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フレンドラブル  作者: 結崎ミリ
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第一章:真堂冷炎現る!!

 学生にとって授業前の朝礼ほど無意味なものはない。

 だってそうだろ? 次には一限が控えているというのに、わざわざ催眠音波を流し続ける校長のハゲずらなんて見てられるか。全国単位で睡眠学習を広めようっていうなら、話は別だがな。俺は大いに協力してやるぞ。どっちにしても、朝礼なんてもんは日本人の学力低下の原因の一つであると断言してもいいね、俺は。


 俺がボケッと校長の頭のテカり具合を観察していると、後ろから、ぽん、と肩をたたかれた。

「よ、大将っ」

 入学式から妙に親しげに話しかけてくる後ろのやつがそういった。出席番号が近いからだろう。元村だもんな。

「お前は俺の三つ後ろだろ。前に来てんじゃねぇよ」

「そんなこと気にすんなって。バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」

 そっと後ろを見ると、担任教師の井岡がこっちを睨みつけていた。入学早々規則を守らない生徒として問題児の烙印を押され、教師陣が眼を光らせねばならぬ一部生徒の一要因に含まれないよう、両手を眼前でぶんぶんさせ一切合切共犯者でないことをアピールする。

 俺は関係ない、断じて関係ないぞ。

「たぁいしょっ、なぁ、大将」

 えぇい、大将、大将と鬱陶しい。お前は言葉を覚えたての九官鳥か。早く戻れ。

「大将はなんでこんな高校きたんだ? それも地方からなんて」

 これから訪れる栄えあ高校生活のそれなりに大事な一歩と思われる担任教師への印象を悪評に落として(クラスメイトを巻き込んで)まで、今、俺に訪ねたいらしい公案がそれだった。

「……いきなりだな」

「思いたったら即行動、が俺のモットーだからな。さぁ白状してもらおうか!」

 元村は質問に答えるまでここに居座るつもりらしい。うざいし面倒なやつだが、 

「それはまぁ」

 実際元村が俺に話かけてくるのは今回で二桁いかないくらいで、俺から話しかけたことはまだない。そんくらいの関係。

 入学したばかりで互いのことを何も知らない者同士が誰を友人にするか吟味しさぐり合う上で、こぞって使用する中身のない表面的な会話といえばそうだろうか。ある意味、相手と親しくなる大事な一歩なのかもしれないが……。

「なんとなくだよ」

 俺は曖昧に答えてやった。

 別にこいつが、堂々と一般的に考えられる好印象とは真逆の行動をとってるからではない。単にそんなありふれた質問に対して、ありふれてない、相手によっては若干引かれてもおかしくない事実しか持ち合わせていないだけである。

 両親の仕事の都合で四月から田舎町から越して来て、家から近い学校を検索した結果だなんて、いいたくもねぇ。検索時間だって十分以下だ。

 高校選びを二度寝の時間並に凝縮してしまった自分への反省をしていると、俺の曖昧回答をどう受け取ったのか、「そうかぁ、なるほどねぇ」と元村は唸っていた。

「お前はどうなんだよ」

 どうせお前だって同じようなもんなんだろ、と肩をすくませる俺を無視して

「人生色々あるもんな!」

 元村はテキトーなことをいった。

 どうやら元村という男子は楽観的かとても前向きな性格らしい。一連とまでいかないやり取りで充分判断できる。俺は心の中でこいつは馬鹿と決めつけた。

「ちなみに俺がここに決めた理由はな」


 視界を俺から前方に移動させ、キョロキョロ見回す。

「っと――あ、きたきた!」


 合コンの待ち合わせみたいなことをいいだした元村の視線を追うと、さっきまで誰も訊いていなかった校長の長ったらしい話は終わっていた。


 代わりに壇上へ昇った明らかに偉そうな女は、自分の縄張りを確認するように校庭をぐるりと見渡し、腰まで届く長い黒髪を払った。

「生徒会法第二十三項に則り、本年度より生徒会会長職に就くことになった、真堂冷火だ。この学園に属する者なら我のことは存じていることだろう。新入生の中にも少なからず知る者もいるようだな。故に、我が貴様らにいうべきことはただ一つ! 完全無欠の生徒会現会長として、貴様らの望む、快い学園生活を提供すると約束しよう。どんな茨の道でも我は屈しぬ。我の望みは貴様らの先にあるのだからな!」


 太陽の核融合に匹敵する笑顔だった。


 そいつは世界征服に乗り出したローマ法皇みたいなことを告げて、再度、視界をぐるりと旋回させると、満足したように地上へと降り立った。

 なんだ、今の?

 真堂冷炎なる人物の演説は、一年坊主のだらけきった空気を一色させるには充分すぎる神妙さだったといえるだろう。

 瞳に星を宿す不特定多数の上級生と教師諸君から察するに、知らなかったのは新入生の俺らだけってのが推測できる。いや、同じ列に並ぶ、元村を含む不特定中数も同じ星を瞳に瞬かせてるから、俺を含む無知グループのが珍しいのかもな。

 真堂冷炎と名乗った生徒会長様の凄みある演説は、新入生達に第一印象を植え付けるという目的としては、大成功だといっていいだろう。

 ハゲヅラの校長、何言ってるかわかんねぇ英語教師や、おどおどした新人教師の長々無駄トークよりキャンプファイヤーみたいな熱気を纏った数秒の簡潔トークのが、よっぽど海馬を刺激してくれる。真堂冷炎っつう名前も覚えやすいしな。眠気醒ましにはバッチリだったね。

 だが眠気を飛ばしてくれたのは彼女だけではなかった。

 グラウンドを覆う生徒による星の輝きは真堂冷炎が壇上を降りるまで降り注ぎ――――それは更なる明度を上げた。

 少し違うか、上げたというのは語弊がある。

 うん……そうだな。辺りの星々を呑み込み魅了する妖艶で美しい月が、輝きを独り占めしたのだ。そう、まさしく月のような女性。

 美。彼女を一言で表現するなら百人中百人がそう答えるだろう。

 なぜなら生徒会長様の後にちょろっと出てきた副会長。これが同じホモサピエンスから進化した哺乳類とは思えないとんでもない美人で、

「この度、生徒会副会長職に就くことになりました、さいえんみれいです。至らぬところは幾らかあると思いますが、少しでも全校生徒皆様のお力になれるよう、尽力する次第です。よろしくお願いします」

 おー声まで美しい! 渋谷を歩くと三時間で四人のスカウトマンに声をかけられそうな稀に見る美人女子は、演説会場(主に新入生)にピンク色の風を吹かせた。演説を終え真堂会長の右後ろへ引っ込むまで、ずぅぅぅっと、老若男女問わず視線を釘付けにしてたんだからな。俺もその哀れな群集の一要素だったぜ。仕方ない、眼の保養というやつだ。ブルーベリーと同じだよ。

 つーわけで核融合とブルーベリー効果を一心に受けた学生一同にとって、その後のくっだらねぇ教師共の戯言なんて、どうでもよかったのだ。

 特に酷かったのが体育教師谷川の『自分が高校生の時は〜〜』という昔は輝いていたアピール。現在はその輝きの欠片も見当たらないがね。

 とにかく、永久に終わらないんじゃないかと思われる、熱血演説に対して、全校生徒全員で「はやく終われ」とひたすらシンクロアタックを繰り返したのだが効果はなく、諦めてぼけっと地面を眺めていると、俺の脚は地面から生えてるんじゃないかと思い始めてぐっと力を入れ、やっぱり動くので、あぁまだ演説は続いてたんだな、と再確認したところで、朝礼終了の合図がかかり、俺たちはようやく教室へと帰還を果たした。

 全くくだらない。

 指針を見ると九時五十分。なんとおよそ四十分も火天下にさらされたことになる。

 ここの教員は生徒を日射病で倒れさせたいらしい。

 現代っ子はクーラーの風が心地よい室内でしか生きられない生物に進化したというのに。

 それは汗腺から噴出してる元村が良い例であり、二番生えの俺はシャツが濡れていた。 

 現代科学があればこその進化だな、まさしく。

 ちなみに教室へ続く階段最中、井岡に呼び止められ案の定説教を食らった。軽い規則破り一回に雷の一喝で済むはずが、元村の野郎がへらへらするもんで雷は四散に鳴り響いた。

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