狙われる理由
狙われた理由を突き止めたセリ。
もう逃げるしかない。
「さあ、話を聞こうか。何の目的で、俺ははめられたんだ?」
そういって、床に倒れている女に声をかけたが、口ごもっている。
「・・・こっちは被害者なんだよ。さっさと言ってくれないと」
足に何十・何百と刺さっている毛の塊を指で、ぴんと弾いた。
「ぐうううううっっっ!!!さっさとあたしを開放しろ!こんなことして、ただじゃ置かないよ!!」
大口を叩ける元気はまだあるらしい。見た目と打って変わって、意外に強いやつなんだな。
「立場わかってんの?ばばあ。生殺与奪は俺が持ってんだよ。喋ってくれたら、ちゃんと処理するからさあ。喋らないのなら・・・どうしようかな。あんたがこんなところで、どんなふうに死んでも誰も気にもとめないだろうし、何してもいいんだよ?」
おもむろに、その女にささっている毛の塊を、足で思い切り踏みつけた。
「あああああああ!うるさいうるさいうるさい!だまれだまれだまれ!」
「元気な人だね。じゃあ、いつまで黙ってられるのか試してみようかな。・・・sword and barrelってゲーム知ってるかい?複数人でやるどこぞのゲームなんだけどさ。樽に猿を入れて一人ずつ剣を刺していくんだ。剣を刺していくたびに猿は痛がるが、樽の中から逃げないように樽と猿の足が釘で固定されている。あまりの痛みから猿が足を引きちぎり、樽から出てしまえば負け、もしくは逃げる前に殺しても負けっていうルールなんだ。何本も、何本も・・・・運が良ければ何十本と刺すこともある。ここには樽はないし、剣もない。でも・・ちょうどいいものならあるね。」
床に転がっている女を椅子に縛り付け、おもむろにプッシー・キャットの毛を一本抜き取り、女の爪の間にさした。
「いやああああああああ!!!!」泣き叫ぶ声がうるさい。
「何本まで耐えられるのかな。」次々と爪の間に差し込んでいく。
・・・・・・
両手足の爪の間をすべて刺したら次は指、甲、腕、肩・・・末端から徐々にゆっくりと上げていく。
何時間たったろうか、もう先程の威勢の良い声は聞こえず、ただかすれた声を漏らすだけであった。
「・・・・・いう。いうから、助けてくれ・・・・」 か細い声を女は上げる。
「お前は誰で、誰が、何のために、俺を殺そうとした?」
・・・・・
「・・・私はマリ。お前と同じ蟲使いのテイマーだ。すべて、マヘスの神官から依頼された・・・。」
「は?なんで神官なんだ?成人の儀で会ったことくらいしか明確な接点なんてないぞ?恨まれる覚えなんてない」
「お前は蟲使い・・・それで殺されるには十分何だよ・・・。そもそも蟲使いなんてこの世にいちゃいけないんだよ。アイツラからするとね。・・・・・・・・・。」
ぽつりぽつり語り始めた。
聞く内容は、こうだ。
マヘス神を祀っているこの国の神官は、基本獣使いが正とされている。もちろん優劣はあれど、他の種類も重要な位置づけのものとして祀られている・・・・聖典の中で。聖典の中には、神と悪魔が述べられており、神はマヘス神であり、その御使いは、5型の生き物をイメージとした空想上の生物が載っている。一方で、悪魔の内容は多く語られていない。腐肉を食らう者、暗闇を欲する者、誑かす者・・・・抽象的な記載のみである。しかし、この抽象的な説明が、原因なのである。悪魔とは”形がないもの”とされ、蟲がその使者であるとされているらしい。蟲とは幼生から蛹を経て、変態するものが多く存在し、それは形が全く別物になることから、悪魔と同じ”形がないもの”と位置づけられている。
それに適正がある者は、神敵になりかねないため、排除する必要があるというのが宗派内の暗黙の了解だそうだ。
だから、神託を受け取った段階で、もう俺は排除されることが予定として組み込まれていたようだ。今までも何人かいた蟲使いが同じ目にあっているらしい。
「・・・・だから情報が少ないのか。」
では、なぜ、同じ蟲使いのこいつは殺されていない?
こいつは、神敵としながらも、一部の上層の神官が、さらなる神敵の排除のため、特別に子飼いにしていたため、生き残っていたようだ。違う神敵がこいつの手で死ねばラッキー、逆にこいつが死んでももともと予定どおりという話だろう。
「・・・よくわかった。もうこの国にいたら、俺は危ないみたいだ。」
成人の儀に位置づけられているように、マヘス神を祀っているこの国は、ほぼ99%がマヘス教を信仰している。そんな中、神敵だと公言されれば、俺は逃げ場がない。おそらくまたこういった目にあうだろう。
もはや逃げるしかない。どこか遠くへ。
すぐ逃げては怪しまれる。普通を装い、今日の真夜中、出発する・・・・。
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