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追撃者を無力化し、難を逃れたセリ。

一抹の不安から、保険をかける。

トキソプラズマ、この原虫を知っているだろうか。

こいつは三日月形の形をしており、全長5µm程度の小さな生物である。自然界では鼠やゴキブリを経て、猫等の最終宿主に寄生し、増殖・繁栄していく種である。人間にも寄生はするが、妊婦等から胎盤を通じて幼児へ感染する先天的な寄生を除けば、健康的な成人であればほとんど目に見えた発症はしない。


・・・そう、気をつけてさえいれば、声高にいっても怖いものではないのである。


ただし、中間宿主である鼠に寄生した段階では、この原虫は面白い症状を持っている。

このトキソプラズマ原虫は、最終宿主である猫等の腸内でしか、有性生殖を行わず、この生物は一刻も早く、生物本来の悲願である”生殖活動”を行うために、猫にたどり着きたいのである。そのために、中間宿主は、ただの入れ物、もしくは、自身を運ぶ生贄に過ぎないと考えている。

何が言いたいかというと、要は中間宿主である鼠を「早く自殺させる」のである。


「自殺させる」とは穏やかではなく、行き過ぎた表現のように聞こえるかもしれないが、実際にこの原虫は、寄生した鼠に対して血液中の白血球を乗っ取り、そこに正常な意識を阻害する化学物質を乗せ、思考の要である脳へ送り込んでいる。そしてその結果、鼠の思考に、危機感の低下や反応時間の遅延、無気力化の症状を起こし、猫に食べられやすくしているのである。


もちろん人間、ましてや亜人・獣人といった者達に同様の症状が起きるかと言われると、皆無である。

ただし、今回セリが使ったトキソプラズマ原虫は、この変異体である。


このよしこのぷくぷくとした体の中には、あの「蟲学」という本の中にも記載があったように、数種の寄生生物を飼っていることはわかっていたが、ただ単に飼っているだけでなく、虫と虫同士を争わせ、まるで蠱毒を作るかのうような生育環境であるようだ。だから、通常の寄生生物の行動を超えた生物がいくらでも体内に存在し、またそれらはすべて相利共生状態であり、害になることはない。一応よしこは主であり、各寄生生物は言うことを忠実に聞くようだ。


今回使ったのは、オリジナルの原虫のように鼠で発症させる”無気力”といった症状をより強大なものとし、人や亜人・獣人といった複雑な生物の中でも発症させる変異体である。


やり口として、よしこから自分の体内にオーシスト(卵のような状態)を経口摂取し、そして、吐瀉物から相手の体内へ寄生、爆発的な感染を起こさせたのではあるが、どの寄生生物も主であるよしこや自分の命令は聞くと信じてはいても、自分の体内に虫を入れるのは、少なくともいい気分では無い。ましてや、相手にどうやって寄生させるかが問題であった。

前回使ったような、目に見えて体外から寄生するものは、相手の速度が早すぎるため、失敗することはわかりきっていたし、相手がいたぶるのが好きな者でなければ、寄生させるチャンスもなく、俺はとっくのとうに死んでいたと思う。


ただ単に運が良かったのである。

「舐めてくれてて、ありがとう。」

そうセリは心の底から思った言葉を、すでに虚ろな表情の者に投げかけた。

「な・・・にをし・・たの・・・?」

そういって、倒れ込んでいるネコモドキは喋る。


「いろいろだね。そういえば、名前を聞いていなかったっけ。名前は?」


「・・・・シャミー・・・早く殺して・・・」


「シャミーか、いい名前だね。殺さないよ。安全には安全を重ねるためにも、良いことを思いついたから、助けて上げるよ。」

そういって、セリは暗闇の中、シャミーを担ぎ、国境に向けて、走った。

いつも以上に、息を切らせ、汗をかき、まるで映画のワンシーンかのように、感情がこもった動きである。


・・・・


見えてきたのは、鉄製の大きな扉と、国境警備隊の建物である。周りは高い塀で覆われ、何者も通さないという意思が見え隠れしている。警備兵が数人立っており、その警備兵にわざと気づかれるかのように、

「入れてください!モンスターに襲われているんです!友達が・・・!」

警備兵達は慌てて、少年と女を見て、驚く。少年の方は、体の節々から血が出ており、少なく見ても軽症ではない、また、担がれている女の方は、目が虚ろで、まるで何か毒でももられたかのような症状である。

また、いくら国境といえど、国道も整備されており、人の支配が続いてる場所で、そうやすやすとモンスターが出てくるのは、異常である。そんな異常が起こったときに、情報収集を行うのも警備隊の努めの1つである。

焦った警備兵たちの大半は、慌ててその建物を後にし、モンスター達がいると言われた方向へ、駆けていった。

いるはずのないモンスターを目指して。。。

通行許可を下す警備兵は残っていたが、周りの混乱に当てられたのだろう、セリが見せる身分証はほとんど見ず、この夜中に何の目的かも聞かず、通してくれた。


「もう少し開けた場所に行って、野宿をします。そこで手当をするので、大丈夫です。ありがとうございます。」

警備兵の心配する声を遠慮し、気丈にふるまう好青年として、セリは演じたのである。


もちろん、普通に通れたのかもしれないが、何が起こるかわからない。教団関係者が国境にいなくとも、また金で雇われたこのシャミーのようなやつが潜んでいるかもしれない。そんなやつに国境であらぬ疑いを駆けられて、邪魔をされてはたまったものではない。

少し強引な手ではあるが、演じさせてもらった。よしこは服の中に紛れ込ませ、プッシー・キャットは、芋虫特有の吸盤状の足を使い、入り口から離れたところの塀をよじ登らせた。(どうどうと連れていたのであれば、また変な疑いがかかる・・・・)


「用は済んだし、離れるか。そろそろ何もいないことを疑問に思った警備兵が帰ってくるかもしれない。」

そういうと、セリは国境を越え、アンク王国の森の中に消えていった。

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