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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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788 リハーサル

 いつもありがとうございます。

 今回は断罪的なお話になりますので、苦手な方は読まないで下さい。

 よろしくお願い致します。

 大聖堂には王太子の結婚式でブライズメイドとサポートメンバーに選ばれた女性達が揃っていた。


「これより、ブライズメイド及びサポートメンバーへの説明及びリハーサルを行う」


 午前中、王聖堂で王家や聖職者の最終確認及びリハーサルがあり、その後は大聖堂に場所を変え、花婿の付添人への最終説明及びリハーサルが行われた。


 午後も大聖堂でブライズメイド及びサポートメンバーへの最終説明及びリハーサルを皮切りに、楽団と合唱団、結婚式の関係者との打ち合わせ及びリハーサルがある。


 夕方からは一般招待客からの質疑応答会もあり、王太子の結婚式に参列する全ての者達が完璧な準備を整えることになっていた。


 いくつもの予定をこなすためには各予定を時間以内にきっちりと終わらせる必要がある。


 王宮に集まった時点でブライズメイドとサポートメンバーには、重大責務を担い多忙の身である第二王子を絶対にわずらわせるようなことがないようにと厳重に通達されていた。


 それにもかかわらず、ブライズメイドのリハーサルが始まった途端、エゼルバードは不満をあらわにした。


「止まりなさい!」


 ブライズメイドとサポートメンバーから選ばれた花嫁の代理役による一団が止まった。


「表情が違います」


 護衛騎士に後に続くのはウェディングフラワーの担当になっているブライズメイド二名で、満面の笑みを浮かべていたことが問題だった。


「これは王太子の結婚式だ。客の機嫌を取るような催しではない。表情は引き締めろ。厳かに粛々と儀式を進めるのだ」


 ロジャーが細かい指導内容を伝え、もう一度やり直しになった。


 しかし、すぐに二度目の駄目出しが入る。


「下を向いています」


 ウェディングフラワーの担当が厳かに粛々と進めるために相応しくしようと思い、足元を見たことが注意された。


「うつむくな。視線を前方にして顔を固定しろ。聖壇まで真っすぐに進むだけだ。簡単ではないか」


 それだけでは終わらなかった。


「揃っていません」

「ブライズメイドは二人で一組だ。まずは左右で揃えろ。歩くタイミング、手の位置、呼吸するタイミングさえも全て同じにしろ」


 一組になっているブライズメイドだけで揃えればいいわけではない。


 ブライズメイドの全員が動作を揃えなければならないこともある。


「また花の担当だけが揃っていません。美しくありません」

「やり直しだ」


 しばらく後、


「駄目です」

「やり直せ」


 すぐに、


「顔を動かしています。花の高さが違います」

「固定しろと言ったではないか!」


 その後も、


「何度言わせるのですか? 揃っていません!」

「いい加減にしろ! ブライズメイドを務める栄誉を真に理解しているのか? 真剣にやれ!」


 ブライズメイド達は何度もやり直しをさせられた。


 失敗を重ねるウェディングフラワーを担当する者達へ向けられる視線は厳しくなり続け、雰囲気も悪化する一途をたどった。


 そして、ついに我慢できなくなった者がいた。


「いい加減にしてよっっ!」


 ラブだった。


「さっきから何度も何度も何度も……全部貴方達のせいだってわかっているの?!」


 ラブがキレたことで、同じく何度もやり直しをさせられている他のメンバー達も黙ってはいられなくなった。


「王家の婚姻式においてブライズメイドを務めることがいかに栄誉かをわかっているの?もっと真剣に、頭の先から指の先まで全身全霊を込めなさい!」


 ヴィクトリアの表情も口調も憤怒のそれだった。


「私達は非常に重要な儀式を懸命に支えなければなりません。花嫁の動作に全てを合わせなくてはいけないことをわかっているのですか?」

「ブライズメイドの全員が心と力を合わせて頑張らないといけないのよ!」


 カミーラとベルも強い口調で意見を発した。


 その場にいる全員から突き刺すような視線を受けたのは花の担当であるランズル伯爵令嬢マーガレットとエンディーロ伯爵令嬢のアンリエッタだった。


 二人はレーベルオード伯爵のいとこにあたる女性達の娘で、花嫁側の親族の女性としてブライズメイドに選ばれていた。


 マーガレットとアンリエッタはなぜ自分達がこれほどまでに叱責されるのかわかっていなかった。


 本人達としてはしっかりやっているつもりだった。


 それでも駄目だと言われてしまうのは第二王子が厳し過ぎるからと言いたいが、さすがに無理だ。


 だからこそ、同じ役割を務める相手のせいにした。


「アンリエッタ、いい加減にしてよ! 貴方のせいで何度もやり直しになっているのがわからないの?!」

「何を言っているの?! 駄目出しされているのはマーガレットの方でしょう!」


 同年代の親族同士ということもあり、二人の少女は遠慮なく相手を罵り合った。


 その光景が周囲の者達をより呆れされ、怒りをより高めさせた。


 駄目なのは片方だけではない。両方だ。


 しかも、マーガレットとアンリエッタはウェディングフラワーの担当同士として集まり、所作を揃えるための打ち合わせや練習を全くしてこなかったことが判明した。


「信じられないわ!」

「練習なしでリハーサルに望むなんて!」

「王家の婚姻におけるブライズメイドの重要性を理解していません」

「なめてんじゃないわよ!」


 サポートメンバーに選ばれた女性達も、さすがに王家の婚姻における重要な役割を任せられたにも関わらず練習をしてこないのはありえない、不敬だと非難した。


「静かにしろ!」


 ロジャーが怒鳴った。


「マーガレット、アンリエッタ、お前達は本当にレーベルオードの親族なのか?! 恥を知れ!」

「その二人はレーベルオードではない。ランズルとエンディーロであることがたった今はっきりとした」


 セブンの冷たい声が大聖堂に響く。


「変えないのか?」


 変えるに決まっているではありませんか。


 エゼルバードは冷笑を隠すようにため息をついた。


「サポートメンバーと交代しなさい」


 サポートメンバーはブライズメイドが病気や怪我で役目を務めることができない場合の交代要員だ。交代しなければ出番がない。


 サポートメンバーの者達はブライズメイドに抜擢されるチャンスが巡って来たと感じ、瞬時に気合を入れた。


「花嫁役も交代させなさい」


 花嫁役はラブが務め、サポートメンバーがブライズメイド役の配置に分かれてリハーサルを行うことになった。




 さすがに一度で全てを揃えるのは難しい。


 だが、サポートメンバー達はブライズメイド達が散々注意されていたのを見ていただけに、それぞれが組む相手の動作を注視し、必死に合わせようと心掛けた。


「サポートメンバーの方が優れているかもしれません」


 完璧だったわけではないが、注意や中断の指示を受けることがないまま聖壇の下まで到達することができていた。


「一回目でもあの程度には揃えられるということです。真剣に取り組む姿勢や懸命に合わせようとする努力も感じました。さすが、サポートメンバーに選ばれただけあります」


 エゼルバードは視線を変えた。


「だというのにブライズメイドの方は……四人は問題がなさそうですが、二人は確実に問題があります」


 その二人が誰なのかは明白だった。


「そろそろ時間では?」

「かなりの余裕を見積もっていたが、衣装の確認もしなければならない」

「では、もう一度だけブライズメイドのリハーサルをしましょう。問題が残る場合は楽団や合唱団と共に練習しなさい」


 ブライズメイドのメンバー交代はしないが、居残りで練習をするようにということだった。


 サポートメンバーががっかりしたのはいうまでもない。


 そして、ブライズメイドによる最終リハーサルが行われる。


 叱責や中断は一切なく、ブライズメイド達は聖壇の下まで無事到着することができた。


 しかし、


「不合格です」


 居残り練習が決定した。




 リハーサルの後は急いで大聖堂の中にある別室に移動し、ブライズメイド達が持ってきた衣装を確認することになった。


 ブライズメイドの衣装は基本的には王家が用意した白いローブドレスになる。


 白いローブドレスは事前に渡され、自分の身長に合わせて丈を直し、誰のものであることがわかりやすくなるような装飾をいれることを指示されていた。


 基本的にはタグの部分にフルネーム、襟元と袖口に出自や嗜好に合わせた植物や花の刺繍を控えめに施す程度だ。


 ブライズメイドは花嫁の引き立て役であることを考えても派手で目立つような装飾にはできない。


 タグに刺繍するフルネームは目立つように金か銀、襟元と袖口の刺繍は全てドレスと同じ白い刺繍だけにすることになっていた。


 しかし、


「嘘でしょう?!」

「ありえません」

「説明を聞いていなかったの?!」

「最悪だわ」


 マーガレットとアンリエッタのドレスはこれでもかといわんばかりの刺繍が全面に施されていた。


 しかも、白ではない。金と銀だ。


 タグの部分にあるフルネームの刺繍は白。指定された色が逆になっていた。


 ブライズメイドへの説明は情報漏洩を防ぐために書面による通知や資料等は一切なく、担当者からの口頭説明だけだった。


 そのため、わからないことや不安なことはどれほど些細なことであっても王子府の担当者に確認するように通達されていた。


 だが、マーガレットとアンリエッタは大体の内容は把握できたと思い、何も確認していなかった。


 そして、王家の婚姻におけるブライズメイドの衣装がただの白いローブドレスであるはずがない。豪華で立派なドレスのはずだという思い込みにより、勘違いしていることに気付かなかった。


「この衣装は間違いなく不敬です」


 マーガレットとアンリエッタの表情は完全に青ざめていた。


「そ、それは仕立屋が」

「この方がいいからって」

「黙れっ! お前達が了承しなければ、このようなドレスになるわけがないではないか!」

「説明を聞かないばかりか、確認を怠ったからだ。言い訳は通用しない」


 マーガレットとアンリエッタは自分達のせいではないと主張しようとしたが、ロジャーとセブンに叱責された。


「貴方達をブライズメイドに選んだのはリーナを軽視する行動をしたことを深く反省し、改心したことを示す機会を与えるためでした。だというのに、わざわざ愚行を繰り返すとは……」


 エゼルバードは自らの計画が完璧であることに満足していた。


 リーナの足を引っ張る者は次々と湧いてくる。それは王太子や王家の足を引っ張るのと同じだ。


 反省と改心するように諭しても一時的に取り繕うだけで、すぐにまた愚行を繰り返す者もいる。


 ならば、しっかりと処分できるように、自滅する機会を与えてやればいい。


「マーガレットとアンリエッタはブライズメイドに相応しくありません。外します。そして、王家の儀式における重要な役を務めることになったにもかかわらず、真摯に取り組んでいないことがよくわかりました。不敬であるのは明白です。二人を連行しなさい」


 マーガレットとアンリエッタは騎士達によって素早く連行された。


「さて、これでブライズメイドの空きが二つできました。あのようにならない自信がある者は手を上げなさい。サポートメンバーから補充します」


 サポートメンバーの全員が迷いなく手を挙げた。


「では、じゃんけんで決めましょうか。最も簡単かつ公平です。その後は居残り練習ですが、恐らくはすぐに終わることでしょう。ここにいる者達は優秀でしょうから」


 新しいブライズメイドを決めるため、じゃんけんによる真剣勝負が始まった。



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