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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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763 ピンクの謎

 二次会が終わった。


 三次会に参加する権利がある者は非常に少ない。


 終わってしまった! 


 三時間もあったのに!


 号泣しても反抗しても結果は変えられない。


 クオンが三次会を心から楽しむことを願いながら、二次会までの者達は一階へと移動した。


「本日はお疲れ様でございました!」

「お土産をご用意しております!」


 大ホールでは騎士達が声を張り上げていた。


「馬車の用意には時間がかかります! 受付をして整理番号と土産の引換券を貰って下さい!」


 大勢の者達が一気に帰ろうとすれば、いくら臨時の対策が施されているとしても時間がかかる。


 そこで待っている間に常設展示室の奥まで移動して土産を受け取る。


 これは大ホールに馬車待ちをする者やなかなか帰らない者で混雑するのを予防し、土産を受け取った者がスムーズに馬車へ乗れるようにするための処置でもあった。


 受付を済ませた者達が常設展示コーナーへと進み、長い行列を作っていく。


 展示を軽く見ることでも時間を潰せるが、列の進みは早くも遅くもなかった。


「すぐに土産を受け取って下さい!」

「受け取る時以外は立ち止まらないで下さい!」

「数種類ございますが、一つだけお選び下さい!」

「最初に触れたものになりますので、ご注意下さい!」


 声を張り上げているのは第二王子騎士団の者達ばかりで、土産を渡す役を務めているのは第二王子の側近であるジェイル達だった。


 監督するようにエゼルバードもいる。その両脇をロジャーとセブンが固めていた。


 多くの者達は大人しく騎士達の指示に従っていたものの、ついにそれを破る者が現れた。


「美しいな」


 第二王子の友人枠で二次会までの参加権を得ていたミレニアス王太子のフレデリックは、異国の装いをしたエゼルバードの姿をじっくり見るために立ち止まった。


「進みなさい。後ろがつかえています」


 エゼルバードは微笑んでいるが、口調は命令形だった。


「姿絵が欲しい」


 一次会のエゼルバードは儀礼用のローブ姿だったが、今の装いははるか東にある異国の民族衣装だった。


 裾が床につくほど長いガウンは前部分で斜めに重ね合わせ、巻き付けた腰布で留められている。その上には広い袖口をしたマントのようなのコートを羽織っていた。


 ロジャーとセブンを始め、他の側近達も同じような東の異国の民族衣装を着用しているが、エゼルバードの白い民族衣装には金糸と銀糸だけでなく真珠までもが縫い付けられている。


 異国の王族が着用するような最高級品にエルグラード風の刺繍と真珠を取り入れ、より豪華で美しくなるようにアレンジしたものだった。


「ポニーテールも似合い過ぎる。異国風の髪飾りも同じく」

「さっさと受け取らなければ土産はなしだ」


 ロジャーが言うと、フレデリックはジェイルが差し出している盆に視線を変えた。


「どれでもいいのか?」

「数種類あるが一つだけだ。最初に手で触れた箱になる」

「直感で選ぶのはエゼルバードらしい趣向だな」


 フレデリックは盆の上に並んでいる小箱の一つを取った。


「ここで開けるな」

「中身によっては誰かと交換すればいいか」

「私は断る」


 横でシャペルの盆から箱を選んだローワガルンの大公世子ハルヴァーはさっさとフレデリックを置いて先に進んだ。


 ハルヴァーの弟であるルーシェもすぐに小箱を選んで兄の後を追う。


 フレデリックは移動しながら箱を早速開けようとしたが、騎士に止められた。


「申し訳ございません。別の部屋で開封していただけますようお願い申し上げます」


 エゼルバード達がいるだけに、フレデリックは舌打ちをしただけだった。


 次の部屋まで移動するとすぐに箱を開ける。


「……チャームか?」


 フレデリックの友人兼側近であるウィリアムが中身を確認した。


「成婚記念の硬貨ですね」


 私的な結婚式及び昼食会は私的な催しになるため、その費用は全て王家が負担する。


 しかし、夜に行われる披露の舞踏会及び婚姻関係の支出、特に警備費用が莫大になる。


 そこで臨時の財源にするための記念硬貨が販売されていた。


「今回の成婚記念の硬貨はギニー札でしか買えないそうです」


 エルグラードが新規に発行するギールは紙幣、ギニーは硬貨のみになっている。


 旧時代に発行されたギールの硬貨は金貨や記念硬貨といった特殊なものしか使用できないことになっているが、ギニー紙幣は今も使用可能であることからなかなか回収が進んでいない。


 そこで王太子の成婚記念の硬貨を販売する際の支払いをギニー札だけに限定することで、国内に出回っているギニー札を多少なりとも回収できるのではないかと考えた。


 貴族や裕福な者ほどギール札を使用するため、ギニー札を手に入れる機会がない。銀行に行ってもギニー札への交換・両替は一切して貰えない。


 個人や商人などの所有者から手に入れるしかないことから、ギニー札が本来の貨幣価値以上の値段で取引される状況も生まれていた。


 ギニー札の回収が進まないのは国民、主に低所得や地方の者達がかたくなに使用を続けているせいだと思われていたが、多くの商業関係者がギニー札の回収に非協力的だったという実態も判明することになった。


「手に入りにくいのか?」

「多少は。ですが、今の時期であればギニー札を高値で売りさばこうとする者が多くいます。所詮は金さえ積めばなんとでもなります」

「さほど価値はなさそうだ」

「そうともいえない」


 そう言ったのは同じく箱を開けていたハルヴァーだった。


「記念硬貨は複数ある」


 国内で数多く販売されているのは合金製の硬貨だが、土産として配られたのは金貨だった。


 金の相場で価格が変動するとはいえ、記念硬貨というプレミアが上乗せされる。


 発行枚数、投資目的やコレクションとしての人気がどの程度になるかという予想はしにくいが、純粋な金貨としての価値が保証されていることから短期の価値は下がりにくく、上昇していく可能性の方が高い。


「金貨は元々の価格が高い。しかも、これを手に入れるには大量のギニー札が必要になる。販売枚数が伸びにくく、相対的にコレクションとしての価値が上がるかもしれない」

「話題にもしやすいですし、今後を期待させるという意味で良い土産だと思いますよ」


 ルーシェが会話に加わった。


「ただ、気になることがあります。説明では数種類あるということでしたが、開けて見ると同じものばかりでした。偶然、同じものを引き当ててしまったのでしょうか?」

「少なくとも二種類以上あるはずだが、他の者達がどうだったのかがわからないことにはな」


 すでにフレデリック、ハルヴァー、ルーシェは開封済みで同じものだった。


 視線がウィリアムに集まる。


「……リボンの色は違いましたが」


 小箱は全て白で同じ大きさだったが、リボンの色は数種類あった。


 一つだけ選べるという説明だけに、中身が数種類という意味ではなく、好きな色のリボンのついた箱を選べることを示している可能性もあった。


 実際、リボンの色で箱を選んだ者もいるはずだ。


「普通は中身のことだろう」

「常識的にはそうだな」

「中身を確認されては?」


 面倒だと思いつつも、ウィリアムはポケットに入れていた小箱を取り出した。


 その途端、全員の表情が動く。


「ピンクにしたのか?」


 リボンの色である。


「面白い選択をしたな」

「ピンクを好んでいるのでしょうか?」


 好奇の視線と冷やかしもまた集まる。


「フレディの後を急いで追うため、手前にあったものを取っただけです。リボンの色で選んだわけではありません」

「だが、ピンクだぞ?」

「手に取る者は少なさそうだ。パーティーの参加者は全員男性だからな」

「最後の方はピンクのリボンがついた箱しか選べないかもしれませんね」

「ピンクを女性用の色だと決めつける必要はありません。幸せの色だという者もいます」


 そう言いながらウィリアムが箱を開ける。


「おい」

「これは」

「当たりですね」


 箱の中にはやはり成婚記念の硬貨が入っていたが、サイズが違った。一回り大きい。


「大きさが違うのか」

「数種類の意味がわかって良かった」

「当たりですね」


 三人の口調は変わらないが、絶対に悔しがったり羨んだりしていることをウィリアムは察知していた。


「交換は拒否します。私に訪れた愛と幸福のチャームですから」


 成婚記念の硬貨の表にはバラの花と『愛を贈る』という言葉、裏にはスズランの花と『幸福を贈る』という言葉が刻まれていた。


 王家とレーベルオード伯爵家の花とその花言葉を王太子とリーナに見立て、王太子がリーナに愛を贈り、リーナもまた王太子に幸福を贈るという意味が込められている。


 成婚記念だけに縁起を良くするのは当然だが、政略ではなく純粋に愛で結ばれた二人が幸せになることを予感させるデザインは最高にロマンチックで芸術的な成婚記念硬貨、愛と幸福のコイン、チャームとして国民にもてはやされていた。


「ピンクのくせに生意気だ」


 フレデリックの言葉には明らかに悔しさが含まれていた。


「ピンクのリボンの箱が当たりだったのだろうか?」

「だとすれば、ピンクを選ぶべきでしたね」

「後半にピンクのリボンがついた箱ばかりが残り、全てが当たりということであれば、残りものには福があるということになります」

「それもエゼルバードらしい趣向だな」

「東の国のことわざが好きなのはセイフリードですよ?」

「エゼルバード達は東の異国の装いをしていた。ヒントだったのかもしれない」

「取りあえず、他にピンクを選んだ者はいないのか?」


 フレデリックは付近を見回した。


 騎士が大ホールへの移動を促しているため、人が少ない。


「大ホールに行こう。土産や中身について話題にしている者達がいそうだ」

「そうですね」


 ピンクのリボンと当たり箱の関係性を調べるため、四人は急ぐようにして大ホールへと向かった。



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