龍の王 01
「それじゃあ報酬だ」
「ああ。確かに」
「この依頼を受けてくれて助かったよ。…実はもう一つ、もっと強い魔物の討伐依頼があってね。できればそれも受けてもらいたいんだが」
「聞こう」
「本当に見たんだって!」
ギルドで報酬を受け取っていると、数人の男達が入ってきた。
「ドラゴンだろ?こんな所にいるのか?」
「でもあれは間違いない、本物のドラゴンだって!」
「おい…ドラゴンだと?」
ギルドマスターが男達に声を掛けた。
「あの伝説の龍族を見たのか?」
「そうよ、真っ赤なドラゴンだったよ」
男の一人が答えた。
「北の森の中でさ、茶色い髪の人間の少年が一緒だったぜ」
———え。
それって…もしかして……
漫画『龍の王』の主人公とドラゴン?!
やっぱり〝彼ら〟もいたの?!
「伝説の龍族?」
「深い山奥に住んでいる一族でな、滅多に人前には姿を見せないんだ」
ベルハルトの問いにマスターが答えた。
「龍族は魔物に近いがまた別の存在らしい。謎が多い一族なんだ」
「…会ってみたいわ」
「今依頼した魔物がいる森がその北の森だ。もしかしたら会えるかもしれないよお嬢ちゃん」
「本当に?」
わあ…もしも会えたら、どうなるんだろう。
漫画みたいに仲間になって一緒に旅したりするのかな。
ああでも…そうするとベルハルトがまた焼きもち妬くのかな。
私が少し男の人と話すだけで怒るんだもの。
今も…じと目で見てるし。
ギルドマスターと世間話くらいいいじゃない。
時々ベルハルトの愛が重いのよね…と前にボヤいたら「時々?常にじゃなくて?!」とルプスが驚いていたけれど。
…麻痺しているのかしら。
ルプスと出会ってから半年ほどが過ぎた。
旅に出てからはもうすぐで一年になる。
私も十六歳になった。
ルプスはマイペースで…時々ふらりと現れてはフレッツからの手紙を持ってきたり、私達の訓練の相手をしている。
その訓練のお陰で私達の腕もかなり上がった。
北の森は鬱蒼としていて、いかにも強い魔物が出そうだった。
大きな樹が日の光を遮り薄暗い。
「さすがにすぐには見つからないか」
かなり奥深くまで来たけれど、目的の魔物とは遭遇できていない。
「エミーリア、探知できる?」
「ん…」
周囲に意識を飛ばして魔物の気配を探る。
こういう森は魔物が多くて目的の気配を見つけ出すのはなかなか難しい。
近くにいればまだ分かるけど…
「———あ…れかな?」
一際大きな魔物の気配を察知した。
そしてその近くに別の気配…
これは…もしかして。
「どこ?」
「あの先よ」
私が指差した方に向かってベルハルトが急ぎ足で歩きだした。
「こんなん無理だって!」
ふいに前方から声が聞こえた。
「うるさいな、文句言わずにやれよ」
「ぜってー強いじゃんこれ!」
「強いから倒すんだよ」
ベルハルトと顔を見合わせ、気配を消してそっと様子を窺う。
そこには一頭の魔物と、二人の人間がいた。
剣を持った茶髪の男の子と、真っ赤な髪色の男性———
わあ、『アーベル』と『カイ』だ!
漫画そっくり!本物!
「エミーリア」
心の中で興奮している私にベルハルトが声を掛けた。
「あの魔物は依頼の魔物だな」
「ええ…そうね」
トラのような姿をした、長い牙を持ったそれは、溢れ出る魔力といい間違いなかった。
「あいつら…倒す気があるんだかないんだか」
ギルドの決まりでは、依頼を受けていない場合でも先に魔物に遭遇したものにそれと戦う権利がある。
だから私達はまだ手が出せないのだ。
「こんなの倒す前にオレが死んじゃうじゃん!」
「死んだらお前は所詮その程度のものだって事だ」
「ひでー!」
「いいからさっさとやれよ」
「…何を揉めているんだ」
呆れたようにベルハルトがため息をつく。
……漫画通りならば、あれはアーベルを鍛えているんだろうけど。
「あの子の力では…勝てそうにないわ」
どうみても力の差が大き過ぎる。いくらなんでも無謀だわ。
面倒くさそうな様子の赤毛の男に少し違和感を覚える。
あんなキャラだったかしら。
もっと主人公を大事にしていた気がする。
…まあ、性別が変わってしまった私が言えたものではないけれど。
「おい」
「うわっ」
痺れを切らしたベルハルトが二人の前に姿を見せた。
「その魔物は僕達が依頼を受けている。貰っていいか」
「あ…うん!」
少年の顔がパアッと明るくなった。
「だって!いいよねカイ!」
「あ…ああ」
赤毛の男は驚いたようにベルハルトを見て…そして私を見て、さらに驚いた顔を見せた。
「エミーリアは彼らを守って」
「分かったわ」
頷いて二人の側に駆け寄る。
「もっと離れましょう、危ないから」
二人を木陰へと誘導した。
「エミーリア…?」
頭の上から呟く声が聞こえた。
「あれ?何でエミールが女の子?」
え?
顔を上げると、赤毛の男が私を不思議そうな顔で見下ろしていた。
今…エミールって…
「———君は魔法使い?」
「ええ」
「あそこで戦っているのは…ベルハルトだよね。ええと…どっかの国の王子の」
「…そうよ」
「あれ?何で?」
私はベルハルトの名前を呼んでいない。
それなのに…このひとは彼の名前も、王子だという事も知っている。
それに私を———もしかして?
「———あの」
意を決して私は尋ねた。
「もしかして…あなた、『龍の王』というマンガを知ってるの?」




