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 右見て左見て上を見て下を見る。

 前を見ても後ろを見ても、地平線まで続く荒野と薄く緑がかった水色の空。

 なるほど異世界。

 自称神様は本当に神様だったのかもしれないと、私は頷いた。

 けれど今はそれはどうでもいい。もっと重要な事が私を待っている。


「…ちゃらららっちゃっちゃーん!」


 効果音を言いながら、神様にもらった魔法のトレーを出す。

 乳白色の学校給食で使った事があるようなトレーで、質感も重さもプラスチック製のそれに似ている。


「何が出るかなー、何が出るかなー」


 何でもいいと言いながらも実は何でもはよくない。そんな乙女心のまま、いでよご飯と念じる。

 1秒、2秒、3秒……即出る訳でもないのかなと考えたら、一昔前の電子レンジのようにチーンと音がトレーから聞こえた。

 目を離したつもりはなかったにも関わらず、いつの間にかトレーの上にはカバーがかかっていた。

 なるほど魔法のトレー。

 自称神様は本当に神様だったのかと、私は確信して頷いた。

 トレーの上のカバーを取り去る。


「おー!」


 ほかほかと白い湯気があがり、ヘルメットよりは小さいどんぶりに盛り付けられた、黄色の半熟卵のまぶしいカツ丼(汁多め)がおいしそうな香りを漂わせてトレーの上に鎮座していた。

 ごくりと唾を飲み込み、どんぶりの前に置かれていた割り箸を手に取り、割る。


「いただきます!」


 どんぶりを持ち上げ、カツと一緒にご飯も口の中へとかき込む。

 カツの衣はまだサクサク。それでいて卵はトロッとしていて、多めの汁に浸かったお米がふやけ始めていて、それがまたうまし。

 実に良い。実に私好みのカツ丼だ。


 私は無言で、はふはふとカツ丼を食べる。

 風ひとつ吹かず、動物一匹見当たらない荒野に響くのは、私がカツ丼を食べる音のみ。


「………ふぅ」


 食べ終わり人心地。

 ごちそうさまでしたと空になったどんぶりと箸をトレーの上に戻す。

 すると空気にとけるかのように消えていった。見れば、トレーの上からどけたままだったカバーもいつの間にか消えている。

 念のためにお腹をさすってみる。ちゃんと満腹のままである。食べた分、ふくれている。

 なるほど魔法だ。


 この時になってはじめて、私は今が現実である事を実感した。


「人間滅ぼすんだっけ?」


 でも私も人間だから、滅ぼすとなったら自分の事も殺さないといけないんじゃないのかと今更な疑問が浮かぶ。

 そこら辺どうなのかなと思ったが、自称神様も説明してなかったし、特に問題はないかなと思い直した。

 何かあればその時に何か言ってくるだろう。

 だって自称神様は神様だ。


 うん。

 ひとつ頷くと、私は魔法のトレーを神様にもらった魔法のショルダーバッグへと入れて立ち上がる。


「まずは住む場所(とこ)?」


 人間を滅ぼす存在と言えば魔王だ。

 魔王と言えばお城。魔王と言えば巨大な迷宮(ダンジョン)


 どちらがいいかなと考え、制限はとくになかった事を思い出す。

 迷うなら、両方作ろう、魔王様。


 周囲をぐるっともう一度、周囲を見て確認する。

 空と荒野が地平線まで続く、何もない広い場所。

 広さにも問題はない。

 ならばあとは作るだけだ。


 魔法のショルダーバッグから一冊の本を取り出す。

 『初心者にもわかる!“創造魔法クリエイト”入門』という日本語のタイトルが痛々しい。


「……我が授かりし力に()りて我が望みを叶えよ、代償は目的の完遂を以って捧げられる “万物創造(クリエイト)”」


 本を取り出し読みながら、呪文を読む。

 棒読みなのは否定しないが、発動はしたので問題はないだろう。


 呪文を詠んでいる間に勝手に出現した魔方陣が光り、呪文の詠唱が終わると同時に見渡す限りの荒野一面に広がった。

 生物の反応もとくにないみたいだし、問題はないだろう。


「…“作成”」


 広がった魔方陣へと合図を送る。

 すると魔方陣は輝き、轟音と共に地面から巨大な壁や建物がせり上がってきた。

 私の足元からも当然のように建物は出現する。

 けれど慌てる必要はないのだ。

 私の立つ場所には危険はないのだから、あとは魔法が完成するまで待てばいい。


 それでも壁や建物が動く振動がそれなりにあるから立っていると転んでしまうかもしれない。

 鞄に本をしまい、その場に寝転がる。

 起きる頃には骨組みは全て完成しているだろう。


「おやすみなさい」


 魔法のショルダーバッグを枕にして、私の意識は夢の国へと旅立つのだ。

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