魔族 03
王太子に魔狼の核を渡すと疑問を抱かれることもなく喜んで受け取った。
「それで、魔物の目的は分かったかい?」
「いえそこまでは…」
本当の事など言えるはずもない。
エミーリアを熱く見つめながらしばらく滞在していけという王太子の提案を丁寧に断って、さっさと城を出た。
「さてと。また西へ向かおうか?」
エミーリアを見ると…何やら様子がおかしい。
「エミーリア?」
「ベルハルト…眠いの」
とろんとした目で、身体もふらついている。
ほとんど寝なかったからな…
「どこか宿に入ろうか?」
大きくふらついたエミーリアの身体を抱き留めようとして———けれど次の瞬間エミーリアの身体が宙に浮いた。
「俺とした事が。忘れてたよ」
いつの間にか現れた…ルプスとかいった男が眠るエミーリアの身体を抱きかかえていた。
「お前…!」
くそ、こいつ…全く気配を感じなかった。
「そう怖い顔するなよ兄ちゃん。大事な事を伝えるのを忘れてたんだ」
「大事な事?」
「魔力を暴走させた子は体力を消耗して昏睡状態になるんだ。今の姫様のようにね」
やめろ、そんな愛おしそうな顔でエミーリアを見るな。
「今後もこういう事があるかもしれないから回復方法を教えてやるよ。付いてきな」
———悔しい。
こいつは…僕も、エミーリア自身も知らないエミーリアの事を知っている。
僕は大人しくルプスの後に付いていく事しかできなかった。
ルプスは王都の外れにある森の中深く入っていく。
やがて現れた小さな小屋に入っていった。
「ここは?」
「俺が王宮を探るのに寝ぐらにしてた小屋だ」
「…お前のベッドにエミーリアを寝かせるのか?!」
「いちいち妬くなよ兄ちゃん」
「その言い方はやめろ。ベルハルトだ」
「———ベルハルト」
ベッドにエミーリアを横たえるとルプスは僕に向いた。
「いいか、姫様と一緒にいたいなら覚えておけ。お前の光魔法は姫様にとって薬でもあり毒でもあるんだ」
「どういう意味だ」
「暴走を止めたり余計な力を使わせないよう抑制するには光魔法は有効だ。だが今の弱った姫様の身体には強すぎる。魔力を外にもれないようにしておけ」
「……それで、どうやって回復させるんだ」
「これを使え」
ルプスはベッドの脇に置かれた袋の中から何かを取り出して僕へと投げた。
「これは…魔物の核?」
「それを姫様の胸の上に置いて、包むように姫様の両手を重ねろ」
言われた通りにすると、黒い光がエミーリアの身体に広がって消えた。
「俺達魔族はこうやって他の魔物の魔力を取り込む事が出来る。やり過ぎは良くないからそこそこ強い核を一つ与えればいい。一日眠れば目を覚ますだろう」
ルプスは椅子に腰を下ろすと僕にも椅子に座るよう勧めてきたが、僕はベッドの縁に腰かけた。
「———さて。聞かせてもらおうかな、お前が何者で何故姫様と一緒にいるのか」
「お前に話す筋合いはない」
「俺がその気になればお前を殺して姫様を魔王の元へ連れていくのは容易いんだぞ」
———それは、そうなんだろう。
今の僕では…きっとこいつには敵わない。
「…僕はロートリンゲン王国の第二王子だった。エミーリアは伯爵の娘で…僕達は婚約している」
「ロートリンゲン?ずいぶん遠いな。何故こんな所にいる」
僕はここにいたるまでの経緯を簡単に説明した。
「なるほどねえ。それでこれから何処へ行くんだ?」
「決めてはいないが西へ向かう」
「西へ?何故」
「エミーリアが西へ行きたいと言ったから」
「———ずっと西へ行った先に何があるか知っているか」
「いや」
「俺達魔族の国だよ」
ルプスは口角を上げた。
「姫様は自分の素性を知らなくとも、無意識で故郷へ帰りたいと思っているのかな」
「…エミーリアがそれを望むのなら故郷でもどこでも行くよ」
渡しはしないけど。
「お前は相当姫様に惚れ込んでいるんだな。それに、姫様の素性を知っても全く動じていない」
「素性なんてどうでもいい。エミーリアはエミーリアで、僕のものだ」
ベッドに広がる黒髪を手で掬う。
「僕の望みは彼女と共に生きる事。それだけだ」
初めはただ強くなりたいと願っていた。
けれど今では、エミーリアを守るため———そして彼女といつまでも一緒にいる為に、より強くならねばと思っている。
それほどエミーリアは僕にとって大きな存在…いや、生きている意味そのものだ。
彼女が魔族だからといってこの心が変わるような、そんな軽いものではない。
「大した執着だ」
「何とでも言え」
「いやーうん、気に入った。俺も気が変わったよ」
「気が変わった?」
「姫様を見つけた以上、魔王の元に連れて行かないとと思ってたけど、うん、やめた。お前に協力してやる」
ルプスはその顔に笑みを浮かべた。




