思惑 04
政務室で、父上と兄上の前でエミーリアの力と…二人がいつもやっている訓練について説明した。
二人とも驚いてはいたけれど…思ったよりは冷静に受け入れてくれたように見えた。
エミーリアの魔法で兄上の命が助かったのも大きかったかもしれない。
貴族達を拘束したとの知らせに父上が出て行った。
「エミーリア」
今から訓練する気にもなれないし…エミーリアとゆっくりお茶でも飲もうかなと思っていると、兄上がエミーリアの目の前に立った。
「色々ありがとう。君がいなかったら…私は今頃死んでいたね」
「いえ…お役に立てて良かったです」
「本当に、ありがとう」
エミーリアの手を握りしめて、彼女を見つめる兄上の目が熱を帯びているのに気づいた。…は?ちょっと待て!
…そういえば…二人で図書室で話をしていたと言わなかったか?
「兄上。お身体の具合は大丈夫ですか」
慌てて兄上の手を振り解くとエミーリアを引き寄せる。
「色々あってお疲れでしょう。今日はもう休んだ方が…」
「いや、大丈夫だよ。気分は悪くない」
僕を見たその目は…いつものどこか無気力な目と違って、今はしっかりとした意志が宿っているように思えた。
「ベルハルト。やっぱり王位は君が継いだ方がいいと思うんだ」
「…何を言っているのですか兄上」
「先刻名前が挙がった三人以外にも、君を望んでいる者は多くいるだろう」
「兄上を王にと望んでいる者も多くいます」
「それは単に私が兄だからという理由だけだよ。王としての能力は君の方がずっと高い」
そう言う兄の表情には悲壮感といったものはなく、むしろすっきりとした顔をしていた。
「ベルハルト。王位は君にあげるよ。だから代わりに———」
兄上の視線が僕の腕の中へと移る。
「エミーリアを私にくれる?」
「え…?」
「お断りします」
目を丸くしたエミーリアを強く抱きしめる。
「エミーリアは僕の婚約者だ」
「王になれば他国の姫と結婚しなければならないよね。そうなったらエミーリアとは結婚できないだろう」
「僕は王になんかならない」
「私も王位はいらないよ。身体のせいで誰にも期待されない…いつ殺されるか分からない。こんな状況が続くくらいなら…」
兄上は首を横に振った。
「…いや、そんな理屈はどうでもいいや。私は単にエミーリアが好きなんだ」
何で僕の婚約者を好きになるんだよ!
エミーリアはオロオロと、僕と兄上の顔を交互に見ていた。
…ああもう、こんな顔させなくないのに。
「エミーリア…誰が何を言おうと、僕は王にはならないし、僕達は結婚するんだからね」
僕を見上げて…こくん、と頷いた頬が赤くなったのを見てほっとする。
「だから諦めて下さい、兄上」
「そう…でも諦めたくないな」
いつもの気が弱い兄上と同一人物とは思えないほど…その目や表情から伝わる意志は固かった。
冗談じゃない。
何でこんな事に…
確かにエミーリアは可愛いし…欲しくなる気持ちは分かるけど。
でも駄目だ。
エミーリアは僕だけのものだ。
誰にも渡さない。