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「――だから人間を滅ぼしてほしい」
「…はぁ」
白い空間に、私と自称神様の2人きり。
息が出来ているから空気くらいはあると思うけど、でもこの世ではなさそうだから空気がなくても問題ないのかもしれない。
自称神様のお願いを聞きながら、私こと朝倉浅子はぼんやりと考えた。
人間を滅ぼしたいらしい自称神様は、そんな私のやる気のなさを感じ取ったのかもしれない。
難しい校長先生がお説教という名の長話をするときのような表情をした。
「人間を滅ぼしたくない理由でもあるのかね?」
「とくにないですねぇ」
他人――人間に恨みがあるのかと聞かれれば、ノーだし。
逆に何かしらの恩を感じて、情を持っているのかと聞かれても、それもノーだ。
どちらでもいい。
世界の半分くらいの人間は愛憎劇に生きているかもしれないが、世界の半分くらいの人間は私のように無関心だと思う。
「……何か不満とかあるのかね?」
「滅ぼすとか、少し面倒かなぁって」
一人残らず滅ぼすとか、確認作業が大変そうだ。
私がそういうと自称神様はやっぱり難しい顔をした。
もう少しフレンドリーな笑顔になれないのだろうかと考えたが、自称神様のこの顔でフレンドリーな笑顔って想像できない。神様というよりは悪魔の微笑みと表現すればなんとなく浮かぶ。
自称神様は神様でも悪魔とか魔人とか、そういうのをまとめる邪神とか魔神とか。そういう存在に近いのかもと思った。
「必要な力は与えよう。数える役目の部下も授けよう」
「…はぁ」
腕を組んで力強く頷く自称神様だけれど、そんな事よりお腹がすいた。
何か食べたい。
「では決まりだ。さしあたって今すぐ必要なものはあるかね?」
私のやる気のない返事あっても、返事は返事だ。自称神様は肯定と受け取ったらしく、私の行先も決定したらしい。
必要なモノ、必要なモノねぇ。
「ではひとつ」
望む食べ物をいつでも創り出す事のできるトレーをもらい、私は地球ではない異世界へと送られた。