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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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753 男性達の部屋(二)

 先に退出したインヴァネス親子を見送った後、レーベルオード親子はもう一度ソファに座り直した。


 互いに無言のまま様子を伺い、二人同時にため息をつく。


「……何か飲みますか?」

「そうだな」


 パスカルは立ち上がると用意されているワゴンから酒を選び、グラスに注いだ。


「どうぞ」


 パスカルが選んだのは最も度数がある酒だった。


 今の気分に相応しい選択だとレーベルオード伯爵は思った。


「あのような話をされるとは思いませんでした」

「どの話だ?」

「まずは母上のことでしょうか。妹扱いするとは……」

「気に入らないのか?」

「いいえ。相変わらず母上は何もわかっていないと思っただけです」


 レーベルオード伯爵がインヴァネス大公妃を妹扱いしたことに対し、インヴァネス大公夫妻は喜んでいた。


 離婚した妻を妹として迎え、再婚相手やその息子と共にもてなすというのはかなりの待遇であり、恩赦に等しいと思ってもおかしくない。


 しかし、パスカルは本当の意味を理解していた。


 インヴァネス大公妃はパスカルの生母として、離婚した後も『元レーベルオード伯爵夫人』を名乗る権利と直系家族の一員としての序列と待遇を許されていた。


 レーベルオード伯爵の『妹』になれば、『元妻』ではなくなる。


 パスカルの生母という事実は変えようもないが、レーベルオードにおける序列と待遇は各段に下がってしまうのだ。


「リリアーナは単純明快で普通だと感じることを真実だと思っている。私達と同じように考え、世界を見ることができない。だが、それでもいい。誰もが特別さに幸せを見出すわけではない。普通であることが幸せだと感じ、安堵する者もいる。それと同じだ」

「そうですね」


 パスカルは頷いた。


「他にも聞いておきたいことがあります。インヴァネス大公とは本当に親しくされるのですか?」

「お前とリーナのために役立つのであればな」


 やはりとパスカルは思った。


 父親は冷静に有益さを計り、感情論に流さず、大局を見ている。


 それは過去の呪縛を乗り越えたからだが、それだけでもはない。


 リーナを娘として迎え、新しくなったレーベルオード伯爵家を守りたいという想いと責任感がより強まったからだ。


「私も聞きたいことがある。体調はもう大丈夫なのか?」


 父親は息子の不調を気にしていた。


 パスカルが王宮に常駐している医者ではなくレーベルオード伯爵家お抱えの医者の診断を受けたため、当然のごとくそのことは父親に報告されていた。


「熱は下がりました。さすがに仕事をし過ぎたようです。そのせいで休みを取れと言われたのかもしれません」

「絶対に無理をするな」

「わかっています。ですが、やるべきことも多くあります。それができなければ、今の立場を失いかねません」


 パスカルは王太子の側近と第四王子の側近を兼任している。リーナが婚姻すると、ヴェリオール大公妃付側近も兼任することが内定している。


 一時的なものだが、いずれはどこに身を置くかを選択する。王太子が。


 恐らくは、第四王子の専任になる。だが、簡単に王太子やリーナにかかわるだけの地位と権利を失いたくもなかった。


「私が助力する。予算の件で評価は上がったはずだ」

「あの件は助かりました。おかげで新年早々王子府に飛ばされずに済みます」

「だが、第四王子から離れるのも惜しい。兼任として留まり続けろ」


 王太子府には優秀な者達が揃っている。ゆえに、王太子府内で自分だけの大きな功績を上げるのは非常に難しい。


 上司や先輩がいれば、その者達の補助業務になってしまい、自分の手柄といえるほどの成果を上げることができない。


 本来であれば他の場所で実績を作り、それを理由にして王太子府に異動するのが望ましい。だが、パスカルは外務省における実績を十分に作り上げる前に引き抜かれてしまった。


 このままでも王族の側近としての地位は守れるかもしれない。だが、一つ間違えば妹が王太子に嫁いだことを理由にされ、中央権力の座から強制的に離される可能性もゼロではない。


 だからこそ、第四王子の側近になったことは大きなチャンスだった。


 これから成人する第四王子には何の実績もない。だが、功績を上げれば、それはパスカルが支えたからだと誰もが思う。


 キルヒウスやヘンデルの功績を支えるだけでは十分な功績にはならないが、第四王子の功績を側近として直接支えたことは間違いなく大きな功績になる。


「第四王子は優れている。第一の側近であり続けるだけで、お前はすでに功績を保証されている」

「第一の側近として相応しくなければ、殿下は容赦なく僕を罷免するでしょう。成人すればその権利があります」

「第四王子の気性は激しい。ある程度の機嫌は取る必要があるが、あまり好き勝手をさせるな」


 第四王子は独特の考え方を持っている。時には多くの者達には受け入れられないような方法も、平然と決断してしまうと思われた。


「第四王子を諫め、王太子と同じ方向を目指すよう軌道を常に注視する者が必要だ。お前は適役だろう」

「そうありたいのですが、ここへ突撃されたこともあります。まだまだ力が及びません」


 パスカルは深いため息をついた。


「僕の把握していない交流関係と資金もあります。父上が情報を得ているのであれば教えていただけませんか?」

「知る必要はない。お前は表を管理すればいいだけだ」

「では、裏を知っているのですね?」


 パスカルは鋭い視線で父親を見つめた。


「殿下に何かあれば僕の責任が問われます。だからこそ知っておきたいと思うのは間違いなのでしょうか?」

「これ以上忙しくなってどうする? いかにお前が優秀であっても限度がある。構うな」


 父親の判断を覆すだけの理由がパスカルにはなかった。


 これ以上過労で体調を崩すわけにはいかない。婚姻後は重要な会議が続く。


 第四王子の立場から言って後から追加予算を要求することは難しいため、新年度の予算が確定するまでは油断できなかった。


「わかりました。確かに今は余裕がありません。僕自身が確実にすべきことを優先します」

「まだある。セブンとはつかず離れずにしておけ」


 突然過ぎる注文にパスカルは眉をひそめた。


「なぜです?」

「花の催しは必ず裏の情勢に影響を与える。情報産業も新規の成長が著しく勢力争いが激しい。状況よってはウェストランドと交渉するかもしれない。ルートの一つだ」

「セブンにはあまり近づきたくありません。王太子殿下が過敏に反応されます」


 王太子がセブンを嫌がるのは『死神』だからではない。期待に応えようともせず、見切りをつけるかのように王太子府を去ったからだ。


 忠誠心がない。そのような者を信用できるわけがない。


 だが、王太子もまだ若く、セブンの状況を詳細に把握していたわけでもなかった。


 リーナのことに絡み、一時期はより悪い状況になっていた。しかし、それも少しずつ変化の兆しを見せている。


 ラブがリーナに近づこうとしているものの、セブンは離れた状態を保ち続けている。


 明確に距離を取るという対応を王太子が評価しているのは確かだった。


「上手くやれ」


 パスカルはもう一度ため息をついた。


「では、離れ過ぎないようにはしておきます」

「もう一つある。王太子派の貴族からシャペルを守ってやれ。恩を売れば、必ず対価を支払う」

「金銭的な対価になると思いますが?」

「第四王子の小遣いを増やすのに活用すればいい。裏の資金に頼るほど友人や暗躍する者達の力が強くなる」


 資金は裏で調達するのではなく、表から調達してわからないように裏に流す。


 そうすることで表の優位性、つまりはパスカルという存在の重要度を保つことができる。


「わかりました。殿下が自由に使える資金を僕の方で確保します」

「機密費ではない。予算については王太子が精査を求める可能性がある。可能な限り足がつかない金にしろ。シャペルはその辺りも心得ている」

「あくまでも小遣いですね」

「そうだ」


 休みは始まったばかりだが、二人だけの時間を活用しないわけがない。


 レーベルオードの話はなかなか尽きなかった。





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