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フレンドラブル  作者: 結崎ミリ
10/11

第九章:真堂冷炎と彩援美零

 捜索作業は東西南北に別れて行うことになった。

 中心となる場所は学校。

 飼い主は学校から五分ほどの一軒家住まいらしいからだ。

 先に飼い主に会って猫の写真を見ておいた方がいいという天草にしては賢い意見もあったのだが、病人の家に多人数でお邪魔するのはどうかという結論に落ち着き、その件は美零さん一人に任せることにした。

 溺愛してる猫だ、パソコンに専用フォルダくらいあるだろう。それをメールでそれぞれの携帯に送信すればいい。

 そして美零さんの仕事はそれだけじゃない。捜索活動には付きもののチラシ造りまでしてくれるそうだ。会長いわく美零さんは作成開始から数十枚の印刷終了までを二十分足らずで完了するのだとか。さすがサポートプロフェッショナル、美人秘書は一味も二味も違うね。

 さて、美零さんが秘書属性をフル活動させている間に、他三人は先に捜索作業開始といきますか。

 ちなみに会長は北、天草は南、俺は西、美零さんも添付メールを送信してから東へ向かうことになっている。

 一人につき二駅分の道のりといえば案外楽に思えるかもしれないが、実際はその端から端を隅から隅まで捜索する。

 何時間かけようが熱心になろうが見つかる確立は途方もなく低いだろう。運が悪けりゃ入れ違いになる可能性だってある。少しでも一人の負担を減らさないと心が折れちまいそうだ。

 だから俺はこいつらにも頼むことにした。

 まずはこっちに電話かけるか。

 ぷるるる……ガチャ。ワンコールで繋がった。

『おっ? ジュンから電話かけてくるなんて珍しいこともあるもんだな、槍でも降るか?』

 うざい。ノーテンキな発言がいつもより一割増しにうざい。

『馬鹿なこといってないで俺の話を訊け! いいか、実はな』

 面倒なやつを相手する気苦労を最も低リスクに抑える方法を俺は知っている。主導権を譲らないことだ。相手にターンを譲るほどこっちの苦労ゲージは増加するからな。

 なるべく時間をかけぬよう気を払い、俺は美零さんの秘書っ気の如く事情を簡潔に説明した。

『――ま、こういうわけだ』

『……それは俺がフレンドラブル活動に参加するということでいいんだな?』

『間接的にいえばそうなる』

『うぉぉぉぉぉぉぉっ、すーぱー任せとけぃ!』

 狼よりも高らかな遠吠えを披露したテンションマックス馬鹿。頼りにした側としては非常に申し訳ないが、マジうぜぇ。 

『真堂会長、彩援美零姫への協力は槍が降ろうが地球がひっくり返ろうが断る理由がねぇ! 草むらだろうが地底だろうが死ぬ気で掻き分けて見つけてやるぜ! 例えこの手が朽ちようとも!』

 テンション高すぎ馬鹿じゃねぇの。今すぐ裁きの雷をぶち落としてやりたい。だが友人としてこれだけはいっておくぜ。

『……頼む、自分を第一に考えてくれ。会長たちもそこまでは求めてない』

『なにをいってる俺は本気だ! 鈴原にも連絡しとくからそれじゃ!』

 ガチャ

 切れた。くそがつくほど馬鹿なやつ。今すぐ裁きの雷を連続でぶち落としてやりたい。と思ってたら三十秒で電話が鳴った。

 表示される名前で内容は推測できたが、取らないわけにもいかない。

『ジュンくん、もっちゃんから話きいたよ! とにかく猫探しでフレンドラブルで会長副会長さんが困っててわたしの力が必要なすーぱーチャンスなんだね!』

 超早口。いきなりのテンションマックスは俺の予想と完全一致。数秒前の会話主と大差なくマジうぜぇ。

『まぁ、だいたい合ってるな』

『あたし頑張る! 頑張るよ! 会長、副会長への協力はいつでもどこでも受信電波マックスだよあたしは! 死ぬ気で動き続ける! 例えこの両脚が朽ちようとも!』

 ガチャ

 切れた。今度は俺の助言を訊かずして。今すぐ裁きの吹雪で凍らせてやりたい。

 全く、しゃべり方といい例え話といい、二人とも同じようなこといってたな。似た者夫婦ってか実は双子なんじゃね? 二人分の説明が一回で済んだのは嬉しいが。

 それにしてもこいつらに頼んでほんとによかったのだろうか。

 ま、不本意この上ないがいないよりはマシか。今は少しでも人数が必要だしな。もし怪我しても会長と美零さんがちょっと慰めたら全快しそうだし。どいつもこいつも天然で単純で助かるよ。その分、俺の普段の苦労は尋常じゃないがな。

「さてと、いっちょやりますか」

 軽くストレッチを済ませて、地図を片手にいざ出発。

「猫のひーたん、どこだぁー? いるなら返事しろー、大好物の煮干もあるぞぉー」

 飼い犬ってのは名前を呼ばれる、または餌の時間になると出てくるってテレビでやってたのでとりあえず実行してみる。試さないより試すべきって会長ならいうだろうしな。

 もっとも、今回は犬ではなく猫で、煮干どころか食い物一つないが。



 ある場所ある場所をかたっぱしから、道なりに進む。

 車道、歩道を中心に、草の中、木々の間、車の下、田んぼの中、ごみ捨て場、公園辺りをキョロキョロ、ときには壁に空いたよくわからん穴の中だったり、橋から見える川だったり、スーパーの中や小学校の校庭、人ん家の庭をも覗き込んでいると、不審者と間違われて警察官に捕まるわ事情を説明しても訊いてもらえず説教されるわ、警察署にまで連れてかれ親に電話されそうになるわ(どうにか阻止して解放されるまでに一時間もかかった)、意味なく階段で躓きこけるわ、うさ晴らしに蹴り上げた石が犬に当たってガチおいかっけっこが始まるわで、途中からは災難続き。

 神よ問う、いったい俺がなにをした。

「あぁー、なーんか一気にやる気なくした」

 それでもちまちま地味に捜索作業を続ける俺はなんと心の綺麗な青年か。

 後で一千万が入ったでかいカバンでも見つかるかもしれない。良いことをすればそれに見合った幸せがやってくると親戚のおばあちゃんもいっていたからな。いやぁ昔の人は素敵な言葉を発明したもんだわ。そうだなぁ一千万くらいあれば好きなもん食べ放題買い放題だらけ放題、いいねお金って。必ず見つかるさ、一千万の鞄。

 猫のことなど頭の隅において一千万の使い道を考えていると、ポケットが震えだした。

 ぷるるるる……。

「ん、電話か。誰だ?」

 携帯には天草しいなの文字。

 天草からの電話か、天草からの電話……番号は知ってたけど初めてだな、かかってくるの。なお、かけたこともない。

『おう、どうかしたか』

『見つけたよ! 猫ちゃんを!』

『さっきも薄々思ってたけど、猫、ちゃん?』

『……猫を見つけたっていってんだよ! いちいちうるさいね』

『いちいちうるさく声を荒げてんのはどっちだよ』

『う、る、さ、いっ!』

 ははぁん、照れてるのか、全く純なやつめ。ちゃん付けとは実に女子高校生らしい愛らしき一面ではないか。

 うんうん。ちっとも似合わない。

『あんた……今、あたしにとって不愉快なこと考えてたろ』

 心臓がギクッと鳴る。

 カンの鋭いやつ。ちっとも寸分も一ヘクトパスカルもかわいくない。検事に追い詰められた被告人の気分だね。

『いんや、考えてなどいませんとも。それより猫が見つかったってのは本当か?』

『そうそう猫ちゃん見つかったんだよ!』

 逃れレベル一程度の切り替えしにまんまとはまる天草。おマヌケ検事で助かった。

『会長たちにも連絡したんだけどどっちも遠くにいるみたいでね、到着には時間がかかるそうなんだ』

『お前一人で捕まえればいいじゃねぇか』

『それができたら電話なんてしてないよ。すばしっこくてね、ちょっと一人じゃどうしようもないんだ。あんた、今どこだい?』

 やれやれ、黄金の脚を持つ神速女がお手上げとは。

 同じおいかけっこでも徒競走と捕獲は全くの別競技なんだな。どうでもいいけど。

『この辺り来たことねぇからな……』

『そういえば高校入ってからこっちに来たっていってたね、近くの目立つ建物とか目印になりそうなもの教えてくれるかい? あたしなら小さい頃からこっちに住んでるから多分わかるし』

 周囲を見回してみた。

 スーパー、コンビニ、変なビル、マンション。あとは――

『図書館が近くにあるな。でかいやつ』

『あーそこか。うん、よく行くから全然大丈夫。実は本好きなんだよあたし』

 本好きとは意外だな。俺も好きだ。本を開いた瞬間に訪れる別世界へ飛ばされたような感覚、あれがいい。今度オススメ本でも訊いてみよう。そういや最近読んでないな、本。

 俺がストレス社会を生き抜くキーアイテムについて考えている間、受話器から「えっとあたしがここにいて」とか「ここがこうだから」とか「違う違うこっちがこうなって」とか天草オンリーな会話が成されていた。

 さてさてどこに向かわされるのやら。

『……うん、あたしのとこから近いね。今からあんた、こっちに来てくれよ。場所は――』

 大雑把そうな天草の道案内は案外丁寧で、俺の立ち位置から示された場所まで曲がり角の少ない最短ルートが受話器から流れる。

 橋を渡り歩道に出たら十字路を右へ、それから市役所で左に曲がって次は……なるほど。

 がさつな性格(本人には怖くていえない)だってのに実は几帳面なんだなこいつ。地図の苦手な俺でも迷わずいけそうだ。

『あぁわかった。その通りいけば徒歩でここから二十分程度なんだな。走っていくからちょっと待ってろ』

『建物の中に居るから早く来てくれよ、猫ちゃんが逃げちゃう』

『猫、ちゃんね』

『いいから来な! 着いたらボッコボコにしてやるから覚悟するんだね!』

 そう暴力予告を残して電話は切られた。

 おい、ボコボコにされるとわかっているのにどうして急いで向かわなきゃならんのだ。走っていってもボコられる。おそらくつーか間違いなくゆっくりいってもボコられる。二択にもなってないジレンマの解決策を誰でもいい、教えてくれ。

 しかし走っていくといった手前、後者の被害は致命傷になりかねないので、俺はノロノロ運転原付バイク並のスピードで、これから暴行事件が起こりそうな現場へと向かった。



「うーん」

 天草に指定された場所、受話器から流れる天草印の道案内通りに来たはずなのだが。目の前にそびえ立つ建物を傍観していると、どうにも間違っている気しかしない。

「これってどう見てもあれだよな。誰もが共通認識できるあの場所だよな……」

 広々とした、のびのびと走り回れる土。各々の身長に適応するようにずらっと並んだ鉄棒。正面に張り付いた丸時計。規則正しく開始時刻と終わり時刻を知らせるチャイム。何十枚もある窓ガラス(何枚かは割れている)。自由性の高いむじゃきな空間をさび付いてはいるがしっかりしとた鉄格子が外界からの侵入者を硬く拒んでいる。

 その横に小さく書かれた文字。

「……大ヶ丘小学校」 

 小学校。

 俺の目の前に存在するのは百人中百人の共通認識、小学校に相違なかった。

 だが、しかしな、

「この中にいるってのか?」

 天草の道案内を何度確認してもこの場所で間違いない。

 そういえば道案内は完璧だったが目的地がどことはいってなかったなあの女。

 そして奴はこうもいった。

 建物の中に居る、と。

 不審人物。

 門が少し開いているとはいえ、侵入するのは現代社会の法律を破る次の次くらいにやばい気がする。数年前なら少しの覚悟で入れたかもしれないが、近代ニュースによる校内殺人、通り魔などの情報が人々の危険意識を高めている。

 天草に電話してみた、が、とらない。

 留守電ならまだ良いが一コールで切られるのは、うだうだいってないで早く来い、という意味なのだろうか。

 その代わりにメールが送られてきた。

 受信した言葉は『屋上』の二文字のみ。

「くそっ天草のやろう」

 メールの内容に多少の怒りを感じつつも、躊躇することなく案外普通に中へと入れた。

 とりあえず先に不法侵入している女がいることで俺の罪悪感は弱まったのだろう。

 怒られる時はあいつに任せりゃいい。

 問題にされても天草の背後には真堂冷炎、彩援美零のダブルスチールがいる。特に会長は天草のことならどんな手を使っても守りそうな気すらする。

 せっかくだ、二人の圧倒的な防御壁に俺もあやかろうではないか。

 あぁ、それにしても人がいないな。

 小学生の下校時刻を過ぎてるとはいえ、この静けさ。黄色帽を被ったガキンチョが一人もいないところから察するに、創立記念日かインフルエンザかなんかで全学年休校なのだろう。運が良い。

 問題は数名在室しているだろう教師共だ。

 だが大丈夫。

 教師共の集まる場所は職員室であり、職員室は大抵一階なので、物陰に隠れながら職員室を遠ざけるルートを辿り、階段を昇れば最低限のエンカウントで済むはずだ。

 抜き足差し足忍び足。見回りされると終わりだが。



 幸い、入り口近くに階段があり、そそくさと駆け上がると屋上の扉はすぐに見つかった。

 俺の今までの罪悪感、恐怖心、推理はなんだったのか。忍者の真似した自分の小心者っぷりが情けない。

 天草の大雑把さもたまには見習うべきだな。

 自分への反省をしつつも屋上に辿り着いた俺は、読んで字の如く、ぽかんとした。

 だらけきったヒマラヤン属性のおねむ猫から十メートル以上離れた位置で、一歩踏み出しては二歩下がり、二歩踏み出しては三歩下がる女がそこにいた。

 大雑把どころか俺以上に小心者じゃねぇか!

「おい、お前なにやってんだ!」

「しぃぃぃ! 大声だすな、猫ちゃんが逃げちゃうだろ」

「いや、寝てるじゃん、そいつ」

 天草は俺の言葉を「いいから」と小声で制してから手で合図を送る。こっちへこいと。

 肩をすくませやってきた俺をぐいっと引っ張り、ぼそぼそ話しかけてきた。

「寝てるように見せて、実は近付いた瞬間にこう――俊敏な動きで逃げるつもりなんだよ、あたしにはわかる」

 いいながら右手をくねくね素早く前進させる。

 俊敏な猫のつもりだろうか。

「……俺にはお前の脳回路がわからねぇよ」

「いいから、あたしたち二人ではさみ打ちするよ! あんたはここから、あたしは反対側から。あたしが猫ちゃんを追い詰めるからあんたが捕まえるんだよ」

「はぁ……。あぁわかった、わかりましたよ。屋上だから逃げ場はないし挑戦権はいくらでもある。まさか金網の外側まで逃げることもないだろうし。何度かトライしてじっくりいけば良いさ。とにかく捕まえれば任務完了だ」

「おっ、冷静だね。あんたにはなにも期待しちゃいないが捕まえるだけなら訳ないだろ?」

「はいはい。運動能力に関しちゃ天草様の足元にも及びませんよ。いいからさっさと行け」  

「わかってきたじゃないか。じゃ、頼むよ」

 天草は、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり……猫の後ろ側へと回っていく。

 そんなノロノロ動いてたら逆に警戒されそうなものだが、猫はスヤスヤ眠りについている。

 ようやく辿りついた天草がこちらに手を挙げ合図を送り、猫に向かって両手を広げて猛ダッシュ!

「わぁぁぁぁぁ!」

 大声で襲ってくる獣におねむ猫はさすがに眼を覚まし、びっくり形相で飛び退くと勢い良くこっちに向かってきた。

「馬鹿っ、そこまでする必要ねぇよ!」

 突然の出来事に、一瞬反応が遅れてしまった。

 猫の走る速度は案外速い。

 そして移動標的を捕まえるのは鍛えられた人間でも難しい。

 素人には到底出来ないことだ。

 つまり、必死に捕らえようと伸ばした両手も俊敏な猫科動物は股ごと軽々すり抜け、そのまま更に奥へと突き進む。

 気が動転しているのか勢いは止まらない。

 その先に柵は存在しない。

 猫は突き進む。

「危ないっ」

 が、柵を飛び出したのは猫ではなかった。

 会長との死闘で魅せつけた神速ダッシュで距離を詰め、そのままの勢いでダイビングをした天草は、空中で猫をキャッチし、胸元へ抱き寄せそのまま……落……ち

 瞬間、

 背後から二つの影が風の如く駆け抜けたような気がした。


 あれは……二対の翼?


 違う違う! そんなことより! あいつは猫を助けようとして……そのまま下へ――

 転落

 落ちて落チてオチテ落ちておちて堕ちて……………………………………堕チタ

「天草ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁlっ!」

「くそっ! くそっ!」

 なにもできなかった自分の不甲斐なさをぶつけるように地面を強く、何度も殴りつけた。

「どうしてこんなことに――」

 地面に額を擦り付け頭を抱えた俺の前に、一つ――いや、二つの影が映し出された。

「大丈夫だ」 

 えっ?

 崩れ落ちるように地面にひれ伏していた俺は、天からの声音で前を見た。

 そう、俺は見たんだ。

 信じられない光景がそこにあった。

 天草を抱えた二人の人間が空中で浮いている。

 いや、人間ではない。

 透き通るような白肌を飾る銀色の長髪。鋭い夜光を放つ紅眼。そして、背中に生やした二つの翼。一人は白翼。もう一人は白黒翼。

 二対の翼。美しい翼。

「危ないところでしたが、なんとか間に合いました」

「落下のショックで意識をなくしてしまったが、外傷はない」

「彼女のことに責任を感じる必要はありません。彼女がこの時刻、この場所で転落すること、そして私たちが彼女を救うことは決まっていたのです。これは啓示的事項。刻の流れに則った、ごく自然な出来事なのですから」

「あの、ごめんなさい。なにをいっているのか、俺にはさっぱりで……」

 これは夢か、夢なのか? あぁそうか、そうだな夢に違いない。依頼続きで疲れてたからな。ほら、こうして頬を摘むと……痛でぇ。

「ってことは現実なのか……。あの、訳わかんないんですけど、とにかく天草を助けてくれてありがとうございます。えっと、あなたたちは……いったい」

「我らのことを貴様は知っている」

 白翼を持つなにかがそう告げた。知っている? 生憎これまで人間以外の生物と言葉を交わしたことはないのだが……。

 ん? 待てよ。

 我ら、貴様、この特徴的な話し方……。そしてもう一人の秘書的口調、抜群のモデル体型、ヒップに張り付く布。二人組、超人……

「もしかして……あなたは真堂会長、こっちは美零さん……ですよね?」

 二対の翼はゆるやかに地上へと舞い降りる。

「はい、その通りです。部室のわたくしたちとは違う、人間的環境に適さない姿をご覧になっても、驚かれないのですね」

 唇に人差し指をあて、微笑を浮かべる白黒翼の彩援さん(らしき人)。もう一人の翼、会長(らしき人)は天草を地上へと帰還させる。

 ……とてつもなく驚いてますとも。髪と瞳色が変化していることや、急激に伸びた長髪(これは美零さんらしき人のみ)、絶好のタイミングで現れたこと、宙に浮いていること。そしてなにより……

「翼……その翼は羽毛なのか?」

 羽毛という言葉を耳にした途端、二対の翼は眼を丸くし、顔を見合わせ、徐々に表情を明るく変化させていく。思ったとおりのことを口にしただけなのだが、いやはや。突拍子もない発言で状況に則した緊張感を忘れたのかもしれない。

 ついさっきまで纏っていた神々しさ全快オーラが薄れていくような、部室で微笑むいつもの二人がそこにいた。間違いなく会長と美零さんだ。

「はっはっは! 実に面白い質問をするのだな。この状況において真っ先に訊くことが材質のこととは!」 

「羽毛……羽毛っ……ぷっ」

 微笑むっつうか爆笑。

 我ながらなんて馬鹿な質問をしたのだろう。大笑いされるごとに恥ずかしさメーターが上昇、沸点を突き破り昇天しそうだ。

 うわぁぁ恥ずかしいぃぃぃ! 穴があったら入りたい! いっそここから飛び降りたい!

 笑いの神に愛された男の一発ネタによる二分弱の大爆笑の末、白翼を携えた会長がようやく息を整えてくれた。 

「実に良い! やはり貴様は他の人間とは着眼点が違う、素晴らしき男ぞ」

 翼を生やした超人にお笑い関連を褒められてもちっとも嬉しくない。

 恥ずかしさメーターはとっくにぶっ壊れて一週間ほどトラウマになりそうだ。美零さんなんてまだ口を抑えてるし。さっきの質問によって近年の秘書は一度ツボると抜け出せないことだけはわかった。

「本来ならこの姿の我らに干渉した時点で記憶を消去するところだが、貴様は我の見立て通り、否、それ以上の男だった。貴様には全てを話さなければなるまいな、我らの正体を。我らがここにいる意味を」

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