて…今に至る。
周りは闇に包まれてていてなにもない。自分が立っている感覚すらない。しかしどうしよう。何ないんじゃ何もできない。困った。
と、そんな事を考えていると
「やぁやぁ、よく来てくれたね」
突然声がしたので振り返ると、そこには俺と同年代か少し下くらいと思わしき小柄な少女がいた。
「まず言っておくけど、これは夢じゃない」
マジか…「俺…夢を見てるのか…?」って言おうと思ったのに。さきに選択肢を潰されてしまっては仕方ない。
「えっと…キミ誰…」
「私?私は神だ!」
「あぁ…そう…」
なるほど。神か。神なら俺をこんなところに転送することができても不思議じゃないし、もしかして…
「俺をここに連れてきたのはキミ?」
「そう!驚いたでしょ?」
確かに凄く驚いた。でもやっぱりこいつかが俺を連れて来たのか。よくわかった。
さて、誰が俺を連れて来たのかわかったところで…
「出せええええええ!!!!!!俺をここから出せええええええ!!!!!!」
「うわっ、ひびった。いきなり大声ださないで。もうちょい冷静に」
「冷静になれるか!なんだよここ!てかなんで連れて来たし!いいから出せ出せ出せ!学校に遅刻すんだよこのままだと多分!ってか何が目的なんだよお前は!」
「よくぞ聞いてくれた!」
あっ、面倒なスイッチ入ったわ多分。まぁこのままでも話進まなそうだったし仕方ないか…
「私は確かに神なんだけどさ…実は新米なのよ」
「新米の神って何!?」
「それで、正式な神になるには試験に合格しなきゃなんだわ」
「どういう仕組み!?」
「それで、君に協力してもらおうと」
「何で俺!?」
ダメだ、もう何が何だか…
要するにその試験に合格するには俺の力が必要だと?いや、何でだよ…
「で、その試験ってどんな内容なの?」
「神の力で人間に力を与えて異世界で活躍してもらって、一番活躍した人間を生み出した奴の合格って訳」
「なんだよそれ…ってか一番ってことはキミ以外にも試験受ける神がいるってこと?」
「そうそう。まぁ私含めても10人もいないけど」
「そんなもんなのか?」
「正式な神になるってだけで、合格してもそこまで凄い存在になれる訳じゃないんだよ」
神ってだけで凄いと思うんだけど…神にも色々あるんだろうか。
「…というか、なんで俺?俺普通の人間なんだけど」
「知らないよ上司が適当に選んだ人間だから」
「上司イイイイイ!」
クソッ!運悪すぎだろ俺!よりによってこんな面倒な試験に付き合わされるなんて…
「そもそも異世界行くっていっても、俺学校行かなきゃなんだけど」
「真面目か君は。試験終わったら時間戻すから」
「えっ、時間操れるの凄くない?」
「神の基本スキルやぞ」
「マジか…」
「まぁ、何はともあれよろしく。」
「何、もう確定?」
「問題ある?」
「いや、問題っていうか…死なない?モンスターに襲われたりとかしてさ…」
「その場合私が失格になって君は元の世界に戻されるから安心して」
「あぁ…そう」
まぁいっか。それなら問題ないでしょ多分。
でも異世界か…そういえば力を与えてくれるっていってたっけ
「力を与えるって、どれくらい強くなれるの?」
「めっちゃ強くなれると思うよ。腐っても神が全力で強化するわけだからね」
めっちゃ強く…ということは…?
「…もしかして俺、異世界で大活躍できる?」
「そりゃそれが試験内容だし…問題は同じ条件の奴が他にもいることくらいかな」
「あぁー…」
確かに、同じ条件ではそれぞれの素の力、頭、その他諸々によって結果は変わってくる…力を上手く生かしたり、柔軟な発想を出すことがあまり得意な方ではない俺にはかなり難しい。
しかし、折角凄い力で異世界ライフを送れるかもしれない機会が巡ってきたんだ。無駄にはしたくない。
「わかった。やってやるよ」
「おっ、サンキュー!」
軽いノリで承諾されたが、俺はこれから今まで、そしてこれからも決してすることはないであろう体験をすることになる。はず。心臓は既にバクバクいってるし、恐怖心も当然0ではない。だがそれ以上に、異世界への興味と大活躍している自分の姿への期待が抑えられなかった。
「というわけで異世界へレッツゴー!」
「まってろ…異世界ライフゥゥゥ!!!」
俺は再び、光に包まれた。
「ハッ!ここは!?」
「異世界だよ。アナザーワールドだよ」
「ここが…異世界…」
あまり元の世界と変わってないような気がするが…というか車とか走ってるし、魔法のファンタジー世界じゃないの?
「異世界ってもっと馬車とかのイメージだったんだけど」
「えっ、お前そんな文明発展してない世界行きたかったの?」
「いやそうじゃないけど」
なんだかなぁ…変わらないことへの安心感と、変わっていないことへのがっかり感がいい感じの割合で混ざりあっている…
特に獣耳が生えた人も、エルフっぽい耳の人がいるわけでもなくいたって普通。学生服の人もいるな。登校中だろうか。しかし見れば見るほど変わり映えしない。本当に異世界に来たのか疑うレベルだ。
「でも俺は魔法とか使えるんだよな?」
「ん、この世界の全ての魔法が使えるよ」
「マジかよ!?流石に太っ腹すぎるぜ神!」
この世界の全てだってよ。これはもう完全に無双系主人公ルート間違いなしだな。それでヒロイン達に囲まれて王宮生活とか?いや、俺に一途な一人の女の子と静かに暮らすのもアリだな…それに世界観が思ってたの違うのも、寧ろそっちのほうが俺の希少価値が高くなっていいかもしれない。しかし、そうそう魔法を使う機会に恵まれるかといわれるとそうではないと思うが。かといって見せびらかすのもなぁ…
と思っていた矢先…
「グオオオオオオオオ!!!!」
「!?な、何だ!?」
突然、叫び声がした。それも人のものではない。鳴き声、咆哮というべきか。人間以外の何か。でも猫でも、犬のそれでもない。熊?ライオン?それに近いかもしれない。でも最も端的に言うなら…
「魔物…!?」
俺の目の前に立ちはだかる生物は、まさにそれだった。