兄妹 01
「遅い!」
空気が切り裂く音と共にベルハルトの剣が宙を飛んだ。
「相手の剣が見えてない!」
足元に落ちた剣を拾いベルハルトに向かって放り投げるとルプスは再び剣を構えた。
「次はちゃんと受けろよ」
———暇だ。
私達は森の奥にいて…目の前ではベルハルトとルプスが剣を交わしている。
魔法で援護するのは禁じられているのでただ眺めているのだけれど…正直暇だ。
…そもそも…何でこんな事になったんだろう。
私はベルハルト以外の人と結婚する気はないのに、カイが一方的に条件を提案してきて、それにベルハルトとルプスが乗っかって…
ねえ私の意志は?
万が一アーベルがベルハルトに勝ったら私カイと結婚するの?!
むう、納得できない…
何でみんな戦うの好きなんだろうな。
もっと平和に解決できないの?
喉も渇いてきた…
そういえばここに来る途中に野イチゴが生えてたよね。
ベルハルト達もそろそろ疲れる頃だろうし。
採りに行ってこようかな。
「姫様?」
ルプスがこの場を離れようとした私に気づいた。
「どこに行くの」
「野イチゴを採りに行くの。そろそろ休憩するでしょう?」
「一人で?危ないよ」
「大丈夫よ。あなた達は続けてて」
私だって魔法使いなんだからね。自分の身は自分で守れるもの。
何かまだ言いたそうなルプスに背を向けて私は来た道を戻った。
「わーい、沢山あるー」
一粒摘んで、毒とかないか鑑定して口に運ぶ。
野イチゴは酸味が強くて、これはこれで美味しいけど…前世で食べた甘いイチゴも食べたいな…
正直、食べ物は前世の方が美味しい。
貴族の食事はまだしも、旅先の食堂で出される料理は素朴な味付けのものばかりで…
元日本人としては物足りないのだ。
そういえば前にアイスを作ったことがあった。
フリッツは美味しいって喜んでたけど、やっぱり物足りなくて…この野イチゴ入れたら美味しくなるかな?
あ、そうだ冷凍イチゴは?!
試しに一粒を魔法で凍らせる。
んー冷たい!美味しい!
ベルハルト達も喜ぶかな。
ハンカチを広げて野イチゴを摘んでいると、背後に何かの気配を感じた。
———魔物…ではない?
殺気のような気配はなく…ただ私を見つめているようだった。
気づいていないフリをして、野イチゴを摘み終えて落とさないようにハンカチを縛って包むと私は振り返った。
そこに立っていたのは、長い黒髪に赤い瞳を持った男だった。
———わあイケメン!
美形に思わず見とれかけたけど…赤い瞳って…このひと…
「エミーナ様…」
しまった。
思わず後ずさると男は一歩前に踏み出した。
「ああエミーナ様…!」
逃げるより早く…あっという間に近づいた男の手が私の腕を掴んでいた。
「どうしてこんな所に!どれだけお探ししたか…」
「離してっ」
「エミーナ様」
「私はエミーナじゃない!」
いくら似てるとはいえ私は子供なんだから違うって気づくよね?!
「———エミーナ様じゃなかったら貴女は誰なんです?」
何故か…うっとりした顔で男は私を見た。
…なんかこのひとの目つき…怖い。
「こんなに美しいひとが他にもいるはずない。ああ唯一無二のエミーナ様…」
私の手を引き寄せると自分の頬をすり寄せた。
いやあ!寒気がするの!
「エミーリア!」
ベルハルトの声に私を掴む手が一瞬弱まったので、振り解くと私は逃げだした。
「ベルハルト…!」
私を抱き寄せるとベルハルトは手にしていた剣を男に向けた。
「エミーナ様?その男は…」
「動くな」
私達に近寄ろうとした男の背中に剣が突きつけられた。




