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【電子書籍化】病弱だった少女は転生して強い魔力と愛する人たちを手に入れた  作者: 冬野月子


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魔王 01

「ここが魔族の国だ」

峠を抜けた私達が見下ろす先には、険しい山々に囲まれた深い森が広がっていた。


「国?森しか見えないが…」

「人間の国とは違って森の中に街があるんだ。それにこの森自体が結界になっていて魔族以外は入れないようになっている」

「じゃあ僕は入れないのか?」

「門番を通して入れば問題ないさ。…姫様?」


「すごい…漫画と同じだわ!」

主人公達がやっとたどり着いた、魔王がいる森。

記憶の中にある、見開きで大きく描かれた光景と、目の前に広がる景色はそっくりだった。

「でも漫画では森の中は魔物しかいなかったけど…本当に街があるの?」


「マンガ?ああ例の〝物語〟か」

ルプスは私の顔を覗き込んだ。

「まだそんなの気にしてるの姫様は。もう全然違うんでしょ」

「そうなんだけど…」

確かにあの漫画のストーリーと今の状況は全然違う。

でもこの景色とか…同じ部分もあるし。

本当に、どういう関係なんだろう。

「ほら行くよ」

ルプスに促されて私たちは山を降りて行った。




「ようルプス」

森の入り口までくると二人の男が現れた。

「随分と久しぶりだな」

「ああ」

「お前今までどこに…」

ルプスの後ろに立つ私達を見た男達の目が大きく見開かれた。


「———ルプス…その後ろの…」

「こちらはエミーナ様の娘のエミーリア様と、その婚約者の人間だ」

「エミーナ様の?!」

「おいどういう事だ!」

「詳しい話は今度な。アイン達に用があるんだ、通してもらうぜ」

「あ…おいルプス!」

男達の声を無視して、ルプスはさっさと森へと入っていった。


森の中はとても穏やかで静かだった。

木々の間から小さな家が建っているのが所々見える。

「…ずっとこんな感じなの?」

「この辺りは街外れだ。城の近くにいけば賑やかになる」

森の中をしばらく進んで、やがて一軒の家の前でルプスは立ち止まった。

「ここが薬師の家だ。誰かしらいると思うが…」

ノックするより早く家の扉が開かれた。


「エミーリア様!」

飛び出してきたトロワから守るようにベルハルトが私を抱き寄せた。

「ああ、本当に来て下さったんですね。少しお会いしない間にますます美しくなられて…」

「兄さん、エミーリア様が怖がるから近づかないで」

相変わらずうっとりした表情のトロワの後ろからフィーアが顔を覗かせた。

「ルプス、城へは行かないの?」

「アイン達に用があるんだよ」

「兄さん達に?」


「へえ、この子が噂の姫様か」

「確かにエミーナ様にそっくりだな」

家の中から二人の男性が姿を見せた。

…わあ、顔が同じ!

「…双子?」

「初めまして、長兄のアインです」

「次男のツヴァイです」

———そっくりな美形が並ぶと壮観だわ!



「我が家へようこそ、お姫様」

アイン達が招き入れてくれた家の中は、鼻を刺激するような薬の匂いがした。

…前世の病院を思い出すなあ。

あの頃は嫌で仕方なかったけれど、今となっては懐かしい匂いだ。

「それで用事とは?」

「ああ、人間用の薬が欲しいんだが」

「人間の?」

「姫様、説明してくれる?」

「ええ」

私はディート様の容態と、必要な薬の事を説明した。


「心臓の負担を減らす薬ねえ」

「血管を広げて血の流れを良くするの…」

前世だとニトログリセリンとかあったんだけど…あれって材料は何なのだろう?

「まあ、出来なくはないかな?」

「作った事はないけどいくつかレシピは浮かぶよ」

「本当に?!」

ベルハルトと顔を見合わせてほっとする。

「ただ、人間の薬は作った事がないからなあ」

「人間って俺達より身体の作りが弱いんだよね…その辺の調節が難しそうだな」

「血管を広げるだけじゃなくて、心臓を強くする薬もあった方がいいだろうな」

「ま、とりあえず作ってみようか」

「ありがとう!」

良かった…これで少しでもディート様が良くなってくれるといいのだけれど。


「しかし…エミーリア様はよく血管を広げようとか思いついたね」

ツヴァイが私をじっと見つめて言った。

「医療の知識があるの?」

「え、ええと…そういう訳ではないのだけど…」

前世の経験が役に立ったなんて…説明できないし。

「姫様は少し変わった考え方をするんだ」

ルプスが代わりに答えた。

「俺達には思いもよらないような事を考えつくんだよ」

「ふーん」

「そういえばトロワが言ってたな、変わった剣を作ろうとしてるんだっけ?」

アインの問いにトロワが頷く。

「核と鱗は獲れたのか?」

「ああ、たっぷりある」

にっと笑ってルプスが二つの袋をテーブルの上に乗せた。


「…これ…ワイバーンの鱗か?!まさか一頭まるごと?」

「カスペルの核って…これいくつあるんだよ」

袋の中を覗き込んだアイン達が目を見開く。

「核は二十個だっけ?」

「確かそのくらいだ」

「お前達で倒したのか?」

「———あーそれはなあ。たまたま群れでいたのを見つけたんだよ。そしたら姫様が一網打尽にしてな」

「エミーリア様が?」

「あれは容赦なかったなあ」

遠い目をしたルプスの隣でベルハルトが小さく頷いた。

「…だってあんなに沢山、いちいち剣で倒してたら時間がかかるじゃない」

それに最近ベルハルトの訓練ばかりで魔法を使わせてもらえなかったから!

ちょっとストレス溜まってたの!


「どんな魔法を使ったのですか?」

トロワが目を輝かせた。

「カスペルは火に弱いから火の魔法を使ったのよ」

「炎で群れを囲んで更に火竜を襲わせてな。草原が火の海になるんじゃないかと思ったぜ」

「火竜?」

「姫様の使い魔だ」

「使い魔とは違うと思うけど…」

私は小さな火竜を出した。

「大きさや強さ、属性も変えられるわ」

「これは…純粋な魔力の塊?にしては意思のようなものが…。エミーリア様が操っているのですか」

「最初の頃は操っていたけど、段々勝手に動くようになったの」

「それは面白いですね」

興味津々なトロワに威嚇するように、火竜は小さな炎を口から吐いた。

それでも怯まず近付こうとするトロワに向かって、更に大きな口を開けたので慌てて火竜を消した。


「こっちのワイバーンは?生きたまま鱗剥ぐの大変だったんじゃない?」

「あいつらやたら強いし、特にあの尾はルプスだって厳しいだろ」

…確かにベルハルトとルプスの二人掛かりで戦ったけど結構手こずっていたわ。


「時間は掛かったが、ギリギリ死なない程度に弱らせたから、鱗を取るのは思ったよりは難しくなかったな」

「ギリギリ?その見極めはどうしたんだ」

「姫様の目が役に立った」

「目?」

「魔物があとどれくらいの攻撃で死ぬか見えるんだと」

ゲーム風に言うと残りHPね!

流石に数値では見えないけど大体これくらいというのは分かるの。


「へえ…色々な魔法を使えるんだな」

「流石エミーリア様ですね!」

「…ところで、この鱗少し分けてもらえる?」

アインが袋を指して言った。

「ワイバーンの鱗って貴重なんだよね。薬代代わりに欲しいな」

「それは…構わないわよね?」

ベルハルトを見ると頷いた。

「こちらは剣が作れる分だけあれば十分だから、残った鱗と核は全て渡そう」

「それは薬代にしては多いかな」

「使い道があるのならそちらで使ってくれればいい」

「王子は気前がいいんだね。剣を作るのにどれくらい使うの?」

「どれくらい…かしら」

とりあえず言われたままに取って来たけれど…そもそもこれで足りるのかしら?


「では鍛冶師の所に行きましょう」

トロワが立ち上がった。

「剣の事は話してあります。向こうも面白そうだと乗り気でしたよ」

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