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少女と王子 01

「はあー。今回も面白かった」

私はベッドに横たわると本を抱きしめた。

目を閉じると…白くて殺風景な部屋は消え、代わりに今読み終えたばかりの漫画の世界が脳裏に広がる。

魔物が蔓延る深い深い森の先にある魔王の城。

迷路のような城の内部をくぐり抜けて…やっと魔王がその姿を現した所で終わってしまった。


もう何年も続いている、退屈な入院生活。

味気ない毎日の中で数少ない楽しみが漫画や本を読む事だった。

その中でも私が今夢中になっているのが『龍の王』という少年向け漫画。

主人公がドラゴンの主となり、成長しながら仲間たちと魔王に立ち向かうストーリー。

新しい単行本が出たので早速母親に頼んで買ってきてもらったのだ。

「次はいつ出るんだろう…」

読んだばかりだけど、続きが気になる。

早く出て欲しいな…私が生きているうちに。


多分、私は一生病院から出られない。

手術をすれば治るらしいけれど…その手術に耐えられる体力がないのだ。

お医者さんや親は大丈夫、治るからというけれど…きっともう…

でも。

私だって…まだ生きたい。

家と病院しか知らないなんて…寂しすぎる。


「…私も…こんな風に冒険してみたかったな」

ドラゴンの背中に乗って空を飛んだり…魔法を使ってみたり。

そこまでは無理だけど…

もしも生まれ変わる事ができたら。

今度は健康で強い力を持った男の子になりたいな。





「……姉上。エミーリア姉さん」

誰かが肩を揺らしている。

「ん…」

「姉上。父上が呼んでいるよ」

目を開けると…青い瞳の少年が私の顔を覗き込んでいた。

「……フリッツ」

「起きた?姉上」

ふう、と少年はため息をつく。

「もう、またこんな所で寝て。姉上って本が好きなのか図書室で寝るのが好きなのか分からないよね」

「…どっちも好きなの」

本を読みながらお昼寝するの気持ちいいのよ!

「だからって本によだれ垂らさないでよね」

…え!本当に?!

大変……

「まあそれは冗談だけど」

にっと笑った弟を睨みつける。

この一つ下の十一歳になる弟は、最近急に身長が伸びてきた。

それと共に生意気になってきて…昔は可愛らしかったのに。

お姉ちゃんは寂しいわ。

「ほら早く起きて。父上が呼んでるんだから」

「はいはい」

せっかく夢を見ていたのになあ。

懐かしくて悲しい…〝昔〟の夢を。




「エミーリア、遅かったな。どこにいたんだい」

お父様の書斎に入ると、お母様が一緒に待っていた。

「姉上はまた図書室で寝ていたよ」

代わりにフリッツが答える。

「エミーリア…。図書室は寝室ではないと言っているだろう」

「ごめんなさい…」

「まあいい。実はエミーリアに招待状が届いたんだ」

そう言ってお父様は一通の封筒を机の上に置いた。

「招待状?」

「王妃主催のお茶会だよ」

王妃様?お茶会?

「お茶会というか、実はね…第二王子とのお見合いなんだけど」


「姉上がお見合い?!」

「え…どうして私が?」

「王子の結婚相手は伯爵以上の家の年頃の娘と全員会ってから選ぶ事になったんだよ」

「…でも私は……」

「お前は〝ホフマン伯爵の娘〟だ。招待状が届いた以上行かなければならないんだ。いいね」

「———はい…」

私がお見合いなんて…

まあ…他にも相手はたくさんいるみたいだからいいのかな。


「ベルハルト殿下はとても見目がいいと評判なのよ。その殿下を間近で見られるのだから楽しんでいらっしゃい」

お母様が笑いながらそう言った。

———ベルハルト?

その名前…どこかで聞いたような。

「似姿もいただいたのよ。ほら素敵でしょう」

差し出された絵を見て…私の心臓がドクン、と大きな音を立てた。

え……この人…?


「まあ、素敵すぎて見とれてしまった?」

絵を見つめたまま動けなくなった私はお母様の声で我に返った。

「え?いえそういう訳じゃ…」

慌てて首を横に振る。

「…ちょっと…考え事をしてしまって」


「お茶会は十日後だ。とりあえず参加するだけでいいが、失礼のないようにするんだよ」

「…はい」

頷いた私の頭をお父様の大きな手が優しく撫でてくれた。

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