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フレンドラブル  作者: 結崎ミリ
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第四章:フレンドラブルというサークル

 数分後、

 で、俺は現在、その第二生徒会室にいる。

 逃げ出したら俺も校内放送でさっきみたいな告白めいたことをいって呼ばれそうだし、仕方なくパイプ椅子に腰を降ろしているわけだ。

 例のサークルとやらは生徒会室と分ける為に今年からこの部屋でやるんだと。

 この部屋、第二とはいっても生徒会室。

 いくつもの本棚にアルファベット順に並べられた書物と資料、書物だけでも二百冊以上はありそうだ。

 二つの長テーブルには古そうなノートパソコンが四台と、十のファイルが入った赤のカラーボックス。そして生徒会には欠かせないホワイトボード。

 それだけ。

 部屋は綺麗だが、ほんとに使ってるのかといいたくなる部屋。

 そうだな、ほこりまみれだった資料室を三日掃除してなんとか使えるようにした、という印象だ。

 それにしても、会長さんも彩援さんも天草しいなって女がとても気に入ってるらしい。

 ずーっと、「やっと念願の天草しいなですね」「やっと我々の天草しいなだな」と待ち遠しかった夏休みを明日に控えた先輩後輩みたいな、初めて会う人間を指したとは思えない会話をしている。

 さっきいってたみたいによほどの人材なのか、それとも過去に命を救われたとかで多大な美化からくる幻覚を見ているとかそんなんか。

 前者なら、会長さんや彩援さんみたいに名前通りの人物なのだろうか。

 ――しなやかな肉体にピューマのような脚、カンガルーのようなバネ、陸上部で期待されている以上の器。顔つきはほどよく愛らしく、なおかつ気高さと気品に溢れている――

 うん、悪くない。

 短距離か長距離か障害物かは知らないが、どの種目も高水準を叩き出す、走ることに特化した陸上部女子に必要な優秀なパーツが揃った女性といえる。

 加えて、気高さ気品さを持ち合わせる雰囲気。ある意味人を惹きつける一種のカリスマ性といえなくもない。野球部補欠組の俺から見ても、カリスマ性を持つやつはキャプテンやらエースやらチームの指揮を高める役目を果たしてたからな。

 とまぁ、このように俺みたいな凡人が簡単に考察してみても、天草しいなって女は会長か彩援さんに継ぐ超人に含まれるだろう。

 最も会長さんの評価が妥当なものであるなら、の話ではあるのだが、学生諸君の憧れ完全無欠の生徒会長が褒めちぎる逸材ってのは、そこそこ期待出来るかもしれない。

 そうだ、会長さんのイメージは外見的なものだったから、内面を想像してみよう。 

 天草しいな

 まず名前からして強気だな。それに頭がいい。性格は……たぶんいい。悪くはない、と思う。

 天草という珍しい苗字がどうしても、島原の乱で十字架を掲げて指揮をとったといわれるキリシタン、天草四郎時貞を想起させるんだよな。ゲームでも有名だし。でも実物とゲームに出てくるキャラクターは全然似てないんだっけ。


 俺が実物とフィクションの違いが人のイメージにもたらす影響力について考えていると、

 ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ

 蝶番が外れそうな勢いでそいつは現れた。

「あんなこっぱすかしいことをやってくれたのは、あんたかい!」

 大声でいきなりの喧嘩腰。

 初っ端から全力全開。

 礼儀もなにも知らない短髪イカレ女は両手で机に平手打ちを喰らわせ、怒りを炸裂させた。

 まず扉を開けるときはノックくらいしろ。

「あんたは黙ってな!」

 怒られた。

 天草しいな、外見的イメージは悔しいがぱっと見一致する……が、内面的イメージは全くの別物。

 ただ怒りを形にした礼儀知らずの女。天草四郎時貞とは一欠けらも似ていなかった。

 もう知るか。

 イメージだけで性格想像するのは、もう二度としないと決めた瞬間だった。

 俺はぶち切れ女の矛先を早々に、眼を輝かせている生徒会長へと視差する。。

「あぁほんと腹立つ! 陸上部のみんなに笑われたよ……たくっ! あぁもういいやわかった。まずそっちの事情を訊こうじゃないか。それで、完全無欠の生徒会長様があたしになんの用だい。ちゃんとした正当な理由をいわないとあたしは許さないからね! 一応いっとくけど呼び出し喰らうようなことは、まだ、してないつもりさ」

 眼の充血具合でいうと紅面が白面を覆っちまう五秒前ってほどキレまくってるが、一応事情を訊く気ではいるらしい。

 会長さんは輝きの光を黒眼に宿らせながら、それでもとかく冷静に、かつ大胆に脚を組み替える。

「うむ、さすが我の見惚れた娘、話が早いな。簡潔にいうとだ、天草しいな。我はお前にこのサークルへ、入部をしてほしいのだ。我らには、どうしてもお前が必要なのでな」

 天草しいなという名の怒りスポーツ女は、はっきりくっきりと身体全体で「絶対に嫌!」と公言している。

 俺もその意見には同意だが、そこまでのエネルギーは持ち合わせていない。

「ま、意味もわからずここにいるのはお前だけじゃないさ」

 俺のことを、天草は「あぁん?」と喧嘩腰に、会長さんは大きく眼を見開き、彩援さんは無表情で、三種三様の表情を見せた。

 表情を最初に変化させたのは会長さんで、間合いを測る剣士のような真剣な瞳になり、

「貴様は――」

 居合い切りのような手刀が空を裂く。

「うわっ」

 俺は思わず腕でガードを計ったが、明らかに出遅れた。

 斬られる!

「我の創設したサークルを知っているか?」

 疑問符を合図に切り傷のないことに気付いた俺は、思わずつむった瞼を見開くと、切っ先より鋭い人差し指が、鼻先で寸止めされていた。

「すっげぇびっくりした……」

「で、どうなんだ?」

 鞘に収める気配さえない指先。

 びびりまくる男子生徒に対して天草しいなはいたって変化なし。

 陸上部ではこういうの日常茶飯事なんだろうか。

 まだ心臓がどきどき唸ってやがる……。

 俺は真堂冷炎の攻撃範囲から遠ざかるように、一歩半距離を置いた。

「地方から引っ越してきて、高校に入学したばかりだから……知らねぇ」

「お前はどうだ、天草しいな」

 切っ先は天草に向く、が動揺なし。

「噂には訊いてるけどね、詳しくは知らないよ。興味もない」

「ふむ、そうか」

 ようやく剣を鞘に収めた会長は、ため息をつき、残念そうに頭を横にふる。

「我がサークルの知名度がその程度とは、実にいかんな。いかんせん、さらなる精進をせねば――。美零、二人に説明してやってくれ」

「はい、会長」

 俺らのやりとりを黙って訊いていた彩援美零さんは、あらかじめ録音しておいたテープを始めから流したみたいに決められた台詞を一字一句間違えず、次のようにいった。

「第十二生徒会会長、真堂冷火様が、昨年より直々に設立致しました、サークル名、フレンドラブルについて、生徒会副会長兼、フレンドラブル書記担当、わたくし、彩援美零が、フレンドラブル会長でもあられまする、真堂冷火様に代わりまして、ご説明します」

 サポートプロフェッショナル彩援美零さんの、有名大企業の美人秘書みたいな、いかにも噛んでしまいそうなきりっとした説明によると、

 フレンドラブルとは、生徒会長、真堂冷火が生徒会会長職であるのにも関わらず、運営しているサークルのことであり、絶対普遍のサークルだとかわたくしの尊敬する会長の素晴らしいサークルだとかこれほどの完全無欠な生徒会長は他におりませんとかなんとか。

 会長さんをどれだけ好きなのかはわかりましたから、彩援さん。

 ここでいっておくがフレンドラブルは部活ではない、あくまでサークル、会長の暇つぶし、いってしまえばお遊びである(おそらく)。

 しかし、自他ともに認める完全無欠の生徒会長なので、そのお遊びも普通には留まらないようだ。

「このサークルの主な活動内容は、人の悩みをキレイさっぱり解決すること、これに限る。もちろん金額も発生しない、ゴミも出さない、この青い星に優しいリデュースサークルなのだ」とは、真堂会長様様のありがたきお言葉。ボランティアかっての。

 フレンドラブルというけったいな名称が付いているのには、ちゃんとした理由があるようで、それはこのサークルにかけなければならない部員の想いという、歯も浮きそうな願いとやらを芯とした、三本の矢のなん百倍は堅そうな、究極の三本柱によって命名されたものらしい。

 究極だぜ? ダイヤモンド並なのか?

「究極の三本柱に関する資料がこちらです。眼をお通しください」

 赤のカラーボックスから一つのファイルを取り出し、資料を抜き出し渡された。

 渡されたので眼をやる。

 資料には次のように書かれてあった。


 究極の三本柱、第三公約

究極の三本柱、一本目、

友人に接するように気軽な気持ちで悩みを相談してもらう!

これはフレンドとトラブル、つまり友人と悩みをかけたものである。


究極の三本柱、二本目、

友人には愛を持って応えるべし!

フレンドとラブ、友人と愛をかけたものである。


究極の三本柱、三本目、

悩みは人類にとって究極の愛だ!

フレンドラブルの中央文字、ドラブは、究極の愛を意味している。


 と、そこまで読んで眼を上げた。

 なるほどね。洒落にしては上手いと褒めるべきか、早々に馬鹿馬鹿しいと投げるべきか。

 だってそうだろ? 

 こんな愛にまみれたお悩み解決ボランティアを、にこにこ笑顔でやってのけるなんてどんなお人よしだよ。

 お人よしだけならまだいいけどな、そこらで評判の完全無欠の生徒会長様と、サポートプロフェッショナルの彩援美零嬢ならなんとかやっていけるかもしれないが、この二人がここまで念を入れて一年間やってきたサークルとやらが、並の学生に勤まるわけがない。

 やってもいないことを諦めるのはよくないことだと、どっかの熱血教師にいわれそうな台詞だが、高校だけでなく中学にまで轟く、誰もが凄い凄いと評判の人物だぜ? 

 そんなこの辺りの地域名所みたいな超人軍団に付いていけるわけがない。

 摩り下ろし器に削られるカツオ節より身を削るはめになりそうだ。

 学校の不良グループに勧誘されたくらいの危険度はある。

 陸上部エースっぽい隣の女ならまだしも、なんの取柄もない一般男子高校生の俺には荷が重い、ミスキャストってもんさ。

 人を見る眼がここまでないなんて、この完全無欠の生徒会長とやらも噂に訊くほど凄い人じゃないのかもな。

 他にいくらでも適任がいるだろうに。

 完璧超人と呼ばれる本当の完璧超人が世の中そうこういないもんだなと一つ勉強になりふんふん頷いていると、当然の主張をいわせてもらおうじゃないかと、隣の女が、ふんっと鼻を鳴らした。

「あたしに陸上部を辞めて、こんなボランティアサークルに入れっていうのかい」

「天草しいな、その通りだが、なにか問題でもあるかな」

 陸上部女は会長さんの言葉にむかっ腹が立ったように演説中ずっと組んでいた腕を離し、こぶしを握り前のめりになった。

「問題だらけだね。冗談じゃない! あたしはこの脚を使って全国を狙ってるんだ。あたしの夢を、こんな馬鹿馬鹿しいことで台無しにしてたまるかってもんだよ」

 激怒の面持ちでいったショートカットの女は後ろを向いて、もういいだろ、といわんばかりに右手を上げて歩き出す。

「悪いけど、他を当たってくれないかい。あたしも暇じゃないんでね」

「そうか。しかし当然の回答ではあるな。我も無理にそなたを入部させたとなれば責任を持ち、切腹せなばならぬところであった!」

 その程度で切腹されたとなっちゃ逆に入院費全額負担して毎日お見舞いに通い詰めしてやりたくなるわ!

「別にそこまでしなくてもいいんじゃね?」

「そうか? ふはははっ! だが天草しいな、安心しろ! 当初から我にはそなたを心置きなく入部してくれるだろう策がある」

 切腹紛いのとんでもない宣言をのたまった真堂冷炎は、これまたとんでもない宣告をいい放ちやがった。

「はっ! あたしが陸上辞めてまで入部するなんてことはぜっっっっっったいあり得ないけど、その策ってのを訊こうじゃないか!」

 対して一歩も引く気もも怯む気配も見せない天草しいなも、大したもんだわ。仮に会長さんの宣告がハッタリだとしても動揺の一つや二つしてもおかしくないのに、この女はこの女で度胸が座ってやがる。

 表情を全く変えない二人だが、勿論会長のことだから下調べをしてきたのだろう。ここまでの天草の性格を考慮した上でこの流れだとすると、いわば会長の予想通りの展開。

 妙に嫌な予感がするのは俺だけではないはずだ。

「うむ、天草しいな、貴様に決闘を申し込む!」

 それは完全無欠の生徒会長真堂冷火の、始めてみる、真剣味のある表情だった。

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