相対
逃げられない追撃。見知った顔を見る。
セリは戦うしか無い。
「ひさしぶりにゃ新米。こんな夜更けにどこいくのにゃ?お姉さんを夜這いするなら方向が逆だから教えにきたにゃ」
あいも変わらず語尾にテンプレートなものがついてて、あざとかわいい人だな。
ただ、まあここで来たってことは、いわゆる刺客とかいうやつなのだろう。
「いやー、お久しぶりですね。またおきれいになっていらっしゃいますね。ちょっとモラトリアム脱却のため、一人旅でもしようかなと思いまして、あはははは」
適当な笑いが夜の闇に消えていく。
「じゃ!そういうことで!」
全然逃してくれないとは思うが、全力で走ってみることにした。
「待て!」
いつの間にか、自分の目の前に移動していた。
「どうしても逃してくれないんですね・・・」
「当たり前。こんな割の良いバイト無いにゃ。たかだかルーキー1人消すだけで30万Rosもらえるんだから。どうせあんたの人生なんてしょうもない人生だから、誰も悲しまないにゃ。私はお金がもらえてハッピーで言うことなしにゃ。」
言いたい放題言うこの女、こんなやつに少しでも好意を抱いた自分を恥ずかしく思った。
「言いたいことはそれだけですか。」
「それだけにゃ。じゃあ三途の川へ案内してあげる。」
そういうと、地面に平服するかのような極めて低い態勢をとった。やはり獣人、戦闘スタイルは野生のものか。
「形意拳、伏虎の構え」
地面がえぐれたかと思うと、眼前に現れ、大きな衝撃が走り、私は数m後ろへ吹き飛ばされた。
背面にある木にぶつかり止まった後、腹部への痛みから攻撃されたということがわかった。
胃が押し上げられると同時に、背部への衝撃も合わせて広がり、突進の速度をそのまま掌打に乗せ、私に打ち込んだのである。
大人しく胃の中に収まっていた食べ物が、忘れ物を取りに戻ったかのような自分の食道を高速で駆け抜けた。
びしゃびしゃびしゃ・・・・・
地面がカラフルに染まる。その中には鮮血も混じっているのが見えた。
「う・・・・おえ・・・・」
よしこが心配そうに、俺の目を見つめ、口元に寄り添う。
「・・・大丈夫だよ。」
「あははははは!何が大丈夫なのかにゃ!たった一発でもう瀕死にゃ。やっぱりルーキーを殺すのは楽しいにゃ。弱いものいじめ大好きー!」
まるでおもちゃの鼠を見るように、爛漫とした目を自分に向けている。
「一発で殺せただろ・・・なんでやらない。」
「やるわけないにゃ!こんな楽しいことすぐ終わらせられるわけないにゃ!もしかして、君早漏なのかにゃ?女の子は優しく・ゆっくりが好きなのにゃ。勉強しとかにゃいと!」
いちいち勘に触る喋りだ。喋り終わるとすぐに、俺との間合いを詰め、何度も何度も殴打を繰り返していく。
ただ先程と違うのは、より手加減をして俺を攻撃しているのがわかる。最初の攻撃で、足に来たため、俺が逃げられないのをわかっているのだろう。ゆっくり薄皮を削いでくかのように、痛みが広がっていく。
「死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡死ぬ♡死なない♡」
嬉々とした声で、俺を殴り続ける。
「癪に障る・・・。」
「あきてきたにゃ。もっと最初みたいにド派手にぶっ飛んでくれないと、観客として楽しくないにゃ。まだ死ぬなよ。」
そういって、数m遠ざかり、間合いを取ったかと思うと、最初と同じ極めて低い攻撃態勢を取った。
「今度はどれくらい飛ぶかにゃ!」
足の筋肉が膨れ上がり、一気に収縮したかと思うと、最初以上に地面が抉れ、私に迫ってきた。
同じような掌打が腹部を穿つ。
ルートはわかっている。腕で掌打を防ぐのは簡単だ。簡単だが、衝撃や痛みはどうしようもない。腕部を突き抜け、大きく痛みが広がる。
びしゃ・・・・また嘔吐が溢れ、相手の顔にかかる。
「汚い!汚い!汚い!汚い!汚い!汚い!汚い!汚い!汚い!口に入った!もういい、さっさと殺してお風呂入る!死んじゃえ」
そういうと、手に隠し持っていた暗器が現れた。
バグナグ、インドを発症とする暗器であり、指の間から鈍色の鉄の爪が光を見せた。
「これは良い武器にゃ、私のスタイルにピッタリにゃ。やっぱり武器はペトタヘフ製に限るにゃ」
殺気が溢れ、次の一撃で自分は死ぬのだろう、それほどの気迫に膝をついた。
その小柄でありながら、密集した筋肉の塊が風を切り、私に近づき、首元にバグナグが刺さった。
・・・・
確かに刺さったのである。確かに。それは薄皮一枚ではあったが。
「・・・・間に合った・・・」
そういってセリはボロボロの体を起こした。獣人の女は、目の焦点が合わず、さっきとは打って変わって、まるで鬱病かのうように、気迫が消えている。
「おかしいにゃ・・・?なんでかにゃ・・・?」 何の怖さも感じないその獣人から、ゆるやかに言葉が漏れる。
「変異体トキソプラズマ、寄生生物がお前の体内にはいっていったのさ。」
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