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「っんがああああああああああああ!!!!!おらっ!おらっ!おらっ!ホイホイホイホイ!!!」
タケルは、戦場を駆けながら一心不乱に手刀を奮っていた。
チョップ、チョップ、チョップチョップチョップ、チョップに次ぐチョップ。
武器も無い、防具も無い、味方もそれほど走ってない。
やたらめたら撃ちまくるのはチョップ。それだけ。が、しかし、
「オギョオオオ!?」
「ぐぴゃああああ!!!」
「ゴギャ」
「ギャアアアアアア!!!!」
奮ったチョップは余すところなく、魔王軍の上級魔物達をミンチにしていた。
首がへし折れ、胴が裂け、すっ飛んだ体は他の魔物を巻き込んで大激突を起こす。
「何だあいつ!デタラメだぁ!」
「隊長!隊長ォー!オレたち一体どうすれバインダー!!!」
「知らねえ!!!!!俺は逃げるぞ!!!!!!!!」
「そんなぁ!待ってよ隊長!今朝のカッコいいスピーチはどうしたんだゆぉ!?」
『デララララララララリャリャリャリャウラウラウラウラウラウラ!!!!!!!!!!』
「わああああああああああ、こっち来たあああああああああああああああ!?!?!?」
「ひぃいいいいいいいいいいい!!!!ごめんなさいぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!!!!」
魔王軍は、3日前に大々的な人類への侵略を開始した。
ミンチになった誰もが村や街、国を蹂躙し、そのことごとくを犯し尽くし、暴虐の限りを尽くしていた。
圧倒的な有利状況で、こまごまとした集落を除けば、残りは中央王都を陥落させるのみだった。
つい5時間前までは。
「ちくしょう、やるしかねえ!皆で一斉にヤリで攻めるぞ!」
「くそぉぉぉぉ!わかった!よし皆で囲めええええ!」
「「「「おりゃああああああああ!」」」」
魔物達が一斉にヤリを振るう。しかし、
『でりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!』
「おぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!」
「ママーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
「あぎょぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおおん!?!?!?!?」
突如現れた男、タケル。
彼が放つチョップは、どういうことかデタラメな軌道にも関わらず、彼に迫るあらゆる攻撃を弾き飛ばし、またその一つ一つが大砲、いやそれ以上にも匹敵する威力を備えていた。
『おりゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』
「助けてよぉぉぉぉん!ぐぼらっ」
「あべぶしっ」
「ゴンギョッ」
竜巻が砂を巻き上げるように、タケルを中心とした破壊の渦が戦場を乱れ動いていた。
その後に残るのは肉塊のみ。
「大隊長!兵数5分の1を切りましたぁぁぁん!!!;;;;;;;;」
「な…あ…そんな…そんなデタラメがあるか…我々は近接最強の第3軍だぞ!?なぜ一人の人間ごときにここまで損害を受ける!?」
「俺に聞かないでくださいよぉ…」
後方に陣取っていた武闘派幹部っぽい人がメチャクチャに狼狽えていた。汗ダラダラ。
「…ええい、仕方ない!」
武闘派幹部は懐から何か取り出して息を吹き込みました。
ぷおーん。ホーラ貝の音だ。
「てっ、撤退!撤退だぁーーーーーーーーーッ!!!!!」
「「「ひえーーーーーーーーーーーっ!」」」
音が聞こえた途端、
引くべきか、しかし引いたら死ぬより怖い懲罰が待ってる。と迷っていた兵たちが
一斉に、蜘蛛の子を散らすように退散していった。
「ぜぇ…はぁ…ひぃ…ひぃ…」
周りには魔物の肉塊が散らばるなか、タケルは肩で息をしていた。
どやどやどや。後ろから音がしてくる。
後ろからついてきたはずの王国軍をいつの間にか置いて、戦闘の中心まで来ていたようだった。
護衛に囲まれながら、馬に載ってきたちょっと偉そうなおじさんが声をかける。
「タケル殿…もしかしてこれら全て、また貴殿が倒したのか…?」
「はは…はい…」
タケルは疲れて崩れ落ちる。おじさんは慌てて馬から降りて駆け寄った。
タケルの傍に座り込み、腕を差し込んで体を起こす。
「タケル殿!?大丈夫か!?」
「あー、疲れた…もう、ここは誰もいませんよ…休憩に…しま…しょう…はヒッ」
「タケル殿!?タケル殿!?!?!?!?」
ガクッ。
「タケル殿ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
ただの酸欠だった。