932 第一王子の会議(一)
いつもありがとうございます!
一話が長いと誤字脱字の量が凄くなるということを改めて実感しました(汗)
ご指摘いただけて本当に助かります。改めてお礼申し上げます!
午後、王太子の執務室に国王首席補佐官であるエドマンドが自ら書類を持って来た。
午前中に父親と話したばかりのクオンは対応の速さに心底驚いていた。
「父親の借金だ。ロウソクの残量は一センチ。足元はすでに崩れている。数ミリ足すことにどれほどの意味があるのかは人によって違うだろう」
クオンは受け取った書類を見た。
覚悟はしていたが、相当な金額だ。予想以上だった。
だが、王太子であるクオンの感覚は常人のそれとは違う。
自身の個人資産よりも少ないことに安堵した。
「それと……これは個人的に用意した」
エドマンドは自身で密かに用意した書類を差し出した。
かなり分厚い。
前もって用意していたのだろうとクオンは思った。
「二人は知らない。わざわざ言う必要はないと思った」
クオンは眉を上げつつも、受け取った書類をバラパラとめくった。
「……なるほど」
「またかと思うだろう。だが、以前も私は協力した。厚かましいとは思うが、私達は常に三人一緒でここまで来た。二人だけに責任を取らせるつもりはないが、一人で責任を取るつもりは毛頭ない。唯一の希望に賭けたい」
「どこかで聞いたようなセリフだ」
「前と同じだ」
王太子が王家の所領における不正問題を扱った際、極めて重要な内容の書類を用意したのはエドマンドだった。
その書類を渡す代わりに、国政に忙しいせいで王家の所領を顧みなかった国王、そして国政だけにあえて専念した宰相の責任を問わないで欲しいとエドマンドは言った。
「開き直るな。これは貰う。善処するつもりではいる。前と同じだ」
エドマンドは頷くと部屋を退出した。
クオンはすぐに緊急会議を開くことにした。
クオンが招集した会議のメンバーは七人。
キルヒウス、アンディ、シーアス、ヘンデル、パスカル、シャペル、オグデン。
パスカルとシャペルは初招集だった。
「これより第一王子としての会議を行う」
クオンが宣言する。
パスカルとシャペルは緊張した。
王太子の個人資産を担当するオグデンがいることから、政務だけの話ではなさそうだと予想していた。
「暫定処置として、新しいメンバーを二人追加した。パスカルはリーナの担当、シャペルはリーナの個人資産の担当だ。二人がどの程度貢献できるかによって正規にするかどうかを決める」
勿論、正規メンバーになりたい。なりたくないわけがない。
パスカルとシャペルは嬉しさを必死に抑えながら、改めて自身に冷静さを促した。
「私は極めて扱いが難しい秘密の数値を知った。このメンバーには隠しても仕方がないため教えるが、後宮の負債額とこれまでの年間予算額、補正予算額だろう。それを示す証拠はないが、クワイエルが持って来た。父親の借金だと言われた。後宮しかない」
その場にいる誰もがそうだろうと思った。
「私の個人資産で清算可能だが、別の手も考えたい。回し読みをしながら聞け」
クオンは手元にある書類を一枚だけキルヒウスに渡した。
「負債総額を考えると簡単ではない。年間維持費も高すぎる。現時点では四半期分の予算しかないようだが、王家予算内でのやり繰りはできる」
王太子の予算から機密費とこれまでの余剰金の積み立ての一部を後宮に貸し付け、延命を図る。
それが尽きた場合は個人資産から貸し付けることをクオンは伝えた。
「来年はリーナとセイフリードにとって重要な年になる。慶事に凶事を重ねるわけにはいかない。絶対に後宮の閉鎖を延期させる!」
王太子が後宮を一刻も早く閉鎖したがっていたのを、ここにいる全員が知っている。
にもかかわらず、閉鎖を延期させると発言した。
その理由もわかっている。
王太子は愛する者達を守りたい。ただ、それだけだ。
「リーナは後宮の者達を解雇するのに反対しているが、さすがにこの数値では避けられないだろう」
後宮の負債は膨らみ続けている。それは維持費が利息のように加算され続けているからだ。
借金を減らすことも重要だが、利息をできるだけ減らすようにもしなければならない。
「後宮の者達の多くは借金を抱えている。エドマンドの書類によると、借金がある者が解雇された場合は直ちに弁済労働へと移行する。拒否権はない」
後宮の者達は後宮に借金をしているが、それは国王に借金をしているのと同じだ。
実は国王に借金をする者達は後宮の者達だけではなく、貴族達にもいる。
その多くは領地運営に必要な資金を集めるための借金だ。
後宮の者達は貴族が国王に借金をするのと同じ条件で平民であっても借金できるようなものであり、自身や家族等の財力によって返済できない場合は弁済労働をしなければならない。
これはあくまでも金を貸した者と借りた者の契約に基づいて発生する労働であるため、犯罪者がその罪を償うために行う労役とは異なる。
金がないなら金を貸した者が提示する労働をすることで返すというだけだ。
但し、弁済を拒否した場合は不敬罪や反逆罪、詐欺罪等の犯罪行為があるとみなされた場合も不敬罪や反逆罪が追加され、かなりの重罪扱いになってしまう。投獄を免れることはできない。
「国王への弁済労働は王家が所有する宮殿や施設、公的な組織や施設等で行うことになる。だからこそ、再就職先の斡旋は公的なものに限定されてしまう」
自己選択による労働よりも弁済労働の方が優先になるため、弁済労働が終了していなければ自己選択になる労働につくことができない。つまり、通常の再就職ができない。
しかし、公的なものへの再就職は国王への弁済労働をするためのものとみなされるために可能になる。
最大の受け入れ先だった王宮は余剰人員を調査・整理する関係で雇用が凍結されている。
王宮敷地内における弁済労働ができない場合は王都内、それでも難しい場合は王都外で弁済労働に従事する。
どこで弁済労働をするかは重要で、待遇に差が出る。
最も待遇がいいのは王宮敷地内における弁済労働で、生活水準が上の方で労働単価が高く、短い期間で弁済を終えやすい。
また、弁済終了後もそのまま継続して働くことができるというのもかなりの魅力だ。
他の場所では労働単価が低いことから期間が長くなり、弁済終了後は継続して働くことができない。自力で再就職先を探さなければならなくなる。
「まずは新設される王宮省の下部組織に一部を引き取らせる」
王家予算を減額するため、王宮省を改革することになった。
これまでは行政組織が入る建物等に関わる業務及び人員、いわゆる侍従侍女や召使い等は全て王宮省が雇用しており、経費や給与は全て王家予算からの支出だった。
それを下部組織に移行させ、その経費を丸ごと統治予算からの支出に切り替える。
下部組織の設立は来年からだが、段階的に人員の移動や実務を実行していくことになっていた。
ここに後宮の者達を斡旋し、初動人員を多めに確保させる。
「でも、全員は無理だよね?」
「当たり前だ。別の案も必要になる。そこで、王太子府の下部組織を作ってはどうかと思っている」
「どんな組織でしょうか?」
シーアスが渋い表情で尋ねた。
王太子府の下部組織ということであれば、王太子府の予算で賄うことが前提になる。
王太子府の財務負担が増してしまうということだ。
「あくまでも一案ではあるが、食堂だ」
誰もが愕然とした。
エルグラードを統べる王太子の言葉とは思えなかった。
少なくとも、政治的な組織ではない。
食事を取る場所ということだが?
レストランということか?
平民が利用する飲食店のことですか?
部屋を食堂として貸し出すわけじゃないよね?
官僚食堂への対応でしょうか?
多額の新規費用がかかる組織ということか?
厨房も必要?
メンバーの頭の中に疑問符が浮かんだ。
次は(二)です。明日更新します。
国を統治することが専門のクオンが予想外のことを言い出しました。
会議の行方はどうなることやら……?
またよろしくお願い足します!





