思惑 02
うーん…
本を広げながら私は悩んでいた。
今日も王宮へ来たけれど、ベルハルト様は急に陛下に呼ばれたそうで。
ただ待っているのも勿体ないので、私は王宮の図書館へやってきた。
魔法の本を読んでみたいと思っていたのだけれど、我が家にはそんな本は一切なく…かといってお父様に欲しいとお願いする訳にもいかず。
一度王宮の図書館に行ってみたいと思っていたのだ。
私が使う魔法は、漫画の中でエミールが使っていたものを参考にしてはいるけれど、誰に教わった訳でもなく。
私が思いつかない使い方や、先日ディート殿下が狙われた時に役立つような魔法を知りたいと思ったのだけれど。
「この本は全然役に立たない…」
諦めて本を閉じた。
私が読んでいたのは魔法の基礎的な事が書かれたものなのだけれど。
魔法を使うのに必要な呪文やら、魔法陣の書き方やら…そんなものは私には必要ないんだよな。
「違う本の方がいいのかな」
もっと応用編とか、あとは魔法の本というよりも…兵法書的な?
「エミーリア」
本棚に並んだ背表紙とにらめっこしていると声をかけられた。
ベルハルト様かと思って振り返る。
「…殿下」
ディート殿下…わ、声がベルハルト様と良く似てる。
顔もぱっと見はそんなに似ていないようだけど、よくよく見ると鼻の形とか…似ている部分も多くて、やっぱり兄弟なんだなあ。
「…そんなに見つめられると照れちゃうよ」
少し困ったように殿下は小さく笑った。
…しまった、つい凝視してしまったわ。
「申し訳ありません…」
「ああ謝らないで。責めてるつもりじゃないから」
そう言って、殿下は私の背後に視線を送ると不思議そうに首を傾げた。
「エミーリアはこういう本を読むの?」
私がいたのは兵法や剣技といったものが並んでいる棚の前で…う、確かに女の子が読む本ではないわね。
「もしかして弟のせい?」
殿下は私を見た。
「ベルハルトの奴…君といる時も剣の話ばかりしているの?」
「いえ、そんな事はありません」
実はそんな事ばかりですけどね!
私とベルハルト様の訓練は他の人達には秘密だから…
「なら良いんだけど」
殿下は満面の笑みを浮かべた。
…顔色も悪くないし、そんなに身体が弱いようには見えないんだよなあ。
私の前世のエミがいた病院は重い病気の子供ばかりが集まっていたから…エミも含めて、あそこにいた子供達から比べれば殿下はずっと健康的なのに。
「エミーリア。この間はありがとうね」
「え…?」
ありがとう?
「私のために泣いてくれただろう」
殿下は目を細めた。
「嬉しかったんだ。ああいう風に思ってくれる子がいるんだって」
そんなの…
「…当たり前です…」
思わず俯く。
「少しくらい身体が弱くても…出来る事は沢山ありますし、王様にだってなれます」
「…ありがとう。エミーリアは優しいね」
そっと、殿下の手が私の頭に触れた。
「———ベルハルトが羨ましいな」
「え?」
顔を上げると殿下が私を見つめていた。
「…君が側にいてくれたら、私も……」
ふいに…黒い気配を感じた。
あの時と同じ、嫌な…殺気?!
ガタ、と鈍い音と振動が響いた。
「…殿下!」
私は殿下の腕を掴んだ。
飛びのくと共に———激しい音を立てて本棚がこちらに向かって倒れこんできた。