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フレンドラブル  作者: 結崎ミリ
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序章

 世界には数多の人間が生きている。その数、およそ七十億人、日本人口に絞ってもおよそ一億二千五百万人と、いちいち数えた奴を、良くやった、お前は余程の暇人だったなんだな、と褒めてやりたいくらい、それはまぁ途方もない数値だ。 


 例えばそうだな、今現在も道々を歩いてく人々で考えてみよう。高そうな灰色スーツをびしっと清楚に着こなすリーマン、茶髪にピアスで激ミニのスカート履いてバッチリ厚化粧を施したイケイケ女学生、地味眼鏡かけて分厚い辞書でも入ってそうな大きめなカバンを背負う将来有望そうな少年、丸刈り坊主にグラサンかけて首絞めに使いそうなチェーンつけたジーパンをスラっと着こなすちょい悪兄ちゃん、派手なワンピースと複数のアクセサリーや指輪で自分を着飾るちゃらちゃらした生意気な中高生。それぞれが個性的であり、多種多様の質を持っている。


 窓の外から眺めた景色はたった数分、なのに、遠くの桜並木を歩く幾人の人間、流れゆく人々は全て違う、そんなの当たり前だって? そりゃそうだ、人間てのはそういうもんでそういう風に出来ていて、世の中ってのは初めからそういういう風に成り立っているんだからよ。当たり前ついでに話を続けると、モノマネだろうが双子だろうが、はたまた最新の技術を用いたクローンであっても、全く同じ人間を作り出すことは不可能なことくらい誰にでも知れた常識だ。仮に元素が同じ人間が二人いたとして、そいつが生きていく為に必要な人生プランを全て書き記した未来白書通りに二人の人生をスタートさせたとしよう。そいつらは二十年、いや、十年後、全く同じ人間としてこの世に存在していると思うか? 答えはノーだ。生まれ持った環境、自身の外見、出会う人々、本人の選択肢、それらが起こるタイミング諸々の要素が、そいつを創る。似た奴はできても、そいつらは全く別の人間なのさ。まぁ俺のいいたいことはそういうことじゃないんだ。今のはただの前話と思ってくれりゃいい。


 つまりあれだ。それくらい途方もない人間がいるってのに、俺が、この時代の、この地域の、この街の、それもこの学校に通う一生徒だってことは、ある意味奇跡なんじゃねぇかってこと。

 そんでいつも考えることがあるのさ。


 自分は何者なのか、と。


 もちろん、宇宙に広がる太陽系惑星の中の一つ星、地球、その小さな島国であるところの日本に在住している、ごく普通の一般男子高校生であることには変わりないのだが、そうことではない。

 俺がいっているのは個々独自の固有名詞、つまり名前のことだ。


 小学生の頃はふつーに苗字で呼ばれてたってのに、中学になってからはクラスの異名、ハイテンションキング(常にテンションが大気圏くらい上空をキープしてるバカ凄いデブ)に命名された「むーたん」が卒業式まで定着し、かと思えば親戚の家では姪っ子に「やっくん、やっくん」連呼されるし、挙句の果てに両親には「あんた」「お前」と、もはや自分の息子の名前すら忘れているんじゃないかと思うほどで、全くといっていいほど呼び名という呼び名が定まってない。

 今となっちゃ俺を苗字で呼ぶのは学校の教師くらいのもので(最近は「きみ」だの「あーそこの前から三番目の君」だのいわれてる)、それもあってないようなものだが。

 この世に生きている全ての生物、生のない物体、実態のないなにかにまで呼び名というものは、それが当たり前のように、ありのままに、ごく自然に定着しているのに、俺だけにそれがないのは、それなりに悲しく、ちょっぴり切なくなかろうか。

 せめて、そこそこの笑いを提供できる気の利いたあだ名に統一してほしいものである。

 だから中学時代までの荒波を越えてきた俺の芯には、次の格言があるのだ。 


 名前というのは対して意味を持たない、と。


 しかし、それは訂正しなければならない。

 何故なら、俺はその名の通り、行動し、存在し、存命し、まるでその名前を意識して生活し、生きているかのような人物を、少なくとも二人知っているのだから。

 そうだな、まず、俺が二人に出会った頃の話をしようか。

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