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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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770 まだ木曜日

 木曜日の朝。


「おかえりなさい!」


 ラブはリーナの部屋に姿をあらわすと叫んだ。


 部屋でラブが来るのを迎えたのは自分のはずなのにとリーナは思いつつも答える。


「ありがとうございます。もしかして、私が不在の間もここへ来ていたのですか?」

「まあ、色々あって王宮には来ていたわ」


 ラブは不敵な笑みを浮かべた。


「ゆっくり過ごせた?」

「はい。とても素晴らしい時間を過ごせました」

「良かったわね」

「ラブもなんだか凄く嬉しそうです。いいことがありましたか?」

「今日が待ちきれなくて!」


 ラブは嬉しさを抑えることができなかった。


「何かあるのですか?」

「一緒に外出するのよ!」

「一緒?」

「リーナ様と私よ!」


 リーナは驚いた。


 結婚式が着々と迫っているだけに、王宮に戻ってまたすぐに外出予定があるとは思っていなかった。


「結婚式に関係するようなことですか?」


 すでに王聖堂の下見はしている。馬車も試乗した。


「後でわかるわ」

「外出許可は取りましたか?」


 カミーラやベルが一緒にいるのであればともかく、部屋に来たのはラブ一人。


 誰にも何も言わずにこっそり出かける予定だと困る。


「王太子の許可は事前に貰っているわよ」


 王太子はしぶしぶではあるものの許可を事前に出している。


 なぜなら、婚姻日までの期間における花嫁の不安を軽減し、マリッジブルーを防ぐための企画だからだ。


 そして、当日も邪魔はしないと思われた。


 王太子は水曜の夜から独身さよならパーティーに参加して朝帰りをしているはずだ。つまり、リーナが出かける時刻は寝ている。


「でしたら外出着に着替えないとですね」

「お忍びの外出だから一旦後宮に行って着替えるわ。前にもそうしたでしょ?」

「フロスト・フラワージェの時のような装いなのでしょうか?」

「レーベルオード伯爵家が用意した外出着に着替えるからよ。後宮の衣裳部屋にあるでしょ」

「でしたらこちらに取り寄せるよりも、私が後宮に移動した方がよさそうですね」

「じゃあ、早く行きましょ!」


 リーナはラブに急かされて後宮へと向かった。




 後宮では多くのリーナ付き侍女が待ち構えていた。


 すでに外出することや着替えること、レーベルオード伯爵家が用意した外出着にすることなどは伝えられており、リーナの支度は短時間で仕上がった。


「やっぱり後宮で着替えた方が全然早いわね。王宮までいちいち取り寄せる時間が勿体ないわ!」


 ラブは時計を見ながら後宮の侍女達の有能さを褒めた。


「王宮の方には衣装部屋が少ないとか。ですので、基本的には王宮に住まわれるとしても、後宮を衣裳部屋のようにご利用いただくことも可能かと」


 室長に昇格したヘンリエッタは恭しく頭を下げながら進言した。


 これは単にリーナにとって有益だという話ではない。後宮の部屋付きである自分達の存在意義を認めて欲しいからこその言葉だった。


「まあね。でも、婚姻後は王宮の催しが多くなるわ。そうなると王宮で着替えた方がいいし、後宮の衣装部屋はただの倉庫になりそうよね」


 ラブのぶっちゃけた発言は後宮の侍女達を落胆させた。


「ここだけの話だけど、後宮の人員はどんどん削減されるわ。来年度の後宮予算はかなり縮小されるみたい。新規雇用も長期的に凍結するらしいわよ」


 後宮にいる者達はなんとなくそういった話があることを知っており、推測もしていた。


「ここだけの話でございますが、早期退職者の希望を募るというお話を聞きました。その場合は退職金で借金等を清算でき、多少の残額があっても不問になるようです」

「なんとかして後宮の方も穏便に人員を縮小したいのよ。でも、リーナ様付きの者達は慌てる必要はないわ。リーナ様が後宮を利用される以上、解雇対象外だから。でも、他の侍女達に言わないようにね。妬まれるわよ」


 解雇対象は後宮の者達全員ではない。国王の側妃付きをしている侍女達さえも対象に含まれているが、リーナ付きの者達だけは除外されている。


 それを知れば間違いなく他の者達に妬まれるに決まっていた。


「わかりました。リーナ様付きの者達を集めて内密に通達します」

「まだあるわ。リーナ様付きの者が解雇や退職になっても、その分の補充はないわよ。マリリーが更迭された時もヘンリエッタが代理を務めて、そのまま室長に昇格するだけだったでしょ? そんな感じで内部処理されるわ。今いる者達同士で足を引っ張り合えば、助け合える仲間が減るだけってことも忘れずに通達しておいて」

「はい」

「また何かあったらこっそり伝えるから」

「貴重な情報をありがとうございます」

「いいのよ。私達は全員リーナ様のためにいるわけだし。ただ、裏切り者は容赦しないわ。ヘンリエッタの監督責任にもなるから気を付けてよね。最悪コレだし」


 ラブは首に手を近づけ、横に引いた。


 その動作は勿論クビである。解雇だけではなく、処刑の意味も含んでいた。


「マリリーの一件で肝に銘じております。失態なきよう精いっぱい務める所存です」

「じゃ、そろそろ行きましょ!」


 ラブは元気よくそう言ったものの、部屋の空気はかなり重苦しかった。


 リーナはなんとかできないかと感じ、笑顔を振りまいた。


「私も問題を起こさないように気を付けますね。全員で気を付ければ困ったことが起きてもきっと大丈夫です!」

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、私達がしっかりと仕事をすればいいだけです。それよりも、恐らくは婚姻前の最後の外出になるかと思います。どうか楽しまれて下さいませ」

「ありがとう。じゃあ、行ってきますね」

「いってらっしゃいませ」


 リーナは笑顔で軽く手を振った後、ラブと一緒に部屋を退出した。


 その姿を見送ったヘンリエッタ以下の侍女達は深い一息をついた。


 それは落胆ではない。


 リーナの支度を素早く整えて送り出すという仕事を完遂できたことへの安堵だった。


 そしてもう一つ。


 リーナは言った。自分も気を付ける。全員で気をつければ大丈夫だと。


 リーナは侍女だけでなく、自分も含めた全員で問題が起きた時は乗り切ろうと思っている。それはつまり、自分と侍女達は別だといって切り離してはいないということだ。


 全員で力を合わせる。支え合う。侍女達だけに責任を押し付け、見捨てるようなことはしない。


 リーナ様の優しさを感じられるからこそ、頑張ることができる。信じられる。これからもずっと。


 そう思ったのはヘンリエッタだけではない。リーナ付きの侍女達全員だった。





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