家族 02
うう、緊張する…
屋敷の門の前に立って、私は隣のベルハルトの手をぎゅっと握りしめた。
「エミーリア?」
ベルハルトが私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「…大丈夫…かな…?」
「それは大丈夫じゃないって事だよね」
「だって…」
まさかお父様がいるとは思わなかったから!
先に様子を見に行ってもらったルプスから、私の実の父親が屋敷にいると聞いた時は本当に驚いた。
会いたいとは思っていたけれど…どんな人なのか…顔も声も知らないのだ。
どんな顔をして会えばいいのだろう…
空いた手で胸のペンダントを握りしめる。
———そうだ…お母様だって…お父様に会いたいよね。
深呼吸をして、取り次いでもらおうと門の前まで進むと急に扉が開いた。
「姉上…!」
そこには…記憶にあるよりも大人びた顔の少年が立っていた。
「…フリッツ」
「姉上!」
飛び出してきたフリッツは私を抱きすくめた。
…あれ…
「フリッツ…背が伸びた?」
「そりゃあ伸びるよ。一年だもの」
フリッツは笑って私の顔を覗き込んだ。
「姉上はとっても綺麗になったね」
そう言って私の頬にキスを…ええ?!
フリッツって…こんな事する子だったっけ?!
隣から黒い気配がする…
「フリッツ…それ以上エミーリアに…」
「殿下が姉上を連れて行ってからこの一年、僕達家族がどんな思いをしていたか分かりますか」
ベルハルトに怯む事なくフリッツは言った。
連れて行ったって…
「フリッツ…私は自分の意志で一緒に行くと決めたのよ」
「殿下が国を出なければ姉上だって出て行かなかったでしょ」
それは…そうだけど。
「父上達が待ちくたびれているよ、ほら早く」
私の手を引くとフリッツは早足で歩き出した。
「エミーリア!」
「まあ…良かった……」
「お父様、お母様…」
二人は代わる代わる私を抱きしめた。
「…突然出ていってごめんなさい…」
「本当に悪い子だ。そういう無鉄砲な所は父親に似たのかな」
そう言ってお父様が視線を送った先には、一人の男性が立っていた。
背が高くて…初めて会うのにどこか懐かしい…
「エミーリア」
その人は私の目の前にくると、恐る恐る私に手を伸ばした。
「ああ…本当にエミーナによく似ているな」
大きな手が頬に触れる。
触れられた所から…温かなものが身体中に広がっていくのを感じた。
視界が熱いもので滲んでいく。
「———おとうさま…」
目の前の胸に飛び込むと、力強い腕が私を抱きしめた。
私が泣き止むまで、お父様は背中を撫でながら抱きしめてくれた。
「エミーリア…今まで会いに来なくてすまなかった」
「…いいえ…」
「お母さんの核は持っているかい?」
私は頷いてペンダントを外した。
それをお父様に渡そうとすると…お父様は私の手のひらに乗せ、もう一つ小さな赤い核をその隣に乗せた。
「これは…」
「お前の兄、ゲルトだ」
「…私の…お兄様?」
「生まれてすぐに死んでしまった、私とエミーナの最初の子供だ」
私に二つの核を握らせると、その手をお父様の手が包み込む。
「これでやっと…家族四人が揃った」
「四人…」
「———エミーナの最後の願いだった」
お父様はもう一度私を抱きしめた。
「お母様と…お兄様……」
私の…会ったことのない家族。
もしも…その二人が生きていたら、私は…私達は四人で、この国でも…魔族の国でもないどこかで暮らしていたのだろうか。
「お父様…」
私はぎゅっと二つの核を握りしめた。
「お母様とお兄様は…どうして亡くなったの?」
「…ゲルトがこの世に生きていたのはほんの三日だ。魔族と人間の間に子供が出来るのは難しい事なんだ」
「お母様は?」
「———お前を産む時…ゲルトのようにはさせたくないと、エミーナは魔法でお前を守ったんだ」
「魔法で…?」
「だが出産で体力を使った上に魔法まで使ったせいで身体を壊してしまってね…。エミーナが死んだのは、お前が生まれて半年後だった」
ゆっくりと私の頭を撫でながらお父様は言葉を続けた。
「エミーナが死んだ後…私は彼女の望みを叶えるためにお前を兄に預けて、ゲルトの核を探しに出た。最近やっと見つけて…これでお前に会えると戻ってきたんだ」
「…そう…だったの…」
それって…
「———お母様が死んだのは…私のせい?」
「それは違うよエミーリア」
「でも…!」
「私達が望んだんだ。たとえ悪い結果になってもお前の命を守ろうと」
それでも…お母様が死ななければ……
今でもお父様とお母様は一緒に暮らしていたし……ルプス達だって悲しまなくて良かったのに。
それにお祖父様だってきっと———
くらり、と目の前が歪むと真っ暗になった。
「…エミーリア?」
「お母様が死んで…皆が悲しむの……私を守らなければ……」
痛い。心が痛い。
冷たい。
「わたしが…うまれなければよかったのに……」
「エミーリア?!」
「エミーリア!」
意識が途切れる直前、白い光が私を包み込んだ。




