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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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775 ケーキと気持ちと

「私のケーキも細部まで考えました。ぜひ、ご覧になって下さい」


 カミーラがデザインしたのはピンクのマカロンが飾られた三角錐のタワーケーキだった。


「リーナ様は慈悲深く、他者を気遣う気持ちを忘れません。そこで、多くの者達に配りやすいようにマカロンを飾り付けることにしました。薄いピンクが女性らしさと優しさ、幸福のイメージを連想させます。アイシングもレースのように繊細なデザインにして、花嫁や結婚のイメージに合わせました。薔薇色の人生という意味も込め、飾り付けはバラの花に。とてもロマンティックなケーキになったと思います」

「本当に素敵! さすがカミーラだわ! リーナ様にぴったり、といいたいところだけど、カミーラの嗜好もひしひしと感じられるわね!」


 妹は姉を見習った。


 ベルはカミーラのケーキを褒めつつ、自分のケーキの紹介へ誘引することにしたのだ。


「私のデザインしたケーキはタワーじゃなくて、とても大きな丸いケーキよ!」


 ベルのケーキは何段も重なったようなものではなかったが、巨大な丸いケーキだった。


「さすがにこれを一気に焼き上げることができるかまどはなくて、実際には分けて焼いたものなの。それを最終的に一つにくっつけて巨大なケーキにしたってわけ。レモンクリームで仕上げたのは満月だから。リーナ様が王太子殿下から贈られた指輪がモチーフになっているの!」


 巨大な円形のケーキは確かに薄い黄色で、満月のように見えた。


「それから、わかりやすいようにピカピカにしたわ! 喜びに輝く甘酸っぱい満月ケーキよ!」


 ケーキの上には金粉によって星々のきらめきを感じさせるような模様が描かれていた。


 他のケーキに比べ高さはなくともその巨大さと黄金の装飾による豪華さが十分に感じられる逸品だ。


「次はアリシアのかしら? 沢山ケーキがあるから説明だけでも時間が経っちゃうわね!」

「そうですね。ですが、全員がそれぞれに趣向を凝らしたものを特注しました。説明しないわけにはいきません。私はリーナ様が非常に好まれているミルクチョコレートのケーキです」


 アリシアのケーキはリーナの好物であるミルクチョコレートを使用したケーキだ。


 表面は白い生クリームにチョコレートで植物柄の模様がついているため、全てが茶色というわけではない。祝福のイメージを強調するため、あえて茶色を抑えることにした。


 但し、中のスポンジはミルクチョコレート味で茶色になっている。


「飾りつけはチョコレートで植物を描き、ホワイトチョコレートで作られたスズランの花とパール、白と金のリボンをあしらいました。レーベルオード伯爵家の晩餐会のデザートはチョコレート味が定番だとか。リーナ様が心から大切にされている家族、レーベルオードらしさを感じさせるケーキに仕上がったと思います。最後はクローディアが考えたものです」


 アリシアは時間を考慮し、非常に簡単な説明だけにして最後のクローディアにバトンタッチした。


「私が用意したのはグリーンケーキです」


 クローディアのケーキは緑色で正方形だった。


「王太子殿下の色は緑。リーナ様を強く優しく見守る色でもあります。そこで、東の国で愛飲される抹茶と呼ばれるグリーンティーの一種を使用した緑色のケーキを注文しました。クリームと共に甘く煮た豆と栗をトッピングしました。様々に異国情緒が感じられる珍しいケーキですので、勉強にもなるかと。正方形にしたのはリーナ様の真面目な性格と王太子殿下の公平さを感じさせる形だと思ったからです。以上です」


 クローディアの説明も非常にまとめられたものだった。


 月明会のメンバーが用意したケーキ全ての紹介が終わる。


「リーナ様、どのケーキをお召し上がりになりますか?」


 全員がリーナに注目した。


 ラブはリーナの大好物がイチゴのショートケーキだと知っている。それだけに自信満々だったが、他のメンバーもそれぞれがリーナの好みに合わせて趣向を凝らしていた。


 どれも素晴らしいのは間違いない。


 リーナはなかなか答えを言えなかった。言いにくかった。


 なぜなら、考えていたのはどのケーキを選ぶかでも、美味しそうかでもなかった。


「本当に素敵なケーキばかりで……一生懸命考えてくれた皆の気持ちがどんどん伝わってきて……」


 リーナの声はだんだんと小さくなった。


 そして、気持ちに呼応するかのように涙がこぼれ落ちた。


「嬉しくて……胸がいっぱいで……ありがとうございます。本当にありがとう……」


 リーナは嬉しかった。


 その気持ちがどんどん膨れ上がっていく。


 幸せいっぱいにそびえたつケーキ。


 愛に染まったケーキ。


 優しさが詰まったケーキ。


 輝く喜びのケーキ。


 大切な家族を感じさせるケーキ。


 異国情緒に溢れた珍しいケーキ。


 見れば見るほど、そこにあるのはリーナへの気持ちだと感じた。


 結婚を祝うブライダルシャワーを開いてくれるだけでも嬉しくて堪らないのに、次々と示される気持ちのこもった贈り物、祝福、笑顔はリーナの心を満たした。


 幸せも涙も溢れ出して止まらない。


 一つだけを選ぶことはできなかった。


「全部食べます。どれも食べてみたいです、皆と一緒に……!」

「最初にどれをご用意すれば?」

「一番先に渡されたものから食べます!」

「えーっ?! じゃあ、早く用意させないとっ!」


 ラブは大声で給仕を呼んだ。


「私のケーキを最初に持ってきて! 命令よ!」

「会長命令です! 私のケーキを先にしなさい!」

「狡いわ!」

「狡いのはラブです!」


 ラブとヴィクトリアが競っている間に、カミーラとベルは素早く自分のデザインしたケーキの元へと移動した。


 カミーラのケーキはマカロンで飾り付けをしてある。


 ケーキを切り分けるためには時間がかかるが、外側に張り付けられるように飾られたマカロンであればすぐにトングで小皿に取れる。


 マカロンの中にはふわふわのスポンジ片とクリームが詰まっているため、マカロン一つだけでもしっかりとケーキとして味わえるようになっている。


 ベルのケーキは一見すると巨大だが、実際には小さなケーキの寄せ集めだ。


 巨大すぎて切り分けるのが大変になってしまうことから、スポンジ部分は一人分ずつ切り分けてある。


上部のレモンクリームやデコレーションはすでに切り分けてあることがわからないように隠し、一つの巨大なケーキに見せるためのものだ。


 トングかケーキサーバーで一番端の部分を小皿に移せばいい。一人分を簡単に用意できる。


「リーナ様、これを!」

「リーナ様、どうぞ!」


 カミーラとベルは給仕に任せるよりも自分で取りに行った方が早くリーナに届けることができると思った。姉妹で競い合う形になることも予見していた。


 しかし。


「二人とも、残念だったわね」


 アリシアが悠然と微笑んでいた。


「一番は私よ」


 アリシアがデザインしたケーキのある場所は近かった。


 そこでアリシアもまた自らケーキの場所に素早く移動し、フォークで豪快にケーキの一部分をすくいあげ、それを小皿に乗せた状態でリーナへと届けていた。


「クローディアじゃなかったのね」


 ケーキの場所が一番近かったのはクローディアだった。


 移動する必要がほとんどないため、自分でケーキを切り分ければ一番早くリーナに届けることができるとクローディアは確信していた。


 だが、正方形のケーキだけに、きっちりと公平に分けようと考えてしまった。


 端だけを適当に切り分けようとしなかったため、全体からどの程度の大きさにすべきかを計っている間にアリシアが移動し、ケーキサーバーで綺麗に切り分けている間にアリシアが戻って来てしまった。


「まさか元王太子付き筆頭侍女がフォークでケーキを切り取るとは思いもよりませんでした」


 表面的には感情を隠していたものの、クローディアは悔しがっていた。


 かつては王太子付きと第二王子付の筆頭侍女として比べられた仲でもある。


 自分はまだ現役であり、場所的にも有利なことから勝ちたかった。


「王太子殿下はとてもお忙しい方だから、何をするにもスピードと臨機応変さが重要だったのよ」


 アリシアは勝者の笑みを崩さなかった。


「ケーキの美しさはすでに鑑賞済み。そして、求められているのは美しく切り分けたケーキではなく、食べるためのケーキよ」


 アリシアはただケーキを早く届けることだけを考えていたわけではなかった。


「全種類のケーキを食べるのであれば、大きくカットされたケーキを届けるのは配慮不足です。そこで、一口大程度のものを味見として届けるのが適切だわ。フォークですくえばより適量になると判断しただけのこと」


 ケーキを食べるほど満腹度が高くなり、後半に届いたケーキは食べにくく、美味しさも感じにくくなってしまう。


 リーナは全員の気持ちが込められた全部のケーキを食べたい。美味しく。


 それを考慮し、以降に食べるケーキも全て美味しく食べることができるように適量を見極めて全体量を減らす配慮をしたという説明だ。


 完敗だとクローディアは思った。


「さすがですね。女官になってしまったのがとても残念です。アリシアが侍女を止めてしまった後は、張り合いのある相手がなかなか見つかりません」

「私は侍女同士ではなく月明会のメンバー同士になれたことを喜んでいるわ。他のメンバーは全員侍女としての仕事を経験していない分、感覚や価値観の差が多くあるかもしれないわ。その点、私達は共に侍女としての経験があるからこそ、何も言わなくても通じ合える部分もあるはずよ。とても頼もしいわ」


 クローディアはアリシアの言葉に眉を上げた。驚きをあらわしている。


「……そうかもしれません。ゼファード侯爵令嬢とノースランド伯爵令嬢を見ると余計にそう思います。完全に配慮がないというよりも、遠慮がありません」


 全員の視線がラブとヴィクトリアに向けられた。


 二人は自らリーナに差し出すため、給仕に用意させたものを受け取っていた。


 小皿ではなく盆で。


 ラブとヴィクトリアは一人分として切り分けたものではなく、最上部分のホールケーキを盆に載せて持って来るように指示を出していた。


 当然のことながら、一人分にしては多すぎる。


 他の者達とそのケーキへの配慮も全くない。


「ティアラを壊して持って来いっていうの?! ありえないでしょっ!」

「人形を見て欲しいのよ! 細部までこだわった芸術的な砂糖細工よ!」


 二人は悪びれることもなくホールケーキが乗っている盆をリーナへと差し出した。



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