77 それぞれの主導権
第二王子の執務室。
「次から次へと面倒ですね」
キフェラ王女が講義を長期に渡って欠席しており、側妃候補の条件を満たしているとは言えないことがパスカルによって王太子に報告され、それがエゼルバードにも伝わった。
「ミレニアスの件についてはこちらで手綱を握りたい。仕方がないだろう」
外交はエゼルバードの担当分野。
しかも、エゼルバードはミレニアスに短期間留学した経験があり、ミレニアスの王太子と親しくしている。
その関係でミレニアスのことで何かあった場合はエゼルバードに知らせ、対応することになっていた。
「愚かな王女ですね。兄上の妻になりたくてエルグラードへ来たはずですが?」
「最初はそうだったかもしれない。だが、冷遇されて気が変わったのではないか? 留学という名目での息抜きと買い物を楽しんでいるだけかもしれない」
エゼルバードの表情は瞬時に冷たくなった。
「兄上に無礼です。消えてしまえばいいというのに!」
「フレディもそう思っている」
フレディというのはエゼルバードとロジャーの友人で、ミレニアスの王太子フレデリックの愛称で、姉のキフェラ王女との仲は非常に悪かった。
「フレディはいつ到着するのですか?」
「国境は越えているが、王都に来るにはまだかかる」
「キフェラ王女の超過支出分をフレディから回収しなさい」
「嫌がりそうだが?」
「だからこそです。交渉が有利になります」
ロジャーはすぐに理解した。
先にキフェラ王女の件で金を払えとフレデリックに要求し、嫌なら別の要求を飲むように話す。
フレデリックは姉王女に関わりたくないと感じ、別の要求を了承する。
「些細なことでも手札が多いに越したことはありません。フレディが来るまでに使えそうなことを調べて報告しなさい」
「わかった」
ロジャーは頷いた。
エゼルバードの抜け目のなさは幼少より知っているが、最近は特に冴えわたっている。
後宮の医療費の件は、ロジャーでも驚くほどの鮮やかさだった。
「そういえば」
エゼルバードはふと思い出したように言った。
「リーナの本当の名前はリリーナでしたね?」
「それがどうした?」
「少し気になっただけです」
「何か思いついたのか?」
「気になっただけといったはずです。どこかで聞いた名前だと思いましたが、珍しい名前でもないのでね」
「そうか」
「思いつきました」
「なんだ?」
「新しいのを淹れてください」
「コーヒーか?」
「グリーンティーがいいです」
常備していない飲み物はすぐに用意できない。
ロジャーは侍従を呼ぶために呼び鈴を鳴らした。
第三王子による後宮の違反者の捕縛作戦が終了した。
重度の違反行為で処罰を受けた者は解雇。軽度の処罰は降格や罰金になり、多数の者が処罰された。
後宮は組織内の変更を行うことで再発を防止することを約束したが、王太子や弟王子たちを納得させることはできなかった。
王族会議で何度も話し合われた結果、国王は後宮の一部エリアを閉鎖し、規模を縮小することを決定した。
そして、すぐに削減できる予算の一部は、今回の件で手柄を立てた第三王子の要望もあり、国軍への補正予算に充てることになった。