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フレンドラブル  作者: 結崎ミリ
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第八章:日常そして依頼

 大逆転勝利を導いた張本人、天草しいなの名はすぐ様学校中の噂となった。

 一ヶ月もたたないうちに学校中の有名人。

 ついでに真堂会長と彩援さんの眼に狂いはないということで二人の評価もうなぎ上り。今回の依頼はフレンドラブル宣伝効果には十分だったようだ。

 俺としてはひっそりやりたかったんだがな。

「お前、フレンドラブルに入ったんだってな!」

「だってね!」

 朝のホームルーム前にとことこやってきたのは元村鈴原のあほコンビ。

「そしていきなりの活躍、大臣ジュンは一気に有名人だ!」

「だねぇ!」

「だってのに、えらくムスっとしてんのな。ホワット?」

「ホワット?」

「うっさい黙れ」

 天草の活躍を知るやつはいても、その影に隠れていた人物の名を知るやつなんていないと思っていた。

 その証拠に数日もてはやされてたのは天草しいなただ一人。

 活躍しなかったヒーローの名を誰が知りようか。

 ちゃかされても面倒なので俺も黙っていたのだが、どっから流れてきたのか、噂とやらは怖ろしい、まさかこいつらの耳にまで入っていようなんてな。

 実際に活躍したのは俺じゃないし、脇役代表として有名になる気もなかったし、こいつらはいつも通り鬱陶しいしで、俺の気分はすっかり参っていた。

 なにより、気分を害すのは決まってこの瞬間。

「ほら、あんぱんとカレーパンとやきそぱパン一つずつ、牛乳も買ってきてやったぞ」

「うんうん。あたしのパンがやってきた、さーんきゅ」

 天草に五百円ぴったりの食いもんを泣く泣く手渡す理由がどこにあろうか。

 財布の中身を拝む度に涙腺が緩みそうになる。

 主が樋口一葉から野口英世四兄弟に分裂したときは、それなりに心が痛んだものだ。今では二兄弟だがな。

 というのも、天草が野球の帰りに「賭けはあたしの勝ちだ。明日から二週間、あたしの昼ご飯はあんたが買ってきな。もちろんあんたのお金でね、よろしくさん」なんてほざきやがったからだ。

 覚えてやがったか、目ざといやつめ。

「今日ならあたし、フレンドラブルいけるから。依頼もどんどんこなさないと溜まる一方だしね」

 パンを受け取りさっさと教室に戻る天草。

 そっけないね。振り向いてほしい、とかなんらかのフラグを立てるつもりは毛頭ないが。

「じゃ、また部室で」



 教室の窓から桜を眺めていると、緩やかに刻が流れているように感じる。

 春先の和やかな空気は好きだ。

 自然に溶け込んだような涼やかな流れ……耳に残る雑音さえなければ。

 六時限のホームルーム、それも読書だなんて眠くなるだけなのに担任教師の井岡は、生徒に読ませるわけでもなく一時間中ずっと羅生門を読み続けるそうだ。

 羅生門は名作だが今は読む気がしない、一人で勝手にやってくれ。

 井岡の低音ボイスは不快以外のなにものでもなく、こうして神経を外へと逸らしているわけだ。

 長い一時間だった。途中で寝ちまったけどな。

 授業終わりに第二生徒会室へ立ち寄るのは、もはや日課になっていた。

 ノックを忘れない俺はどっかの陸上部女とは違って常識に長けた男である。

 あのパン食い虫め、俺の野口英世を返せ。

「どうした? なにやら意気消沈だな。だが安心しろ、我と共に居れば幸せは逃げない。貴様の未来は楽しい学園生活で溢れているぞ」

 いつものようにポジティブシンキングな会長。

 少しでいいからその精神を分けて欲しい。

「ハッピーな未来予知をどうも」

 会長の半分はポジティブで出来てるんじゃないかと思いながら、俺は彩援さんの眼鏡姿に視点を移す。

 頭から垂れたしっぽが二股になっていた。

 ふむ、ポニーもいいがツインもお似合いだ。ポイント高いね。

「美零さん、俺と天草が任された依頼書を見せてくれませんか?」

 ちなみに美零さんと呼んだのは今日が初めてだ。これほどまでの美人秘書と更なる親睦を深めたいと思うのは、男として自然の理だろう?

「全てですか?」

 なんの抵抗もなく、苗字以外で呼ぶことを許可してくれたことに少し安堵した俺は、

「全てです」

 と珍しくまじめにサークル活動に前向き姿勢で告げた。

「はい、これですね」

 テキパキ動く出来る女性を体現しているかのような無駄のない動きで、数ある紙束から数枚の紙を抜き出し、俺の手元に置いてくれた。

 さすがサポートプロフェッショナル。

「ありがとうございます」

 美人というのは、いつ、どこで、なにをしていても似合うものだ。

 景色が服がオーラが彼女の美を素敵に装ってくれる。

 眼鏡のつるを上げる仕草に心打たれるね。

 美零さんの美貌に疲れの吹き飛んだ俺のハートは、手元のそれに立ち向かう気力でみなぎっていた。

 えぇっと、数は十数枚……さて、どれからこなすか。

「こんちはー」

 鞄片手にやってきたのは学校のヒーロー天草しいな。

 スカート丈を膝上すれすれに折るのは最近女子の中で流行っているようで、スポーツ少女といえど例外ではない。

 本人は軽い気持ちでやってるんだろうがこいつは嫌になるほどそれが似合ってやがる。

 胴より脚の方が長い人間てのはテレビの世界と美の象徴、彩援美零さんだけだと信じてたのに。

 やれやれ、一目でそうだと判断できるこいつの脚の長さが憎たらしい。

 ヤスリでごっそり削ってやりたいね。

 脚長戦隊ヒーローしいなの登場にいち早く反応したのは、萌える星人バルタン冷炎だ。

 俺にとっちゃ、どっちもただデカイだけの馬鹿。

「天草しいなか。うむ、今日も一段と美しい」

「………………どうも」

 会長のうっとりオーラを、うっ、とした表情で逃げ腰の天草。

 とんでもない女に愛されたもんだなこいつも。同情するぜ。

 部室の八割を覆い尽くす愛の会長眼から回避する方法を検索していた顔面ひきつり女は、俺の手元に置かれた物体にわずかな希望を見出したのだろう。

「それが依頼書かい! けっこう枚数あるもんだね! あんたもそう思うだろっ」

 無意味に腹立だしく無意味に声量を二倍にして無意味なファイティングポーズを向けてきた。

 お前は時代遅れの悪役レスラーか。

「はいはい思う思う。ていうか、ふつうに動揺しすぎだろ」 

「うっさい! そんなことはどうでもいいんだよ! たくっ」

 照れた表情が実に不可解。こいつひょっとして……マジであっちなのか?

 健全な男女の恋愛とは別ジャンルの領域、これはいわゆる百合というものではないだろうか。深夜中に放映されていた「近所のはるかちゃん」ってアニメで一度だけ見たことがある。わざとじゃない、深夜に突然眼が冴えてしまってそのまま一時間くらい寝付けない日ってあるだろう? んで、眠くなるまでテレビでも点けてようと思って電源を入れたら、ツインテールのかわいい中学生っぽい女の子が眼を瞑っていて、茶髪ロングの強気そうな女の子が「バーカ」とかいいつつツインテ女の子に唇を重ねたっつうとんでもないシーンが映されやがったんだ。俺は口をあんぐりしたね。で、破廉恥シーンを放映しやがったテレビ局にクレーム出してやろうと「近所のはるかちゃん」のホームページを開いたのさ。で、出てきた用語が「百合っ娘ドタバタアニメ」っつうキャッチコピーだったって話だ。調べてくうちに百合ってのは最近のアニメ界では流行りの風潮らしいってこともわかった。同性同士でイチャイチャしとる絵なんてどこがいいのかねぇ、最近のオタクってやつはそういう感じのなにがいいのかねぇ。全くもってけしからん。

 まぁなんだ、困ったことに最近の天草の行動を観察してると「近所のはるかちゃん」に登場する茶髪で強気な女の子に瓜二つなんだよ。だからデジャヴっつうか、それっぽい疑惑を持ってもおかしくないだろ? だからこそ検証の意味を含めて俺は「近所のはるかちゃん」の視聴を続けることにしよう。天草が道を外さぬよう、仕方なくな。

 そんな同じ部員の為に自身を犠牲にする優しき男の心などいざ知らず、純なのか短気なのか微妙なラインの女は、「はぁ……どいつもこいつもまったく」と小声で呟き、

「……もういい。で、どれからいくんだい?」

 半分投げやりにそういってみせた。

 ラリアットかまされなかっただけマシか。

 可哀相なのでこれ以上弄るのはやめておいてやろう。

「んー、やっぱ期限が迫ってるものからいくのが順当じゃないか」

「そうだね。ある程度予定を決めて、地道に一つずつ確実にこなしていくしかないか」

「んじゃ、ちゃっちゃとやりますか」

 ここで一ついっておこう。

 普段、忙しい人間と数十もの予定を合わせるのはかなり大変なことだ。

 依頼書はそう短時間でこなせるものではなく、中には一日以上かかるものも存在する。 

 そういうわけで、その日、依頼書に眼を通しては話し合い、眼を通しては話し合いを繰り返していると、すぐに空はオレンジ色に、まだ大丈夫かと話し合いを続けていると、次には暗闇に染まっていた。

 まだ半分も決まっていないまま、その日は仕方なく帰宅。

 結局、陸上メインの学生には暇な時間などありはせず、サークル活動をこなせないのは明白だった。

 まずい、入部すると見栄を切ったばかりなのにこれはまずい。

 資料の膨大さから予測するにフレンドラブルは天草なしじゃ成り立たない鬼畜サークル間違いなしだってのに。

 だが打開策が思いつかない。ちゃっちゃと終わらせるとかほざいてたあの頃が懐かしい。

 仕方ない、不本意だがあれを使うか。

 つまりどういうことかというと、俺たちは危機的状況打破を、会長に全て任せたのだ。

  


 そしてそして事後報告。

 俺の考えは凄まじく正しかった。 

 真堂会長本人談によると、

 幸い天草以外の陸上部部員はフレンドラブルを全面肯定しているらしく、プラス会長必殺、愛の熱意眼により、陸上部エースを二日に一回のレンタルに成功。とのこと。

 契約成立おめでたいが、部室の扉が二度ひらくまで三十分もかかってないぜ? 部室を出て教室までの往復で十五分くらいかかるので説得自体は十分もかかっていないだろう。  

 五ダブリュー一エイチをどう組み合わせたのかさっぱりわからん。

 さすがは完全無欠の生徒会長真堂冷炎様の口頭術といったところか。

 ま、天草はどうせ会長の求愛で簡単に屈服したんだろうがな。

 それから更に三日かけて、ようやくスケジュールらしいスケジュールが完成し、ようやく、サークル活動スタートの火蓋は本格的に切って落とされた!

 


 さて、なぜこんなことになったのか。

 そうだな。

 俺の精神状態を簡単に要約すると、面倒事を抱え込んでしまった後悔、か。

 フレンドラブルの活動は、予想を上回る民間ボランティアだった。

 三日かけてグラウンドの草むしりをしたり、都会のゴミを回収しようの会に強制参加させられたり、女子生徒数人のダイエット作戦に付き合わされたり、季節遅れの寒中水泳を見届けたり、喧嘩中の女子二人を仲直りさせたり、ひどいものでは、旅行に行くからその期間の郵便物を確認してほしいだの、テストが近いから勉強教えてくれだの、憧れの先輩へのラブレターを代わりに書いてくれだの、なんでもあり。

 そんなこんなで季節は涼しげな桜とともに過ぎていき、輻射熱が肌を焦がす夏色を迎えようとしていた。

 人間というのはなんとも素敵な生き物で、酷は酷とも思われたハイリスクローリターンボランティア活動にも身体は慣れてくるものらしい。

 ま、数ヶ月も経てば当然か。

 ところで太陽というのはどうしてここまで熱気を放出しているんだろうね。

 核融合なんて原始レベルの問題は生物を巻き込まない宇宙の果てにて自己解決してほしいもんだ。

 まったく、汗拭いタオルが欠かせないな。

「いいよねあんたは。あたしなんて練習で毎日赤外線にさらされて、焼きたてパンみたいにこんがり焼けそうだってのに。あーあ、さすがに日焼け止めクリームも塗り飽きたね」

 そう思うなら歩きながら塗らないでほしいな。

「ばかだねあんた、塗らないと黒くなっちまうじゃないか。ガングロだよ、ガングロ? ヤマンバギャルはお断りさ」

 ふと、ヤマンマギャル天草を想像してみた。

 うん。そうか、そうだな、そうだとは思った、そうに違いなかった。

 似合う似合わないの領域にも乗らないほどの悲惨な姿に、ひどく嗚咽を感じた。

「……ガングロはやめてくれな」

「はぁ? だからやらないっていってるじゃないか」

 見事なハテナが頭上に浮かんでやがる。

 俺が吐き気を止められないことなど微塵にも感じてないんだろうな。

 うっダメだ……ヤマンバ天草を脳内消去してもかすかな残像に気分が悪くなる。

 いっそ脳細胞ごと記憶回路を溶かしてしまうのも手か。

 いや、それは最終手段に取っておこう。人間には忘却という素晴らしい機能がある。

 忘却スイッチオン! 気分爽快、俺は痛快、世界がお花畑に包まれていくぜ! さぁ、一刻も速く話題を変えようではないか!

「そういえばさ、最近依頼にも慣れてきたよな。さすが俺たちって感じだぜ! おいおいおいおいオイシイぜ! ひゃっほー。さぁて、今日の依頼はなんだったか」

「………………へぇ」

 一歩、二歩。そいつはゆっくり後退する。

 頼む、光無き眼だけはやめてくれ。

「……やけにテンション高いね。変なスイッチでも入ったのかい?」

 入ってねぇよ(正確には入ったが)。だが今回ばかりは俺に非がある、ここは流してやろうではないか。

「それより、今日の依頼だよ、依頼」

「ん、あんた知らなかったのかい? 猫探しだよ」

「猫探し? 誰のだ」

「知らない、だからこうして昼休みに第二ボランティア部へ向かってるんじゃないか」

「そうだっけ?」

 天草は薄目でじっとこちらを見つめ、

「はあぁーぁ」

 哀れさとがっかり感を足して二で割ったような溜息をもらした。 

「あんた、しっかりしてくれよ。そんなんじゃ、あたし一人が頑張らなきゃならないだろ」

「ふーん。ならもっとだらけようか」

「ばか」

 馬鹿はおいといて。

 道中、人生楽して暮らせる方法を脳内図書館で検索してもヒットしないので天草に相談したのだが、完全に無視された。

 フレンドラブルは学生の悩みを解決するサークルじゃなかったのか。

 ま、真面目に答えられてもこっちが困るがな。とかどうでもいいことを考えてるうちに部室の扉は開かれた。

「して、猫探しとは?」

「はい、ご説明致します」

 本日もお色気ムンムン美零嬢は、秘書っ気百二十パーセントの女神風を吹かせる。

 如何なる為か、如何なる意味を持ってか、本日、彩援美零さんはその舐めまかしい括れにタイトスカートを装着していらっしゃるのだ。

 形良いヒップがぴっちり張り付く。組み替える度にチャンス到来、見えそうで見えない秘密の花園、大胆にカットされたスリットから覗かせる滑らかな太もも。どれをとっても完璧。絶対無敗の完璧な布陣。

「昨日から家で飼っていた猫のひーたんがいなくなったので探してほしい、との依頼です」

 太もも秘書は依頼内容を説明しながら、左手は資料分担、右手でテンキーたたくという三つの作業を同時に行っていた。

 百年時間を停止させる方法を模索していた俺もこれには感服、さすがに耳を傾ける。

 彩援美零眼福専用、時間停止空間歪曲ジーストーンはまた今度発明しよう。

「猫の種類はヒマラヤン。本人曰く、つぶらな瞳と長く伸びた髭がとても愛くるしい我が家の子猫ちゃんで、首に黒字で『ひーたん』と書かれた首輪を付けているとのことなので、それが目印になるかと」

 首輪の目印につぶらな瞳と長く伸びた髭ねぇ。

 ん? ちょっと待てよ。

「依頼者は来ないんですか?」

「はい、学校を欠席しております。先日から体調不良で熱を出してしまわれたようです。おそらく愛猫がいなくなったことでの精神的ショックによるものかと。依頼もメールによるものでした」

 飼い猫がいなくなって熱出すなんてどんな溺愛だよ。というかメール便でも依頼可能とは我がサークルフレンドラブルは全校生徒になんて親切、なんてお手軽サークルなのだろうか。そのうちイタズラ小僧の火事騒ぎとかで出動させられそうだ。

 ふぅ……まっ、依頼は依頼。

 飼い主が病気で欠席ってんなら仕方ねぇか。

「よっぽど大事な子猫ちゃんなんだね」

「らしいな」

 俺たちのやりとりを黙って訊いていた会長様は、意を決したように立ち上がり、

「野良と違って飼い猫というものは自力で餌を調達する手段を持ち合わせていないこともある。さすがに一日で飢え死にすることもあるまいが、兎にも角にも早々に見つけてやらねばならんな」

 まるで独立宣言を決め込んだ大統領のような勢いで、ごくごく当たり前のことを口走る真堂冷炎。

 そんなことは革命家っぽく宣言されなくても皆わかってる。だが、

「捜索範囲が広すぎるだろ。当てはあるのか?」

「当てはない。広範囲を虱潰しに探すだけだ。幸いいなくなったのは昨日、まだそう遠くへは行っていないはず。我ら全員で分担して捜索すれば、可能性はある。問題ない」

「へぇ……」「捜索ね……」

 当面最大の問題をあっさり打破したようないい回しが、俺と天草のやる気メーターを三割くらい減少させた。

「問題ない」いっそ、その一言に集約させてもらった方が幾分希望を抱けたというものだ。

 数時間先の未来に溜息が漏れるね。

 やる気を背中に宿している美零さんが逆に羨ましい。

 ポジティブっつうか無謀つうか、相変わらず根拠のないことを自信満々にいうよな、会長は。

「大丈夫だ。わずかな可能性があるのなら我らに不可能はない。フレンドラブルは学生の希望、そうだな美零」

「はい、会長」

 この二人の自信はいったいどこから湧き出てくるんだろうね。

 脳内辺りに源泉でもあるのだろうか。

 パイプでも繋いでおすそ分け願いたい、ワンコインくらいなら払ってやるぞ。

「あたしも同意見だね」

 口に手をあてた隣の女がひそひそ声でいった。

「根拠のない自信は身を滅ぼすっていうけど、会長と副会長のは特別な材質で出来てそうだからね」

「レアメタルとかか」

「もっとさ。宇宙の果てでしか採取できない未知の物体に違いないよ」

 天草の推理に共感した俺は眼前にある二つの銀河に小さく感動。

 宇宙単位か、売ればいくらで売れるだろう。

 小声で密会を始めた俺たちをどう解釈したのか銀河一号は

「貴様らは仲がいいな、さすがの我も嫉妬してしまうではないか。そんなに至近距離で、大胆な者たちだ」

 卑猥な表現を一方通行に主張しやがった。

 勝手な誤解だ。

 俺と天草がお前の想像通りの関係になる理由を四百字詰め原稿用紙四枚以内で要約し提出しろ。たぶん九割はバツをいれることになるがな。ってそんなこといったら消しゴムで何百回と消した後が残った傑作をほんとに提出してきそうなので口にはしない。

 口にしなかったついでにもう一つ。

 やっぱ脳内置換能力壊れてるわこの人、アーメン。

 俺が優秀すぎる人間とはどこか一般人とは欠け離れた一面を持っていることを確信していた間も、こいつらは好き放題やっていた。

 会長はにやついてるし天草は必死にいいわけしてるし彩援さんは顔を赤らめてるし。なるほど、フレンドラブルは部員揃って脳細胞が腐りつつあるようだ、むろん俺も含めてな。

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