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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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761 最凶と最強

 ビンゴ大会が始まった。


 だが、クオンには関係ない。食事を取ったり小休憩をしたりするための時間だ。


 すでに花婿の付添人になることが決定しているヘンデルも同じはずだったが、食事をしつつもちゃっかりとビンゴ大会に参加していた。


「揃ったあああっっ!」


 ヘンデルが勢いよく手を挙げる。


「ヘンデルかよ!」

「マジか……」

「お前、必要あるのかよ?!」


 ヘンデルが当てたのは国王主催の昼食会の参加権で、ビンゴ大会に参加する多くの者達が狙っていた賞品だった。


 しかし、ヘンデルはすでに国王主催の昼食会に側近として参加することが決まっている。ビンゴ大会の賞品を別の者に譲ることは禁止されているため、全く必要のない賞品が当たってしまった。


 但し、その際の対応は考えられており、別に用意された賞品が当たるくじ引きと交換することができるようになっていた。


「どんな賞品があるんだ?」

「ヘンデルが引けばわかる」


 ビンゴ大会の賞品は全てわかっているが、くじの賞品についてはわからない。


 多くの者達が見守る中、ヘンデルは箱の中にあるくじの一つを取った。だが、


「これは駄目な気がする。別のにしよう」

「お前はー!」

「早く引けー!」

「見分け方を知っているんじゃないだろうな?!」


 ヘンデルはビンゴ大会の担当ではないため、くじ引きの賞品については知らない。


「じゃあ……これ!」


 ヘンデルが引いたくじを担当の騎士が受け取った。


「ヴィルスラウン伯爵が当選した賞品は……」


 注目が集まる。


「最高級トイレットペーパー百年分です!」


 正確には三万六千五百個の最高級トイレットペーパーが貰える。


「いらねーよ!」

「間違いなくハズレだな!」

「最初のくじにしておけば良かったんじゃないか?」

「変更が裏目に出たな!」


 友人達に笑われながら、ヘンデルも苦笑した。


「まあでも、旅行とか当たっても休みが取れねーってなるよりはいいんじゃん? トイレットペーパーだけは不自由しない人生が約束されたかも」

「百年分だからな」

「使い切る前に死にそうだ」

「言えてる」

「あー、でもこれって他人に譲ることはできない系? 絶対に自分で使用しないと駄目なんかね?」

「それは困りそうだ」

「縛りがあるのは面倒だな」

「無駄になりそうだ」

「実家で使うのはセーフか?」

「常にトイレットペーパーを持ち歩いて使い続けろ!」

「ペン先を拭け」

「テーブルの上にインクをこぼした時にも活用できるな」


 様々な意見が飛び交う中、騎士が譲与可能かどうかを確認することになった。


「……お待たせしました。確認したところ、くじ箱で当てた賞品については他者への譲与も可能とのことです。但し、転売で儲けるような行為はお控え下さい。あくまでも無料で手に入れた賞品ですので、無料のまま譲与することを推奨します」

「トイレットペーパーで儲けられるかよー!」

「はした金だ」

「一応最高級品だけどな」

「じゃあ、どこかに寄付するよ。冬は慈善活動の季節だ。クオンだって切手の収益を孤児院へ寄付するし、俺も見習わないといけないって思っていたからさ」


 ヘンデルの選択は友人達を驚かせ、大いに称賛された。


 その後、同じようにクジ箱の賞品で消耗品を当てた者は慈善・教育・医療施設など有用だと思われるところに寄付することを表明した。




 ビンゴ大会が終わると、一階で行われていた予選が終わり、本選へ進むメンバーとその組み合わせが決まったことが知らされた。


 アイギス、リカルド、リアムの三人も無事本選に進んでいる。


 優勝するかどうかはわからない。一人程度であればともかく、三人共優勝する確率は相当低い。


 だが、この三人は優勝するのが当然と自惚れるだけの能力を十分に兼ね揃えていた。




 まずは知の競技。


 一階の特別企画展の内容に関するクイズの正解数を争う内容だ。


 参加者はカンニング防止のために目隠しをされ、〇か×かの札を挙げて答える。


 問題は特別企画展を見ていなくても答えられそうなものから始まったが、だんだんと難しくなっていく。


 四人での決勝戦は早く手を挙げた者に解答権が与えられる形式で、非常に難解な質問が続出した。


 リカルドは問題内容がしっかりと把握できると同時に手を挙げて正解を答え、他の者達との圧倒的な差を見せつけて優勝した。


 クオンがどのような女性を妻に選んだのか気になって仕方がなかったリカルドは、婚約発表の後からリーナやレーベルオード伯爵家に関する情報を集めるように指示し、こまめに報告させていた。


 また、王立美術館や国立美術館の特別企画展にもお忍びで来訪し、販売されていたカタログを全て暗記するほどに読み込んだ。その成果が思わぬところで役立つことになった。




 次は力の競技。対戦による勝ち抜け方式だった。


 対戦者二名はそれぞれ平均台に上がる。両手で大きなクッションを持ち、相手を攻撃したり防御したりしながら平均台から落とす。落ちなかった者が勝者になる。


 力が試されることは間違いないが、攻撃し続ければいいとは限らない。スピードやバランス感覚、どこを狙うかといった戦略的要素も加わる。


 リアムは様々な武器を使いこなすことで知られているが、運動神経が抜群で柔軟性も高くスピード勝負にも強い。


 勝負開始と共に細長い足場の上をふらつくことなく素早く移動し、クッションを自在に操りつつ相手のバランスを崩すような戦法を駆使して優勝した。




 最後は運の競技。


 参加者は中が見えないようになった箱からトランプのカードを二枚引く。その数字を合計して多い方が勝つ。合計数が同じになった場合はもう一枚のカードを引いて足すというシンプルなルールだ。


 競技というよりもただの運試しといった方が適切だが、強運を発揮し続けられるかの根競べでもあり、難易度は極めて高い。


 アイギスはなぜか一枚目のカードはどれもが低い数字だったが、必ず二枚目は高い数字のカードを引き当てて勝ち上がっていく。


デーウェン人はなかなか本気を出さないと揶揄される状況をまさに体現しているといってよかった。


 そして、決勝戦。アイギスは後攻だった。


 先攻者はジャックとクイーンで合計が二十三。アイギスは十とキングで二十三。合計数が同じのため、もう一枚のカードを追加することになった。


「よっし! 貰ったあああっっ!」


 先攻者のカードはキング。つまり、アイギスもキングを引かなければ負けになる。


 四枚あるキングのうちすでに二枚は出ている。そのことを考慮すると、キングを引き当てるのはかなりの運が必要だった。


 見守る者達の多くはアイギスが負けそうだと感じた。


アイギスは特に表情を変えることも迷うこともなくカードを引く。


「キングです!」


 審判役の騎士は驚きに目を見張りながら叫んだ。


「信じられん!」

「うっほー!」

「決勝戦に相応しい戦いだ」

「こいつら、マジで運が良過ぎるだろう!」


 すでに見ている者達はトランプのカードを引くだけの戦いに夢中になっていた。


 更にもう一枚のカードを引くことになる。


「クイーンです!」

「高い!」

「これは厳しい!」

「クイーンなら同じでもう一枚。キングなら勝てる」

「キングは残り一枚しかないぞ?」

「さすがになあ」


 相手が高い数字のカードを引いたことで、アイギスの勝率は一気に下がったといっていい。


 だからこそ、友人達はアイギスを応援した。困難な状況に追い込まれた友人を見捨て、嘲笑するような者はいなかった。


「アイギス、頑張れ!」

「最後まで諦めるな!」

「デーウェン人の本気を見せろ!」

「こうなったら意地でもキングを引け!」

「クイーンでもいいぞ!」


 さすがのアイギスも分が悪いと感じたのか、少し考えた後に応えた。


「クオンも応援してくれないか? もしかすると、いいカードが引けるかもしれない」


 しかし。


「勝者も敗者も私の大切な友人だ。どちらも応援する。ここにいる全員で勝者を祝福し、敗者の健闘を称えよう」


 賛同の声と拍手が響き渡る。


「クオンのおかげで気が楽になった。どんな結果になっても、友人達からの拍手を得られる」


 アイギスは箱の中から一枚のカードを引いた。


 驚愕の表情と声が会場中に沸き上がる。


「キングだ!」

「ハートのキングだ!」

「嘘だろー?!」

「信じられん!」

「強運過ぎる!」

「やべーよ、マジこいつ運がいい!」

「勝利の女神ならぬ王に恵まれた!」


アイギスは嬉しそうに笑った後、ふと思い出すような仕草をした。


「そういえばレーベルオード伯爵家の者達とバレエを鑑賞した際、レストランの占いでハートを得るという結果が出た。もしかすると、ハートのキングのことだったのかもしれない」「デザート皿の占いか!」

「レーベルオード伯爵家との親しさをアピールか?」

「絶対に自慢だ!」

「わざとらしい!」

「こじつけだ!」


 アイギスを応援していた友人達は態度を翻し、遠慮することなく叫んだ。


 だとしても、アイギスの強運と優勝は揺るがない。


 最後はリカルドとリアムと共に、優勝者への盛大な祝福と拍手を受け取った。


「やっぱりあいつらヤバイ。最凶で最強の三人組だなあ」


 ヘンデルのぼやきにクオンは無言のまま頷いた。


 だが、これで最悪の状況は回避された。何かありそうだと懸念していたが、案外普通に過ごせそうだ。


 クオンはそう思いながらワインの入ったグラスを傾けた。



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