兄妹 04
「エミーリア!」
二人の姿と気配が消えるとベルハルトが抱きしめてきた。
「ベルハルト?」
「エミーリア…」
ぎゅっと強く抱きしめられて…苦しい…
「…どうしたの?」
「エミーリアとずっと一緒にいられるように…もっともっと強くなるから」
「———ベルハルトはとても強いわ」
口癖のように強くなりたいと言って。
その通り毎日毎日努力して。
旅に出てから一年…。ベルハルトは身長も伸びたし力も付いた。
剣技だって…城にいた時と全然違う。
もう十分強いのに。
「———エミーリアの周りにはもっと強い者が集まってくるだろう。だから僕は、誰よりも強くなりたい」
「ベルハルト…」
「誰よりもっていうのはまあ、無理だけどな」
ルプトがぽつりと言った。
「…どうして?」
「ベルハルトは魔法が使えないだろう。剣技だけ鍛えても限度がある。光魔法の防御力はかなりのものだが、攻撃魔法が使えないと魔物や魔族相手には厳しいな」
———それは、そうかもしれないけど…
「魔法は私が使うわ」
「いつも姫様が一緒にいる訳じゃないだろう」
「…そうだけど…」
「それでも、全く勝ち目がない訳じゃないだろう」
「魔物程度ならいけるだろうけど、お前が勝ちたいのはもっと上の相手だろう。———例えば魔王とか」
え、お祖父様?
「…そうだな。もしもエミーリアとの事を反対されたら相手が魔王だろうと戦うだろうな」
「なら無理だな。あの方の魔力は他の魔族よりもはるかに強い」
「魔法が使えれば可能性はあるのか」
「まあそれでも魔王は無理だろうけど。他の魔族や龍族みたいな他の種族なら何とかなるかもな」
「お祖父様はそんなに強いの?」
「そりゃあもちろん。俺だって足元にも及ばない」
ルプスでも?
「…お祖父様とは…戦って欲しくないわ」
漫画と違って悪い人じゃなさそうだし…
「———魔王は別にしても、それ以外の相手も本当に魔法を使えないと無理なのか」
「まず厳しいな」
「…ベルハルトが魔法を使えればいいのよね…」
うーん。魔法が使えないベルハルトが魔法を使う方法…。魔力は持ってるんだから…
「あ」
「姫様?」
「魔法が使えるようになる剣を作るとか」
「魔法が使えるようになる?」
「いつも私の魔法を剣に与えているけど、私がいなくてもベルハルトの魔力を引き出して攻撃魔法に変える剣」
「…ほんと姫様は変な事考えつくよな。そもそも姫様の魔法を剣に与えるってのが普通じゃないんだけど」
そうなの?
「そんな変な事かしら。それに私の考えじゃないわ」
ゲームのアイテムでそういうのあるのよね。何とかのつるぎって。
「エミーリア。そんなものが作れるの?」
「うーん…それは分からないけど…素材があればいいのかな」
「素材?」
「防御魔力を攻撃魔力に変換できるような…それで剣としても使える…」
「それならカペルスの核がいいと思いますよ」
「ひゃあ!」
「トロワ!」
びっくりした!
何ですぐ後ろにいるの!
「お前…帰ったんじゃないのかよ」
「エミーリア様とお別れするのが名残り惜しくて…もう一度お顔を見たいと戻ってきたんだ。何やら面白そうな話をしているね」
笑みを浮かべてトロワは答えた。
「エミーリア様は素晴らしい発想力をお持ちなのですね」
「ど…どうも」
「ああ、照れたお顔も可愛らしいですね」
うっとりとした表情で私に手を伸ばしてきたので、ベルハルトが慌てて引き離した。
「カスペルって…魔物?」
「黒い犬に似た、変化が得意な魔物です。普通はその核を薬に混ぜて効果を変質させるのに使いますが、高度な魔術師ならばそれを使って姿を変えたり魔法の属性を変化させる事も可能だそうです」
へえ…確かにそれならいけそうかも?
「剣にするのに十分な強度はあるのかしら」
「剣を作るには鉄に核を混ぜて使いますし、強度を増す核もあるので組み合わせれば問題ないかと」
「トロワは詳しいのね」
「薬師ですし、核の効果については一通り知っています」
「本当?すごいわ!」
「ああ、エミーリア様にお褒めの言葉を頂くなんて…」
———何でいちいちうっとりするの?
イケメンだし知識も豊富なのに…残念なんだよなあ。
「で、そのカスペルは何処にいるんだ」
「この近くだと西に山二つ越えた草原かな」
「どれくらい必要だ?」
「一本作るのに最低でも三個は必要だろうが、失敗する事も考えると多ければ多いほどいい」
「そうか。分かった。それじゃあな」
「私も一緒に…」
「兄さんは帰るの!」
……何でこの兄妹は突然現れるの?!
「フィーア…」
「まったく。姿が見えなくなったからもしやと思って戻ってみたら」
腕を組んで仁王立ちして、フィーアはトロワを睨みつけた。
「私だってエミーリア様と…」
「仕事が溜まってるでしょ!」
フィーアに首根っこを掴まれて、トロワは悲しそうな目で私を見た。
「……トロワ、情報ありがとう。核を獲ってきたらまた相談するからそれまで自分のお仕事頑張ってね」
笑顔でそう言うと、トロワの顔がぱあっと明るくなった。
「エミーリア…」
「…姫様ってほんと人たらしだよな」
え、どうして二人ともため息をつくの?
だって剣の作り方とか分からないじゃない。
「エミーリア様、剣の強度を上げるなら核よりもワイバーンの鱗がいいですよ」
そう言い残して多分今度こそトロワ達は去っていった。
「ワイバーンの鱗だ?無茶言いやがって」
「ルプス?…そんなに強いの?」
「バジリスクの上位の魔物だよ」
バジリスクってさっきの…
「え、ヘビなの?!」
「ヘビに手足がついたやつだな」
「…それなら大丈夫だわ」
「———エミーリアは手足がついてるヘビならいいの?」
「だって手足があればトカゲでしょ」
「…そうなんだ」
ベルハルトが納得いかなそうな顔してるけど…だってヘビとトカゲは全然違うもの!
「大変なのは核じゃなくて鱗って所だよ」
「どういう事?」
「魔物は倒したら身体が消えるからな。生きた状態で鱗をとらないとならない」
「あ…そうか」
それは…面倒ね。
「———でもせっかくなら強い剣を作りたいな」
ベルハルトがポツリと呟いた。
そうよね!ゆうしゃのつるぎとかね!
「そうね、せっかくだから挑戦してみましょうよ。ルプス、ワイバーンは何処にいるか知ってる?」
「あーどこだったかな。確かずっと東…」
宙を見つめて考えこんだルプスは思い出したように私達を見た。
「ロートリンゲン王国の近くの山ん中だ」
思わずベルハルトと顔を見合わせる。
私達の…故郷の近く?
「それって…国の近くまで戻ることになるのよね」
「そうだな…」
「いっそ里帰りしてくれば?」
そんな気軽に…
「フリッツの奴も姫様に会いたがってたし、家族が心配してるんじゃないの」
「———僕達はもう国には戻らない」
「家族と喧嘩した訳じゃないんだろ。ちょっと顔見せるくらいしてやれよ。……俺みたいに二度と会えなくて後悔しても遅いからな」
それは…お母様の事…だよね。
「———」
森を出るまでベルハルトは黙り込んだままだった。




