覚悟01
「鍛冶師の所へ行きたい?」
「はい…」
私の言葉にお祖父様は眉を顰めた。
昨日ルプスがやってきて、ベルハルトの剣が完成すると教えてくれたのだ。
ルプスの時は見られなかったけど、ベルハルトの剣はこの目で確認したい…
というかベルハルトに会いたい。
もう何日も顔すら見ていないんだもの…
お祖父様は私が一人で部屋から出る事を嫌がる。
外に出る…といってもせいぜい庭園くらいだけれど、必ずお祖父様と一緒だ。
勝手に城から出て行かないといっても許してくれない。
「何かあったらどうするんだ」というけれど…お城の中なんだから安全よね?!
というか私今までずっと魔物のいる森の中とか旅してきたし!
「鍛冶師の所など何をしに行くのだ」
「ベルハルトの剣が出来上がるんです」
お祖父様はしばらく私を見つめて…少しその顔が緩んだ。
「分かった」
良かった…
「私も一緒に行こう」
…え?
「エミーリアがどんな物を作ったのか私も見てみたいからな」
笑顔でお祖父様はそう言った。
「エミーリア…」
先に工房に来ていたベルハルトが私の姿を見て笑顔になったけれど、次の瞬間その顔を強張らせた。
「ベルハルト!」
お祖父様の手を振りほどいて抱きつくとぎゅっと抱きしめ返してくれた。
ああ、ベルハルトの匂いだ…すごくほっとする。
「会いたかった…」
「僕もだよ」
「そういう事をしに来たのではないだろう」
ぐい、と引っ張られる感覚を覚えて…私はお祖父様の腕の中にいた。
「私の前でそういう事をしないでくれないか」
「……お祖父様の意地悪」
ずっと会いたかったのに!
思わず呟くと涙までじわりと出てきた。
「エミーリア…」
慌てたお祖父様の腕を抜け出してもう一度ベルハルトに抱きついた。
「エミーリア様って結構強気なんだな」
「よほど王の溺愛がきてるんだろうな」
トロワとルプスが小声で何か言ってるけど。
ベルハルトと何日も会えなかったのは思った以上に辛かったんだったもの!
「これはこれは、陛下まで」
奥からシュミットが布に包まれた細長いものを抱えて現れた。
「思ったより苦戦したが、いいものが出来たよ」
布を外すと、中から真っ白な剣が現れた。
「わあ、きれい」
「白い剣?」
「光魔法の影響だな。おかげで加工には苦労した」
「どうして?」
「儂ら魔族は闇魔法を持つ。闇と光は正反対だからな、相性が悪いんじゃ」
あ、そうか…
ベルハルトが剣を取った。
「———持った時の感覚が全然違う」
「どう違うの?」
「軽いというか…違和感がないような…」
「お前さんの魔力を馴染ませてあるからな、他の者には使いにくいはずじゃ」
「問題は魔法が使えるかだな」
「外へ出て試してみるか」
皆の後について外に出ようとするとお祖父様に手を掴まれ引き寄せられた。
「とんでもないものを作ったね」
「え…?」
「あの剣はとても危険だよ、魔族にとって」
振り仰ぐとお祖父様が私を見ていた。
「———それは、光属性だから?」
「そう、私やエミーリアは光属性も持っているけれど、普通の魔族は闇属性のみだ。あの剣は光が強すぎる」
他のひと達に聞こえないような小声でお祖父様は言った。
「彼がどれだけあの剣の力を引き出せるかにもよるけれど、魔族の敵にならないようにしないといけないね」
「———はい…」
ベルハルトと魔族が…敵対する事は…ないと信じているけれど…
お祖父様に手を繋がれたまま、皆の後を追って空き地のようなひらけた場所に着いた。
「まず剣として使えるか手合わせしてみるか」
ルプスが剣を出すと身構えた。
キィン!と高い音を立てて二つの剣がぶつかる。
あれ…いつもと何か違う…
「へえ、面白いな」
幾度か切り結んで、ルプスが口を開いた。
「攻撃の威力が上がってる」
「———剣を受けた時の衝撃もいつもより弱く感じる」
ベルハルトが応えた。
それって攻撃力と防御力が増したって事だよね。
まさにゲームの武器の効果と同じね!
「強度も高そうだな。それじゃ魔法を試すか」
ルプスは懐から短剣を取り出した。
「まずは剣が自分の腕になったつもりで魔力を集めるよう意識してみろ」
短剣が黒い光を帯びた。
「後は使いたい魔法を具体的に想像するのが俺のやり方だが…試しにやってみるか」
ルプスの剣から黒い炎が上がって消えた。
ベルハルトが剣を見つめると、やがて刃が光を帯び始めた。
光は剣先へと集まると…玉となってふわり、と浮き上がった。
一つ、二つ…と玉が増えていく。
「エミーリアが初めて見せた攻撃魔法だよ」
私を見てベルハルトはそう言って笑顔を見せた。
…覚えていたんだ。
「うん」
笑い返すとお祖父様がぎゅっと手を強く握った。
…お祖父様ってベルハルトよりも嫉妬深いのかな…
「その玉を動かせるか」
トロワの言葉に、ベルハルトは視線を光の玉へと戻した。
ゆらり、とゆれて…玉はすぐに消えてしまった。
「…難しいな」
「ルプスの方もまだ使いこなしてないようだし、———これは研究のしがいがあるな」
目を輝かせてトロワが頷いている。
…そういえば魔法にはうるさいんだっけ。
「なるほどね。面白いものを見せてもらった」
お祖父様がそう言って私の手を引いた。
「それじゃあ帰ろうか、エミーリア」
「え…」
もう帰るの?
ベルハルトとほとんどお話しできてないのに!
それに私が帰る場所は…
「私はベルハルトと一緒に…」
「駄目だよ」
お祖父様は私を抱き上げた。
「三人も来なさい。話がある」
ベルハルト達を見渡してお祖父様は言った。




