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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
88/1356

88 ノースランド伯爵夫人



「ご挨拶を。ノースランド伯爵夫人です」


 ヨランダが小声でそう言われ、リーナはハッとした。


「リリーナ・エーメルと申します。お会いできて光栄です!」

「ロジャーが短期の客を連れて来ると言っていたけど、この子ね。年齢は?」

「十九歳です」

「ロジャーとは親しいの?」

「恩人です」

「どんな恩人なの?」


 リーナはヨランダを見つめた。


「お仕事関係のご縁ではないかと。詳しくは存じません」

「どういう縁なの?」


 リーナはもう一度ヨランダを見つめるが、すぐに目をそらされてしまった。


 それは助けられないということ。


「……成人したので自立しようと思いました。祖父がロジャー様と話し合い、こちらで礼儀作法について勉強することになりました。私もその程度しか聞いていません」

「そう。ところでヴィクトリア、なぜ倉庫を開けてドレスを運ばせているのかしら? 見たところ、リリーナに着せているようだけど」

「アデルが体調不良なの。だから、リリーナをオペラの付き添いにするわ。勉強になるでしょう?」

「私が衣装を選んであげるわ」


 衣装選びが大好きなノースランド伯爵夫人はにっこりと微笑んだ。


「……そう言うと思ったわ。でも、急がないとサイズ直しができなくなるわ。付き添いだから控えめなドレスにしたいのに、私の古いドレスは派手なのよ。お母様のせいでね!」

「別に派手でもいいでしょう? 今夜だけだもの。誰かに紹介するの?」

「ボックス席を譲ってもらったから挨拶はするけれど、社交はしないわ。さっさと帰ってくるつもりよ」

「王立歌劇場?」

「そうよ。アデルのコネでとった席だから、絶対に行かないと。空席はダメだって言われたから、行儀見習いを一人連れて行こうと思って来たのよ」

「演目は?」

「悲劇よ。お母様は嫌いでしょう?」

「どの悲劇?」

「トルカの愛」

「最悪だわ!」


 ノースランド伯爵夫人はゾッとした。


 オペラは好きだが、悲劇は嫌いだった。


「そう言うと思ったからこそ、声をかけなかったのよ」

「ドレスを選ぶことについては問題ないわ。黒ね」

「悲劇だから黒という発想はやめて」

「だったら青にしましょう。涙の色よ」


 青のドレスが次々と運び込まれたが、ノースランド伯爵夫人はダメ出しした。


「青はやめるわ。白にしましょう。花嫁姿で死んでしまうのを忘れていたわ」


 着せ替え作業によって、ヴィクトリアもヨランダも侍女たちもすでに疲れを感じていた。


 ただ一人、着せ替え人形と化しているリーナを除いては。


「花嫁姿で死んでしまうのですか?」

「そうよ。リリーナはトルカの愛を観たことはないの?」

「ないです」

「とても可哀想な話なのよ。わざわざおめかしして外出したのに、オペラを観て悲しくなるなんて嫌だわ。でも、ヴィクトリアは悲劇が好きなの。ハッピーエンドや喜劇の方が楽しい気分になれるのに」


 ノースランド伯爵夫人は残念だと言わんばかりの口調でそう言った。


「リリーナも悲劇が好きなの?」

「知らないお話なので興味があります。でも、花嫁姿で死んでしまうのは可哀想です。どうして死んでしまうのでしょうか?」

「恋人と引き裂かれて、嫌いな相手と結婚するのが嫌だからよ」

「そうでしたか。でも、死ぬのはやめた方がいいと思います。生きていれば別の解決方法が見つかるかもしれません」

「可哀想な気分になって物語を味わうのがいいのよ。嫌いな相手と政略結婚したけれど、夫が金持ちで何不自由なく暮らした、なんてつまらないもの」


 ヴィクトリアはそう思ったが、母親の意見は違った。


「あら、別につまらなくなんかないわよ? 夫のお金を使って贅沢に何不自由なく暮らせばいいでしょう?」

「それだと純愛にならないでしょう?」

「現実なんてそんなものよ」

「これはオペラなの! 現実らしくある必要はないのよ!」

「それより、白いドレスはまだ?」


 侍女たちは一斉に白いドレスの用意に取り掛かった。



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