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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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765 告白タイム

 余興によって笑いが溢れ続ける。


 誰もがこの特別なひと時を心から楽しんでいた。


 だが、三次会の目的は学生時代の思い出や秘密の暴露に花を咲かせることにある。


 まずは学生時代によく楽しんだ余興をすることで思い出話に入りやすい流れを作り、頃合いを見て幹事達がクオンの結婚やリーナのことを話題にするつもりだった。




「ここだけの話、本当に自分で選んだ女性なのだろうな?」


 はっきりと確認するため、リカルドが尋ねる。


 誰もがクオンに直接本当のことを問いただしたいと思っていただけに、強い視線がクオンへと集まった。


「自分で選んだ」


 クオンははっきりとした口調で答えた。


「平民の孤児だった女性を私の妻にどうかと薦める者はいない」


 その通りだった。


 クオンが自ら選ばなければ誰も推薦しない。いや、推薦できない出自の女性だった。


「だが、側妃だ。どうしてだ?」


 クオンは複数の妻や愛人を持つことによって様々なパワーバランスを取るような方法を否定していた。


 妻は一人。愛する者だけでいい。そう決めていることも知っている。


 ならば、なぜ正妃ではないのかと思うに決まっていた。


「正妃にしたいと言ったが、経歴のせいで反対された。話し合いを重ねて側妃にする許可は得たが、それ以上を望むのは難しい状況だった」

「そりゃそうだ」

「むしろ、よく側妃にできたと思った」

「こういっちゃなんだが、猛烈に驚いた。よくそのような女性を選んだというか、知り合えたというか」

「そうだな。普通は接点がない」

「出会わなければ、妻に選びようもない」


 しかし、クオンはリーナと出会った。


 どのようにして出会ったのかはすでに公表されている。


 王立美術館や国立美術館の特別展、新聞等の記事にも載っているため、国内外に広く知られていた。


「まずは一歩、前進することが重要だと思った」

「本当に愛しているのか?」

「そうだ」


 クオンは迷うことなく答えた。それが友人達に最も伝えたいことだった。


「リーナ以外の女性を妻にする気はない。一生、リーナだけだ」


 クオンの言葉は真実であり、事実であり、決定だった。


「だからこそ、すぐにヴェリオール大公妃にする」


 クオンの妻が一人であっても、側妃という立場が不安定だ。正妃にもっと身分の高い出自のいい者がいいと思う者達はいなくならない。


 しかし、ヴェリオール大公妃の称号があれば周囲の反応は変わる。ただ寵愛されているだけの女性ではないことを証明し、強い牽制になる。


「すでに子供がいるのか?」


 婚姻後すぐにヴェリオール大公妃の称号を与えるだけに、誰もが考えることだった。


「子供はいない。結婚するまでは手を出さないと約束した」

「くっ!」

「うっ!」

「ぐはっ!」

「ぶはっ!」

「まだ清い関係かあ」

「クオンらしい」

「そうだと思ったが……」

「予感的中」

「まあ、人それぞれだからな」


 クオンの真面目で誠実な性格はよく知っているだけに、結婚までは何もしないだろうという予感はあった。


 しかし、そうでない可能性を完全に否定するつもりもなかった。


「さすがに手はつないだか?」

「そこからかよ!」

「さすがにエスコートはするだろう」

「恋人つなぎのことではないか?」

「クオンのことだ。順番通りに進めるに決まっている」

「誠実さのあらわれだな」

「教本通りともいう」

「身分的にも慎重な方がいい」

「今はどの辺だ?」

「キスはしていた」

「堂々とな」

「五千人に見せつけた」

「愛の音楽を奏でさせる演出までした」


 音楽会でこれみよがしに見せつけたという意見が次々と出る。


「意外と進んでいる」

「ディープキスはしたのか?」

「したんじゃないか?」

「長かったよな」

「長さで判定するのか?」

「だったら清くない!」

「いや、清い!」

「セーフだ!」

「アウトだ!」


 友人達が騒ぎ出す。


 クオンは勝手にしろと思ったが、そうはいかなかった。


「みんな聞いてくれ。実はさっき、ヘンデルのグラスに秘密を告白したくなる飲み物を入れておいた」


 ただの酒である。


 リアムはワインのボトルを掴み、もっと飲めと言いながらヘンデルのグラスに注いでいた。


「さすがリアム!」

「よくやった!」

「ヘンデルなら何でも知っている!」


 リアムの発言により、場が一気に盛り上がる。


 更に、


「私もヘンデルのグラスにリーナという女性のことを話したくなる飲み物を入れた」

「私もその様子を黙って見守っていた。うまくいったと思った」


 リカルドとアイギスがそう言うと、友人達は拍手を送った。


「色がそんな感じだと思った!」

「ピンクだったしな!」


 ただのロゼワインである。


「シュワシュワしていたな!」


 発泡酒だった。


「もうこれでヘンデルは秘密を喋りたくなってしまうな!」

「よし!」

「待っていた!」

「秘密の暴露コーナー!」

「ヘンデルの独白コーナー!」

「告白ターイム!」


 酔っ払い達は嬉しそうにはしゃぎ、ヘンデルを標的として定めた。


「さあ、話せ!」

「喋ってしまえ!」

「話せ話せ!」

「楽になるぞー!」

「告っちゃおうぜっ!」


 リアムとリカルドに挟まれた場所に座っていたヘンデルは苦笑した。


 この手の流れは過去に経験済みである。


 結婚する友人を祝うパーティーで、グラスに秘密を告白したくなる飲み物(酒)を入れたと宣言し、そのせいで(酔って)喋ってしまったという言い訳にする。


 隠していることを話しやすく、または追及しやすくする雰囲気を作るためでもある。


 そして、結婚する友人と相手とのなれそめや交際中の出来事を紹介(暴露)したり、本心ではどう思っているかなどを告白したりするのだ。


「あー、ヤバイなあ。意識が朦朧としてきて……寝そう?」


 ヘンデルは誤魔化した。これもお約束である。


「寝るな!」

「そっちじゃない!」

「水を飲ませろー!」

「目が覚めるような不味い水を飲ませろー!」


 ヘンデルは水を飲んだ。


「不味いなあ。やっぱり酒の方が美味しい」

「これで完全にしゃべりたくなってしまったな!」

「まさか?!」

「また入れたのか!」


 ただの水だということは全員が知っている。あくまでもノリと演出だ。


「謀ったな!」

「うははははっ!」


 ヘンデルは大きく息を吐くと、申し訳なさそうな表情をした。


「ごめん。何だか喋りたくなってきた、かも?」


 誰に向けての謝罪なのかはわかりきっていた。


「まあ、でも、みんなの気持ちはよくわかる。俺も信じられない気持ちというか、意外過ぎる相手を選んでびっくりしたというか」

「だろうな」

「うんうん」

「わかるわかる」


 相槌が続く。


「だってさあ、よりによって平民の孤児というか、召使いというか……茨の道じゃん?」

「だなあ」

「とげが太過ぎる」

「多すぎるな」

「傷だらけになりそうだ」

「下手したら致命傷だ」


 大醜聞。王位継承権を失う可能性もゼロではない。


「でもやっぱりクオンだった。険しく困難な道だとわかっていても、信念のままに突き進む選択をした」

「さすがクオン!」

「信念を貫く男の中の男!!

「不屈の男!」

「偉大なる者!」

「高潔なる者!」


 次々とクオンを賛美する声が上がった。


「本当に色々あったんだよね。でも、ようやくここまで来たって感じ」

「色々とはなんだ?」

「そこをもっと詳しく!」

「全然わからない」

「伝わってこない」

「もっとちゃんと話せ!」

「クオンの力になるためだ!」


 なんだかんだと理由をつけるが、ようするに聞きたい。知りたいのだ。


「偶然会ったって……そこから始まったんだよね」


 ヘンデルが語り始めた。



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