旅立ち 04
「今回の報酬だ」
「ありがとう」
袋を受け取ると中を確認する。
———よし、ちゃんとあるな。
「いやあ、しかしあんた達は凄いねえ」
マスターが感心したように頷く。
「最初見た時はどこの王子と姫様かと思ったが。こんなに強いとは」
「それはどうも」
「それで次なんだが」
「ああ———実はもう移動しようと思っていたんだ」
「そうなのか?」
マスターは残念そうな顔をみせた。
「あんた達にしか出来なさそうな仕事があるんだが」
「…どんな仕事だ?」
「この先の森に魔物が棲んでいるんだが、冬になって餌が少なくなると森から出てきて人間を襲うんだよ。余りにも強くて倒せる者がいなくてなあ」
「引き受ける?」
エミーリアが頷いたのでマスターに向いた。
「分かった、その仕事受けよう」
「ああ助かるよ。領主様からの依頼だから報酬もたっぷりだ。しばらく遊んで暮らせるよ」
「それはいいな」
遊んで暮らすつもりはないが…いい宿に泊まれるならそれに越したことはない。
「明日にでも行ってみるよ」
ギルドから出ようとすると数人の男達が入ってきた。
「おお、あんた達か。噂の二人組は」
「噂?」
「人形みたいに綺麗な少年少女なのに容赦なく魔物を潰す二人連れがいるってあちこちのギルドで話題になっているぜ」
エミーリアと顔を見合わせた。
———あまり噂になるのは避けたいが…まあ仕方ないか。
噂になるくらいの戦い方をしている自覚はある。僕も、エミーリアも。
「そうだよ、今も例の人喰い魔物を引き受けてくれたんだ」
「そうか。そいつは凄いな」
「期待してるぜ」
マスターの言葉に男達が笑顔を見せる。
「…しかしお嬢ちゃんは本当に可愛いねえ。こんなに可愛い子は見た事ないよ」
「行こう、エミーリア」
一人がエミーリアの顔を覗き込もうとしたので慌ててエミーリアの手を引いて外へ出た。
「今回は報酬も多かったし、明日も大仕事になりそうだから今日はいい宿に泊まろうか」
「そうね」
エミーリアが同意したので昨日よりも大きな宿に向かう。
シャワーだけでなくバスタブ付きの部屋があると言われたのでそこに決めた。
大きなベッドの部屋なんて随分と久しぶり…いや、城を出て以来か。
城を出て五ヶ月。
最初は見た目で舐められたり、騙される事もあったけれど大分この生活にも慣れてきた。
ギルドを訪れて、魔物討伐などの仕事を引き受けてはその報酬で生活費を稼ぎながら移動する。
他には小さな町や村で病人を治療したりする事もあるけれど、それはほぼ善意的なもので宿や食事の代わりに引き受けている。
正直、城を出る前はエミーリアが旅に耐えられるか…不安があったけれど。
意外な事にエミーリアはこの生活にすぐ順応した。
安くて不味い料理も、狭くて固いベッドも———そして時には野宿もあるけれど、文句一つ言わない。
無理をしているようにも見えないし、毎日楽しそうだ。
こうやって外の世界に出るのが夢だったの、と言ったエミーリアは…どこか遠くを見つめていて、その横顔に少し不安を覚えたけれど。
今のところ旅は順調だ。———大きな問題が一つあるけれど。
「わあい、お布団ふかふかー」
エミーリアは無邪気にベッドの上で転がり回っている。
「これだけ広いと三人くらいでも眠れそうね」
「ああ…」
旅に出る時は、エミーリアといつでも一緒にいられる事がただ嬉しかった。
けれどすぐに…一つの問題に直面した。
いつも一緒という事は、夜寝る時も一緒なのだ。
———エミーリアに手を出さずに同じベッドで眠る事の、何と辛い事か。
もう王族や貴族に戻るつもりもないから、純潔を守る必要もないだろうが。
…十五歳のエミーリアにどこまで手を出していいのか、毎晩のように迷っている。
「エミーリア、食事に行こうよ。下の食堂でいいかな」
「はーい」
ベッドから起き上がって無邪気に笑うエミーリアは…うん、最高に可愛い。
貴族令嬢らしいお淑やかなエミーリアも良かったけれど…今のエミーリアはちょっとお転婆な女の子という感じで、また違う可愛さがある。
毎日エミーリアと一緒に過ごして、魔物と戦いながらこの手で金を稼ぎ、生きている。
———城を出て良かった。
家族の事が気にならなくはないけれど…今僕は、幸せだ。




