少女と王子 02
部屋に戻ると、私はもらった殿下の似姿を取り出して改めて眺めた。
金色の髪に青い瞳。整った美しい面立ち…ベルハルトという名前…。
「知ってる…」
確かにこの人を知っている。
いや———〝昔〟知っていた。
私が生まれる前。
エミという名前で生きていた時によく読んでいた…漫画の中で。
私には生まれる前、別の人生を生きていた記憶がある。
この世界とは何もかも違う世界。
ニホンという国で私は、重い病気にかかっていて十五歳の時に死んでしまった。
病床でのエミの楽しみが本を読む事で…特に漫画と呼ばれる、絵をたくさん使った物語をよく読んでいた。
その中の一つ、死ぬ間際まで楽しみに読んでいた漫画があった。
『龍の王』という少年達が魔王を倒しに行く物語———その登場人物の一人にベルハルト殿下がそっくりなのだ。
顔だけでなく、名前も同じ…確か立場も同じ第二王子だったはず。
「……偶然、なのかしら」
それにしてはあまりにもあの漫画とこの似姿の絵はそっくりで。
あの物語で主人公『アーベル』と一緒に旅をする仲間は三人。
一人は普段は人間の姿をしているけれど実はドラゴンの『カイ』。
剣技が得意で一行のリーダー的存在の、王子『ベルハルト・エルフルト』…って…苗字も同じ…?!
そして残りの一人は魔法使いで王子の幼馴染のエミール…
あ、れ…?
『エミール・ホフマン』って…私と名前がよく似て…
ドクン、と再び心臓が大きく動いた。
え、待って?!
私は慌てて鏡を覗き込んだ。
この国では珍しい、黒い髪に菫色の瞳は…漫画のエミールと同じ色で。
顔も…あのエミールを女の子にしたらこういう顔になるような…
ドクン、ドクン、と痛いくらいに心臓が鳴っている。
———この世界にはドラゴンや魔物が存在する。
魔王は…分からないけれど…魔法ならある。
そうだ魔法!
私魔法なんて使えない…はず…
急に心がひゅっと冷たくなる感覚を覚えた。
———違う、私は魔法なんて使えない。
けれど無意識に私は手の平を広げるとそれを見つめていた。
何かが…そこに集まっていく感じがする。
…うそ、違う。私は知らない。
否定しようとしたけれど———
手の平の上に小さな光の玉が浮かんでいた。
「いやっ!」
叫んだ瞬間…光の球は弾け飛んだ。
「な、に今の……」
恐る恐る手の平を見る。
さっきの感覚を思い出そうとして…再び手の平が光ると球が現れた。
いくつもいくつも…まるでホタルの光のように、光の球が現れては浮き上がる。
「…うそ……」
違う。
これは魔法じゃない。
私は『エミール』じゃない。
だって彼は…彼の父親は———
それにあれは作り物の話だ。現実ではない。
いくら似ていても……
「違う…違うわ」
身体が震えるのを抑えるように、私は自分を抱きしめた。