目覚め02
暖かな陽だまりの中、輝く金色の光。
…ふふっ
思わず笑い声が漏れそうになるのをこらえながら、私は笑みを浮かべた。
隣で眠るベルハルトは顔色も、魔力も安定して…もういつ目を覚ましてもおかしくない状態だ。
穏やかな、綺麗な横顔。
暖かな日差しと伝わる彼の体温に…私の心の奥まで温かくなってくる。
目を覚ました三日後、ようやくベルハルトの所へ行く許しをもらった。
青ざめた色で眠るベルハルトを診ると…確かにその身体の中では二つの魔力が融合せずに渦巻いているようだった。
「危険な状態は脱しましたが、まだ闇の力が身体に馴染んでいない状態です」
アインが説明した。
「なかなか彼自身の力だけでは…」
———私が魔力を乱した時はいつもベルハルトが助けてくれたのだから。
同じように、私がベルハルトを助けられないだろうか。
そう思ってお祖父様達に相談すると試してみようという事になった。
いつもベルハルトがやってくれるように、彼を抱きしめて…というのは体格的に大変そうだから、添い寝しようとしたらお祖父様がはしたないだの何だのと難色を示した。
別にそれくらいいつも…と言いかけたら「いつもだと?」とあの氷点下の眼差しになった。
でも折れたくない私はお祖父様と攻防の末、二人きりにならないという条件で添い寝できる事になったのだ。
そして監視役であるルプスは…狼の姿になって、ベッドの下でこちらに背を向けて丸まっている。
気を利かせてくれているのか、本当に眠っているのかは…分からないけれど、私はベルハルトにくっつくと、彼に自分の魔力を注ぎ込んだ。
しばらく魔力を与えて…ベルハルトの容態が落ち着いても、離れがたくてまだベルハルトにくっついたままだ。
旅に出た頃は、いつも宿に泊まるとこうやってくっつきあって眠っていた。
けれどやがて……ベルハルトが、そうやって眠るのは辛いと言い出して…同じベッドだけれど離れて眠るようになったのだ。
あの頃は、こんな未来が来るとは思っても見なかった。
漫画と同じ事、違う事…色々あったけれど、ベルハルトが隣にいる。それだけは変わらない。
———それはきっと、これからも。
ベルハルトがかすかに身じろいだ。
慌てて身体を起こして顔を覗き込むと…長い睫毛が震えた。
そしてその下から覗いた———二つの赤い瞳。
「あ…」
思わず目を見開いた私の頬に、伸びてきた指が触れた。
「…どうしたの?」
まだ覚醒しきっていない、眠そうな声。
「瞳…赤い…」
私の言葉に数回瞬いて…赤い瞳が細められた。
「…エミーリアと、お揃いだ」
「———ええ」
笑みを交わすと、私の頬に触れる手に力が込められ…ベルハルトに抱きしめられた。
私が覆い被さるような形で…うう、この体勢は…恥ずかしい。
「———エミーリア…魔力くれた?」
耳元でベルハルトの声が響く。
「ええ…」
「身体中にエミーリアの魔力が満ちていて、すごく幸せな気分だ」
顔に血が集まるのを感じた。
それを見られないように…ベルハルトの肩へとぎゅっと顔を押し付けると、私を抱きしめる腕にも力がこもる。
「私も…幸せ」
温かくて、優しいベルハルトの魔力が伝わってくる。
———やっぱりベルハルトの魔力は心地よい。
うっとりしていると頭に何かが軽く触れた。
それがベルハルトの唇と気づいて…さらに顔が赤くなる。
「エミーリア」
促されて顔を上げると間近にまだ見慣れない赤い瞳があった。
ゆっくりとそれが近づいてきたので私は目を閉じる。
「それ以上はだめだからな」
ふいにベッドの下から声が聞こえて飛び起きた。
———ルプスがいたの忘れてた!
「……いたんだ」
「王がうるさいんだ、あまりいちゃつくな」
頭をひょっこり覗かせてルプスが言った。
「姫様と旅に出られなくなるぞ」
「旅?」
「お祖父様にお願いしたの。もう少し旅をしたいって」
「…よく魔王が許してくれたね」
「まだ私が王になる覚悟ができないから…もっと色々な事を見聞きして勉強したいって言ったの」
昨日。今後の事をお祖父様と話した。
お祖父様の跡を継ぐ事について改めて聞かれたので、そう答えた。
城で帝王学を学ぶ事も大切だろうけれど…それよりも、今はもっと、世界を知りたい。
この世界がどれだけ広いのか、どんな種族がいるのか…私はまだ、知らない事が多すぎる。
「で、お披露目が済んだら姫様は王太女になる為に見聞を広げる遊学に出る。護衛は俺とベルハルト。護衛だからな、姫様に手を出すのは禁止だ。どうする?」
「行くに決まっているだろう」
「手を出したら強制送還だからな」
「……分かった」
やや間を空けてそう言うと、ベルハルトは私を見た。
「それで、どこへ行くの?」
「最初は龍族の所へ行きたいわ」
「龍族?」
「私はあのふたりとちゃんとお別れできなかったもの」
「…そう…」
ベルハルトがジト目で私を見るけれど…確かに色々あったけど、私にとってあのふたりは特別な存在なんだからね?
本当は皆で一緒に旅をしたかったと言ったら…ベルハルトは怒るかな。
「早速準備にかからないとな。まずはベルハルトの剣を作り直す事からだ」
「剣を?」
「今の剣じゃ光魔法しか使えない。せっかくなんだから闇魔法も使えるようになった方がいいだろ」
「———ルプスみたいに二本持つのは?」
「あれはお前には無理だな」
「…そうかな」
「ルプスよりも強くなりましょう」
眉を顰めたベルハルトの手を握る。
「二人で世界一になろうって、約束したでしょう」
「———そうだね」
あの日。初めて手合わせした日。
『君がいると僕はもっと強くなれる。僕は騎士の、君は魔法使いの世界一に二人でなろう』
私の手を握りながら、ベルハルトは満面の笑みでそう言った。
そう、ベルハルトがいれば私はきっともっと強くなれる。
ベルハルトだけじゃなくて…ルプスや家族…沢山のひとたちの支えもあるけれど。
やっぱり、一番近くにいるのはベルハルトだから。
これからも、二人で進んでいこう。




