思惑 05
「ベルハルト様…」
「大丈夫。いつも通りにやればいいから」
頷いた私の頭をベルハルト様が撫でる。
そう言われても…このギャラリーの前でいつも通りなんて、出来るのかしら?!
私が魔法が使える事、ベルハルト様と訓練している事を陛下に知られてしまい…実際に二人でやっている所を見せるようにと言われ。
…てっきり陛下だけなのかと思っていたのに。
訓練場脇の東屋には、陛下とディート殿下に何故かお父様まで…。それと初めてお会いする人が二人。
体格のいい人は騎士団長さんで、もう一人は魔術師団長さんだそうだ。
———他の人はともかく、魔術師に私の魔法を見られるのはちょっと…抵抗あるけれど。
仕方ない。
観念して私はベルハルト様と向き合った。
まず準備運動を兼ねて、光の玉を出すとベルハルト様に向かって飛ばす。
剣で弾かれるとすかさず次の玉…といくつも飛ばしていく。
ベルハルト様の身体が温まった頃を見計らって、一気に光の玉の数を増やした。
色々な角度とスピードで飛んでくる光の玉を次々と剣で払っていくベルハルト様に向けて、炎で私の身長と同じくらいの長さの竜を作るとそれを放った。
次からは本物でいいと言われたけれど…さすがに陛下達の前なので、今日も幻の炎だ。
火竜とベルハルト様が闘うのを見ながら、東屋の様子を窺う。
お父様とディート殿下はぽかんとした様子で口を開けて見ていた。
陛下は…口は開けていないけれど、目を見開いて驚いているようだった。
二人の団長さんはさすがに冷静な眼差しで戦局を見つめている。
さて…そろそろいいかな。
私は手の平に水球を作った。
火竜は炎で出来ているので、いくら剣で切ってもまたすぐ繋がって元に戻る。
終わりがないのと…剣で炎を切れるようになりたいとベルハルト様の要望で、二人で考えたのだ。
「ベルハルト様!」
水球を投げると、ベルハルト様がそれを剣で受け止める。
剣が青い光を帯びた。
「はあっ!」
気を込めてベルハルト様が火竜へと走り込む。
魔力を帯びた剣を振り切ると火竜はジュウッと音を立てて消え去った。
「———ふう」
乱れた息を整えながらベルハルト様は私を見て口端を上げた。
「今日はいつもよりお上品だね」
「…だってお父様達が見ているから…ベルハルト様だって」
「———そうだね、父上の前だと思うと…よく見せたくなるね」
いつもはベルハルト様が私を挑発してきたり、互いに熱中する余りもっとごっちゃに魔法を繰り出しているけれど。
今日は二人とも…ちょっと格好つけてましたね、うん。
ベルハルト様に手を引かれて東屋へ向かう。
「こんな感じですが」
一同を見回してベルハルト様が言った。
「———ああ…いや」
陛下は私達を見て、深く息を一つ吐いた。
「お前達は…いつもこんな事をしているのか?」
「はい」
もう一度息を吐くと、陛下は隣の騎士団長さんを見た。
「ニクラス、どうだった」
「はっ。いや、参りましたな…。なるほど、殿下のあの腕は納得ですな」
騎士団長さんはいかつい身体と鋭い光を帯びた目をした、いかにも怖そうな見た目だけれど、喋ると人の良さそうなおじさまに見えた。
「我々の訓練は人間同士の手合わせが基本。ですが殿下は…いわば魔物と戦っているようなもの。戦い方も変わってくる。———うちにあの火竜を貸してもらいたいですな」
笑ってそう言うけれど、私を見た目には好奇心と…まるで獲物を見つけたような光が宿っていて。…それは初めて火竜を出した時のベルハルト様の目と同じ輝きで。
…騎士の人にとってはあの火竜はいい練習道具なんだろうな。
「アーベル、お前はどうだ」
「はい」
魔術師団長さんが私を見た。
「———あまりにも私の理解を超える魔法ばかりで、正直戸惑っております」
「そんなに違うか」
「はい。できればエミーリア様の力について詳しく調べさせて貰いたいのですが」
私を見つめる緑色の瞳が、やはり獲物を見つけたように光っている。
……私の魔法が他の人とどう違うのか、私も知りたいけれど…
「確かに…エミーリアの力は把握しておきたいな」
陛下は私を見た。
「君の力は諸刃の剣だ。私の言いたい事が分かるかな」
「…はい」
———〝エミール〟の力は、一人で一国の騎士団を超えると言われていた。
それは国にとって大きな戦力になると共に、万一敵に回る事になればこんなに厄介なものはない、と漫画のベルハルト王子も言っていた。
もしもそれだけの力を私も持っていたら…