邂逅04
「姫様?」
ルプスが慌てて私の顔を覗き込んだ。
「まさか姫様も倒しに行くとか言わないよな?!」
「いけないの?」
「そんな危ない事させられる訳ないだろう!」
珍しく焦った様子でルプスは私の腕を掴んだ。
「他の魔物とは全く違うんだよ」
「だけど早く何とかしないと被害が増えるじゃない」
アーベルの腕の中の小さなドラゴンに視線を送る。
まだほんの子どもなのだろう、怪我は治したとはいえぐったりと意識のないその姿はとても痛々しかった。
これ以上…この子のような犠牲者を出してはいけない。
「だからって姫様が龍族のために…」
「種族なんか関係ないわ。———ねえ、カイ」
私はカイを見た。
「〝独りでは無理でも力を合わせれば勝てる〟のよね?」
これは漫画『龍の王』の中でよく使われていたセリフだ。
「…そうだな」
私の言葉の意図に気づいたであろう、カイは小さく笑った。
「手伝ってくれるの?エミちゃん」
「ええ。いいでしょう?ベルハルト」
「———あの魔物と戦うのはいいけど」
ベルハルトは私の肩を抱くと自分へと引き寄せた。
「エミーリア、忘れてない?こいつが言った事」
「言った事?」
「そこのアーベルが僕より強くなったらって」
「忘れてないけど…それとこれとは別じゃない。それに私の意志を無視して勝手に決めた事でしょう、私は知らないわ」
頬を膨らませると…くくっと小さく笑う声が聞こえた。
「エミーリア様はやはり気が強いですね。さすが姫君です」
笑い声の主はトロワだった。
「賭けの話は聞いている」
トロワはカイを見た。
「お前達に協力する代わりに、その事はなかった事にしてもらおうか」
「おいトロワ———」
「ルプス。お前はエミーリア様の保護者じゃない。従者なら主の意志を尊重しろ」
ルプスを一瞥して再びカイに向き合う。
「どうする」
「———分かったよ。コーディも助けてもらったしな」
息を吐いてそう言うと、カイは私を見た。
「でもエミちゃんには惚れ直したけどね」
カイの言葉にベルハルトが更に私を抱き寄せた。
もう、このひと達は…
「———それじゃあ決まりね」
「エミーリア…ありがとう」
アーベルが笑顔を向けた。
…前に会った時よりも逞しくなったと思ったけど、やっぱり可愛いなあ。
「頑張ろうね、アーベル」
「うん」
「ところでエミーリア様。グラトニーの行方は掴めたのですか」
「……後を追ってるわ」
フラムに意識を向ける。
「北に向かっているようね」
「———北には龍族の国がある」
カイは顔を上げると北の空を見上げた。
「やっぱり国に向かいやがったか」
バサリ、と羽ばたく音が聞こえるとカイはドラゴンの姿になった。
「アーベル乗れ。全員は無理だが…」
「…私達魔族は大丈夫だから、ベルハルトを乗せてくれる?」
「は?」
「せっかくだから三人、仲良くなってね」
露骨に嫌そうな顔になったベルハルトとカイに笑顔を向ける。
パーティの仲間になるんだから、協調性は大事なのよ?
「それじゃあ私達も行きましょうか」
飛び立ったカイの背中を見送って私は振り返った。
「姫様。俺は貴女の安全を最優先するからな」
「…ルプスは心配しすぎよ」
「姫様の危機意識がなさすぎるんだよ」
そうかしら…?
「エミーリア様の思うようになさればいいんです」
いつになく真面目な顔で私を見つめてトロワが言った。
「王女なのですから、多少無茶をしても構いませんよ。我々が命に代えて守りますし」
「姫様を煽るなよトロワ」
「お前のそういう意外に保守的な所は父親と同じだな」
思わずムッとした顔のルプスに…思わず笑みが漏れてしまう。
「ありがとうふたり共。でも自分の命は大事にしてね」
「ああエミーリア様にお気遣い頂けるとは」
途端にうっとりした顔になって…あーあ、元に戻っちゃった。
「急ぎましょう。カイが追いついちゃうわ」
「…何か楽しそうだな姫様」
「……そう?」
それは…漫画みたいにカイ達と一緒に戦えるからかしら。
あの漫画がこの世界の未来の記憶から作られたのなら…最後の魔王との戦いは、このグラトニーとの戦いを元にしたのかもしれない。
漫画では四人だったけど、今回は二人も多いから。
きっと、大丈夫よね。




